今、バスの中はふたりきり
肩に身をまかせたこの子の長い髪の毛が少しこそばゆい
こういうローカルのバスはくつろげるからいい
都会のバスではこんな風にはいかないな
ふと思い、自分もオヤジ臭くなったものだと苦笑する

・・んっ・・・りゅーじぃ・・・

顔にかぶさった髪の毛を耳にかけるようにして顔を出してやる
寝息が深くなる
こうしていると、この子が本当に信用してくれていることを実感する

ぷしゅーっ

老夫婦が入ってくる
くすぐったそうに微笑みながらこちらを見てきた
軽く会釈をする
自分たちも老いていくのかと思い、まだ先の話かと思い直す

きゃあきゃあわぁわぁ

窓の外で子供達が遊んでいる
ああ、いいな
大人になった今じゃ、あんなに無邪気に笑えない
ふと思い、またおかしくなる
老父母がそれを微笑みながら愛おしそうに見つめている
自分たちも子供ができるのだろうか
これは、そんなに遠くない話だ
ふと不安になる

・・・すぅー・・・

あ、そうか
この子のがいれば大丈夫だったな
ん?!
大丈夫か?
まあいいか


なぜだろう
田舎は人を感慨深げにする

・・・・・りゅーじぃ・・・・・

ふふっ、また言った

ん、どうした? たいが。

反応するはずがない
分かっているけど答えてみる
優しい声で答えてみる

・・・むにゅ・・・むにゅむにゅ・・・

髪を撫でる
ああ、この子の髪の匂いは落ち着く

・・ふぅ・・・

また寝息が深くなる

かんかんかんかん

遠くの方で踏切の音が聞こえる・・・


そんな午後のひととき





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