──♪とーしーのはーじめーのーためしーとてー

「……ねー竜児ぃ、私眠くなってきちゃった……」
「おう……俺もだ……」
 高須家のアパートの居間にて。
 テレビからは紅白の締めの一月一日が賑やかに流れている。
 とっくの昔にコタツに突っ伏して寝ている泰子を横目に、大河はもぞりと身じろぎをした。
「せっかく初めてあんたと迎える年越しなのに、このままだとやっちゃんにつられちゃう。
 竜児、何かして。何か目が覚めるようなこと」
「何かって何だよ、むちゃ振りもいいとこだ……
 だいたい、お前が膝の上にいるから一歩も身動きとれねえじゃねえか」
「背中が寒いんだもの。 座椅子のクセに生意気言うんじゃない。」
「お前ねえ……」
 恋人のあぐらの上でも傲岸不遜の“膝乗り”タイガー様である。
 どうでもいいが、その小さな尻で始終もぞもぞされると妙な反応をしそうで恐い。 竜児はため息をついて、目の前の大河のつむじにグリグリと顎を押し付けた。
「おら、おら」
「痛っ、やめてよそれ地味に痛い!」
「したぞ“何か”。 目ぇ覚めたか?」
「ふーん……そういうこと言うんだ。 ……うりゃ!」
「ひえっ!」
 冷えた指先を襟元に突っ込まれ、竜児が身をよじる。 暴れる竜の上でロデオのようにバランスを取り、大河はさらにもう片手も突っ込んだ。
「てりゃっ!」
「ぬあー!」
「どうだ参ったか!」
「そ、そっちがその気なら俺だって!」
「にゃー!」
 もつれた二人はバランスを失って倒れ込み、にわかに起こった首元触り合戦、終結。
「はあ、はあ……、何やってんだ、俺たち」
「だ、だから、“何か”でしょ……」
 至近距離で顔を見合わせ、どちらともなくブッ、と吹き出す。
 抱きしめ合った姿勢のままゲラゲラと笑っていると、テレビから重たい鐘の音が響いてきて。
「……来年もよろしくな、大河。」
「こちらこそ、ふ、ふかかつものですが……」
「それを言うならふつつかだろ。 つーか嫁入りの挨拶だそりゃ」
「!……いずれそうなるからいいのよ!」
 またそうやってごまかす、と言おうとして止め、竜児はその寒さと照れでぷっと膨れた頬を手の甲で撫でた。
「──大河。」
「りゅう、じ……」





 ──ぱしゃっ。

『!!!』

「撮ーっちゃったー撮っちゃったー♪ 竜ちゃんと大河ちゃんのラブラブちゅっちゅ撮っちゃったー♪」
「や、泰子!? いつから起きて……」
「二人がぁー、イケナイことし始めたあたりからですぅー♪ もう、やっちゃんもいるのにダ・イ・タ・ン♪」
 あれは単に首元を触っていただけだ、という言い訳はさらに誤解を招きかねない。 言葉に詰まった竜児のかわりに、我に返った大河が泰子に飛びかかる。
「や、やだー! やっちゃんそれ保存しちゃいやー!」
「ダーメ♪ 結婚式まで大事に取っておいてぇー、でっかい画面でみんなに見せちうんだからー♪」
「んきゃー!?」

 揉み合う義親子をよそに、もうすぐカウントダウンが始まる。
 ──来年もこんなふうに、賑やかで良い年になりますように。
 そう願いながら、竜児は母親の乳に埋もれた婚約者を救い出すべくゆっくり立ち上がった。





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