「あちゃー、並んでるねえ」
 実乃梨の言葉通り、竜児と大河の目の前には洋菓子店のテナント前からずらりと伸びた人の列。
「テレビで紹介されるってすげえな……こんなに人が集まってるとは」

「ま、私達もそのテレビに釣られた人間の一部なわけだけどね」
「釣られたのは主に大河じゃねえか。食べたい食べたいって大騒ぎしやがって」
「なによ、竜児だって乗り気だったじゃないの」
「まーまーお二人さん。で、どうする? ずいぶん時間かかっちゃいそうだけど」
「そうだな……とりあえず俺が並んでるから、大河と櫛枝は先に昼飯食べてこいよ」
 
 
「!」
 突然スプーンの動きを止め、目を白黒させながら喉元を激しく叩く大河。
「大河、ほら水!」
 実乃梨に手渡されたコップを一気に飲み干し、大河は大きく息をつく。
「あ、ありがとみのりん」
「慌てて食べようとするからだよ。何をそんなに急いでるのさ?」
「んー、早く食べて竜児と並ぶの交代しようかと思っ、ひっく!」
「大河?」
「あらやだ、ひっく」
「ありゃあ、しゃっくりかね。ほら、この水をコップの向こう側からだね」
「ごめんなさいみのりん、ひっく、私それできないのよ」
「そうなの?」
「うん、昔竜児に、ひっく、教えてもらったんだけど失敗しちゃって、ひっく」
「それじゃ、ご飯を噛まずに丸呑みにするとか」
「それやったら、ひっく、また喉に詰まっちゃって」
「えーと、砂糖をスプーン一杯食べる」
「それも、ひっく、効かなかったの」
「……大河、ひょっとしてしょっちゅうこんな風にしゃっくりしてる?」
「そんないつもじゃないわよ、ひっく……まあ、たまに、ひっく」
「豆腐の原料は?」
「大豆でしょ、ひっく、それがどうかした?」
「むう、これも駄目か……いつもはどうやって止めてるわけ?」
「自然に止まることも、ひっく、あるけど、だいたいは竜児が驚かせて、ひっく、くれるのよね。ばかちーが結婚、ひっく、したとか」
「でもそれってすぐにネタ切れにならない?」
「うん。紙鉄砲、ひっく、鳴らしたりとかもあったん、ひっく、だけど、それも慣れちゃって、最近はもっぱら不意打ち、ひっく、かしら」
「不意打ち?」
「後からこっそり忍び寄って、背筋撫でたり、ひっく、とか耳に息吹きかけたりとか。この間なんていきなりキ、ひっく」
 
 
「おう、いたいた。大河ー、櫛枝ー」
「りゅ、竜児っ!?」
「いやー、あの後列が一気に動いてな。思ってたより早く買えたぜ」
「竜児、逃げて!」
「え?」
 大河の言葉を理解するより早く、竜児の腕をがっしと掴むのは実乃梨の掌。
「高須くん、ちょーっと聞きたいことがあるんだけど」
「おう? な、何だ?」
「高須くん流のしゃっくりの止め方について詳しく」



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