「ねえ竜児」
「おう、どうした?」
「わからないんだけど、なんで鍋にお米の研ぎ汁なんかとってあるわけ? いくらあんたがMOTTAINAIが身上のエコセコ犬だからって、アレ飲むわけじゃないでしょ?」
「それはだな大河、今日の晩飯が風呂吹き大根だからだ」
「? なんで大根と研ぎ汁が関係するの?」
「作ってりゃわかる。ほら、まずは大根を輪切りにして」
「厚さはこれぐらい?」
「おう。で、厚めに皮を剥く。一つ俺がやるから、よく見とけよ」
「う、うん」
「包丁はあまり動かさずに、大根の方を回していくんだ。上下に少しずつ動かしながらな」
「えっと……こ、こう?」
「そうそう、上手いじゃねえか」
「えへへ……で、これを茹でればいいのね?」
「いや、まだだ。まずは面取りをしねえと」
「……めんとり?」
「角を少し削って、煮崩れしにくくするんだよ。それからこう、片面に半分ぐらいまで十文字に切り込みを入れる」
「それは何の意味があるの?」
「隠し包丁っていってな、こうしてやると中心まで味が染みやすくなる」
「へー」
「で、ここで出てくるのが米の研ぎ汁だな。こいつで下茹でしてやることで大根のアクが抜けるんだ」
「なるほど……」
「弱火で30分ぐらい茹でたら、あとは出汁で炊いて出来上がりだ」
「じゃあ後はほぼ待ってるだけ? 簡単なのねー」
「まあな。だけどまだ終わりじゃねえぞ」
「へ?」
「さっきの大根の皮をキンピラにするだろ、あと風呂吹き大根につける練り味噌も作らなきゃならねえ。大河は味噌より鶏そぼろの餡かけのほうがいいか?」
「ちょ、ちょっと待って! 今習った分ノートに書いちゃうから!」

「なあ大河」
「んー?」
「そのノートさ……名前だけなんとかならねえか?」
「何でよ、悪い?」
「いや、悪くはねえけど……その、人に見られたら恥ずかしいじゃねえか」
「他人に見せるつもりなんて無いんだから構わないじゃない」
 言いながら大河が閉じた表紙に書かれたタイトルは、『およめさんノート』。
「お、おう……」



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