「正月料理に関するあれこれ」

某年1月1日

「すっごい豪華ねー!おせち料理フルコースなんて生まれて初めてだわ!」
「おう、そりゃよかった。俺も今回は色々調べながら頑張って作ってみた甲斐があったよ。大河作のお煮しめもよくできてるじゃないか」
「花嫁修業の成果よ、ありがたく食べなさい!」
「おう、昨日うちのおばあちゃんに教えてもらいに行ったんだよな。具の種類も彩りもバッチリだ」
「ふふん、私が本気出せばこんなもんよ。来年は私が高須家の味をあんたに教えてあげるわ」
「よろしく頼むぜ。んー、しかし何かが足りないような気がするんだが…」
「…細かいことは気にしない。早く食べましょ!」
「そうだな、それでは」
『いただきまーす』


「どうだ、大河。京風の白味噌のお雑煮にしてみたんだが」
「すごくおいしいわよ。白味噌なんてほとんど食べたこと無いけどまろやかで舌触りも良くて。新しい味に目覚めたかも」
「そうか、俺も使うの初めてで苦心したんだよ。白味噌だけだと甘ったるくなっちまって扱いが難しいんだ。そこで出汁としょうゆを隠し味に入れてみた」
「ふむふむ、今度作る時は教えてね。おかわり!」
「はいはい。慌てて食うと餅ノドに詰めるぞ」


「ねぇ竜児」
「どうした?ニヤニヤして」
「お節料理の由来教えてよ」
「おう、お前からそんなこと聞いてくるなんて珍しいな。何からにするか…。そうだな、これなんかはお前も分かるだろ」


「鯛?…んーっと……めでたい?」
「正解だ。そんじゃ似たような語呂合わせモノで次はそのお煮しめの中の昆布巻きも当ててみな」
「えーっと、こぶまき…こぶまき…こぶ…こぶ……よろ…こぶ?」
「お、正解。さすがいい勘してるな。じゃあ次はこの黒豆」
「豆かぁ。豆といえば…イソノボンボン…?」
「イソフラボンな。黒豆は文字通り『マメ』に働けるように祈願したものだ。お前みたいに大雑把なやつはいっぱい食わなくちゃな」
「大きなお世話よ。あ、でも甘くておいしい」

「まあほんとは『マメに』ってのは『元気に』って意味だそうだから健康祈願だな。ちなみに『しわ』ができるまで煮込んだら長寿祈願にもなるそうだからそういう風に作ってみたんだ」
「じゃああんたも食べなさいよ。長生きしてもらわないと困るわ」
「おう、俺もいつまでもお前と過ごしたいからな。次はこのクルマエビの焼物だが、エビは腰が曲がってるだろ?これも腰が曲がるまで生きられるようにってことで長寿祈願なんだ」
「ふむふむ、あんたがそこまで言うなら100年でも200年でも長生きしてやるわよ。だ・か・ら…あんたのエビもよこしなさい!」
「あ、こら大河!俺が先に死んでもいいのかよ!」
「あんたは豆をいっぱい食べればいいわ」
「ああ、俺のエビが…」
「そうね、あんたが先に死んでも叩き起こすから心配しなくていいわよ」
「そりゃ頼もしいな…」


「よいしょ、っと。そんじゃこれは?」
「なんだそれ?芋の煮っ転がし…?しかもこんな大量に…。ああ、さっきお煮しめに何かが足りないと思ったら里芋が入ってなかったんだな。なんでわざわざそんなこと」
「聞いてるのはこっちなの、質問を質問で返すと0点なのよ!」
「お、おう、里芋はだな、地中で親芋から小芋がたくさんできる様子から子だ……」
「どうしたのよ、最後まで言いなさいよ」
「…子宝を祈願したものだ…。お前もしかしてこれを言わせたかっただけなのか?」
「その通り。里芋の由来はおばあちゃんが教えてくれたのよ。ってなわけで、生活も落ち着いてきたし、一人で留守番も寂しいし、今年はそろそろ一人目が欲しいなーって」
「……」
「ダメ…?」
「なあ大河、これは昨日お前がいない間に櫛枝から送ってきたものなんだが」
「数の子?」
「そう、ちなみにこれの由来も卵がいっぱいくっついてる様子から子宝を祈願したものだ」
「…ってことは?」
「ああ、これ食べて元気な子を産んでくれよ。俺もそろそろいい時期かなと思ってたんだ」
「ほんとに?ありがと竜児!」
「おう、ところで櫛枝の手紙も一緒に入ってたんだが、『高須君へ。これは大河にいっぱい食べさせてやるんだよ。高須君ならどういう意味か分かるよね?お返しはそのうち家族が増えた時に写真でも送ってくれれば満足さ』だってさ」
「さすがみのりん。いいタイミングだわ。こうなりゃ早くお返しするためにもさっそく今夜から頑張らなくちゃね!」







―15年後 1月1日

「あけましておめでとうございます。今年も家族全員健康で過ごしましょう。それでは…」
『いただきまーす!』

「ねえお父さん、今年はいつも以上に豪華な料理ね」
「そりゃお前が高校受験控えてるからなぁ。いい物食って頑張ってもらわんとな」
「ま、私らの子だし頭の出来は心配ないわよ。公立高校くらい楽勝、楽勝」
「私ら、ってお父さんが頭いいのはわかるけどお母さんは関係ないじゃんか」
「あら、泰児。生意気言ってると晩御飯抜くわよ?」
「そうだな、お前らは知らんだろうが大河はこう見えて文系科目は天才的だったんだぞ」
「『こう見えて』ってのは引っかかるけどまあいいわ。とにかくあんたらは文系と理系の両方の才能持ってるのよ」
「頭はともかく身長はお父さんに似てて欲しいな。まだ伸びるかな?」
「目つきだけは竜児に似てきたわね。身長は…まあそのままでもいいわよ。竜河なんて私より大きくなって生意気だわ」
「私だって最近お母さんより年上と思われて困ってるわよ」
「…遺憾なことね」



「お母さん、さっきから気になってたけどその大量の芋煮は何さ?おせちっぽくないけど」
「ああ、これ?これは私専用だからあんたたちは気にしなくていいわよ」
「専用って何よ、ちょっとくらいちょうだいよ。お母さんの芋煮好きなのに」
「そうだぞ、大河。お前何言ってるんだ?」
「チッ、この鈍犬…。まあ竜児と泰児は関係ないから食べてもいいわよ」
「えー!なんで私だけだめなのよ〜!ケチ!」
「あんたは10年早いわ!」
「やったね、そんじゃ遠慮なく〜。姉ちゃんは10年早いよ!」
「このガキ…!10年早いならなんで年下の泰児はいいのよ?!」
「なんでもいいの、とにかくあんたはダメ。あと数の子も禁止」
「ちょっとお父さん、なんとかしてよ!」
「おいおい大河、ほんとに急にどうしたんだよ」
「あんたまだ気付かないの?」
「芋と数の子……ってそういやなんかあったような。…まさかお前」
「やっと思い出したようね。竜児にはあとで話があるから」
「ねえ何なの?2人ともおかしいよ」
「いや、まあ気にするな。芋が食べたいならこっちの棒鱈と一緒に炊いてある方で我慢しといてくれよ。数の子は正月以外のときに食べさせてやるからさ…」




「ってなことがあったのよ、実乃梨おばさん。どういうことなんだろうね」
「ふむ、なるほどね。それはつまりだね、竜河ちゃんは春から高校生になるしもう手がかからなくなるわけだ。泰児君も何から何まで世話を焼く必要が無いくらいには大きくなった。つまりはそういうことだよ」
「????」
「まあ今年中にはわかるよ、きっと」



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