「おう、大河。今日はずいぶん遅かったな?」
「うん、ちょっとね」
「飯の仕込みは全部終わってるんだが…今日は先に風呂洗ってきていいか?」
「別にいいわよ。待ってるから」
「悪い。じゃあちょっと待っててくれ。あ、ついでですまんがインコちゃんに菜っ葉をあげといてくれ。台所にあるから」
「りょうかーい」

「はぁ、ばかちーのおかげでなんとかチョコは元通り…ううん、チョコペンで文字も書いてあるしアーモンドも入った、元以上のものになってるわ」
「た、たい…が」
「それにしても…帰りがけに言われたアレはなによ!?そんな恥ずかしいことできるわけ…ない…じゃないのよ」
「たいが、な、なな、な…」
「あーはいはい菜っ葉ね。ごめんねブサ鳥、今あげるから…」
「大河…なん、でだよ…」
「……え?」
「たい、が。今日お、れに、ち、ちょこ、ちょこくれな、かった」
「これ…」
「櫛え、だとか、わ嶋はくれたのに、たい、がは、くれなかった。た、たたのしみ、にして、たのに」
「竜児の…独り言?」
「な…なあ、い、ンコちゃ、ん。お、俺、なんかわる、いことした、かな?大、河にきらわれ、るようなこと、し、たか、な?」
「竜児………まったく…あいつは………」

「ふー、お待たせ大河。すぐ飯にすっから…」
「竜児!」
「おうっ!?な、なんでおまえ微妙に怒ってんだよ!?」
「あんた、女々しすぎよ!そんなに私が信用できなかったの!?」
「た、たたい、が。ちょこ、くれ、れな、かた」
「イ、インコちゃん!な、なんであんな短時間で、しかも一発で俺の独り言を覚えてるんだよ!?」
「私だって昼間のうちに渡したかったわよ!わ、私が…どんな思いで昼休み、あんたたちを見てたか…うぅ…ぐすっ」
「た、大河?おいおいどうしたんだよ、なんで今度は急に泣き出す!?さっぱり話が見えないぞ!?」
「うえぇーーーん、りゅうじーーーー!!」

「ごちそうさま!美味しかったわ、いつもありがとう!」
「…なるほど、朝転んだ拍子に割れちまってたのか、チョコ。」
「うん。だから昼間のうちに渡せなかったの」
「んで、気まずくて俺と一緒に帰らないで教室に残ってたら、事情を聞いた川嶋が作り直すのを手伝ってくれたのか」
「うん。このチョコペン、あいつが用意してくれたの。元々私が作ったのはシンプルな奴だったし」
「『竜児へ、いつもありがとう、大好き!』…か。おう、ありがとうな、大河。二人には悪いが、櫛枝と川嶋のチョコより、やっぱりおまえのチョコが一番嬉しいぞ」
「…うん。えへへ…」
「明日、川嶋にお礼しないとな。なんか簡単に焼き菓子でも作って学校に持って行くか」
「うん、そうね。……あ、あとね、竜児。も、もう一つ、渡したいものがあるの!」
「…もう一つ?」
「そ、そう!準備に時間がかかるから、竜児の部屋借りるわ。いい?私がオッケーって言うまで、絶対に開けちゃだめよ。開けたら…消す!」
「お、おう…わかった。ここで待ってりゃいいんだな?………しっかし、なんだってんだ?鶴の恩返しじゃあるまいし…」

「い、いいわよ!入ってきなさい」
「お、もういいのか?そんじゃ入るぞ。いったいどうし―――――」
「……り、竜児……」
「―――うわぁぁぁぁぁぁぁばかやろおまえなんつーかっこしてやがるんだはだかにりぼんでおれのべっどにねころがるってどこのらぶこめまんがだ!!!!!」
「竜児!?落ち着いて!セリフが全部ひらがなになってるし句点がないから読みづらい!」
「川嶋だな!こんなこと吹き込んだの川嶋だな!?つーか、とりあえずその毛布でいいからかけてくれ!」
「あ…、う、うん」
「まったくあいつは…なに考えてやがるんだ」
「あ、あのね、ばかちーがね、『裸にリボンでも巻いて、チョコと一緒に私もた・べ・て♪って言やぁ高須君もいちころりんってなもんよ』って言ってね…」
「そのプランをそのまま採用するおまえもどうかと思うがなぁ…。いいか大河、俺はそんなことされなくたって、いつでもおまえを一番愛してるし、そ、その…」
「な、なによ?」
「…今日はバレンタインデーだろ?…こ、こういうことを、期待してなかったといえば、嘘になる」
「え?…きゃっ!…ぁ……こら、いきなり抱きしめるなんて反則よ…この色ボケエロエロ犬」
「し、しょーがねーだろ。おまえが…可愛すぎるのがわりーんだ」
「…っ!……ばか………不意打ち禁止よ…」
「大河…」
「竜児…」

「ギシギシアンアン!ギシギシアンアン!」
「…りゅうじぃ…どうしよう…」
「イ、インコちゃん、頼む、頼むから静かにしてくれ!」
「ま、まぁ…全部擬音にしてくれてるだけマシじゃない?一言一句流暢に再現されるよりはよほどいいわ」
「よかねーよ!泰子に聞かれでもしてみろ!『わーい、やっちゃんとうとうおばあちゃんになるのねー♪』とかなんとか言い出すに決まってるんだ!」

「竜虎ラブラブ将来安泰!これにて、あ、一件らくちゃくー!!」
「「流暢になるの、そこかよ!!」」




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system