「ねえ竜児、手見せて」
 大河がそんなことを言ってきたのは、日曜の夕食の片付けが済んだ後。
「おう」
「……むー、やっぱりちょっとカサついてるわね……」
「なんだ、どうした?」
「今日昼にみのりんとお喋りしてた時にね……」


「しかし、大河の手は綺麗だねー」
「え、そう?」
「手タレでもできるんじゃないかってぐらいだよ。どんなケアしてるのさ?」
「……ケアって?」
「……え? 何もしてないの?」
「……手に何かするの?」
「……うわ、あーみんの気持ちが少しわかった気がする……」
「え? ええ?」
「普通はさ、洗い物とかしてると嫌でも手の皮膚が荒れてくるもんなんだよ。洗剤で皮脂が落ちて乾燥しちゃうから。それを防ぐために保湿クリーム塗ったりするわけ」
「へー……」
「ファミレスでバイトしてた頃は、冬場のあかぎれにずいぶん泣かされたもんさ……」
「そ、そうなんだ……」


「……って」
「おう」
「でね、竜児はいつもご飯の片付け手伝ってくれるし、どうかすると洗い物全部一人でやっちゃうじゃない。だから手が荒れてるんじゃないかって思って」
「そりゃまあ多少はな。でも飲食業みたいに大量に扱うわけじゃないし、大した事はねえよ」
「でもきちんとケアしとくにこしたことはないでしょ。クリームっての買ってきたから塗ってあげる」
「おう、そうだな、頼む」
 大河はチューブを取り出して蓋を開け、竜児の掌ににゅるるるんと。
「あ」
「……大河」
「ちょっと、出しすぎちゃったわね」
「ちょっとってレベルじゃねーぞ。どうすんだこれ」
「余計な分はちゃんと拭き取るわよ」
「それもMOTTAINAIな……そうだ、大河もクリーム塗ればいいか」
「え?」
「大河が俺の手に塗るのと一緒に、俺が大河の手に塗ればクリームも無駄にならねえだろ」
「あー、そうね。えと、擦り込むようにすればいいのね?」
「おう」
「…………ねえ竜児」
「……おう」
「これ……ヌルヌルした指絡ませあってるのって……なんか……」
「お、おう……」




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