ホワイトデーも過ぎて、商店街は次の桜のディスプレイに変わりつつある。
 三寒四温。昨日の暖かさと打って変わって、今日は、今にも雪に変わりそうな氷雨。
「かのう屋」で買った食材が入ったエコバッグを右肩に担いで竜児は家路を辿った。

大河が新しい家族の元に旅立ってもう1ヶ月が過ぎた。
泰子と2人だけの静かな日常は、とても物足りない。炊きすぎてしまう米。作りすぎてしまう大皿料理。メニューも大河が好む物。
たった10ヶ月間の半同居生活。でも大河が残していった物は大きい。
 
 大河がいなくなってしまった事を悲しんでいるのは竜児だけではない。
「大河ちゃんがいつ帰ってきてもごはんが食べられるようにしておくのでガンス。」
泰子がそう強く主張したので、ちゃぶ台の定位置には、いまも大河の茶碗とお椀、そして湯飲みが並べられる。
竜児が並べるのを忘れると口を尖らせて怒るのだ。
「うちは3人家族なんだよ!」と。
 
 大河とは、毎日、朝と夜の2回メールをしている。電話はしない。それが、大河が決めたルールだった。竜児の声を聞いたら帰りたくなる。携帯電話代は新しいパパが出してくれているからパケット代も抑えないと。寂しそうに大河は言った。
 去年の春、初めて出会った時の、傲岸不遜を絵に描いたような不機嫌な子虎から考えると著しい進歩だ。

 いつか、大河は必ずこの街に帰ってくる。俺はその時を信じている・・・・。
そう、竜と並び立つものは虎なのだ。



作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system