【プロローグ・ファミレスにて】

「ねぇ竜児、夕ご飯はお刺身が食べたいな」
「ん?珍しいな。おまえが肉以外を食いたがるなんて」
「…なーに言ってんのよ。『一周目』をなぞって言っただけでしょ。まさか忘れたなんて言わないわよねぇ?ゴールデンウィーク最終日、『今日』がなんの日か」
「…おう、忘れるわけねぇだろ。駅前のスーパーヨントクが五時からマグロのタイムセールだってことも―――」
「「―――『あいつ』に、初めて会う日だってことも」」
「…ふふっ。それじゃあ竜児、お買い物しながら、みのりんのバイトしてるファミレスに行こっ。ちょうど買いたい服があるのよねー」
「おいおいおまえ、また服買うのかよ?ヒラヒラのフワフワばっかり。俺ん家のタンスにはもう入らねぇぞ」
「だから寝巻きとか普段着以外のよそ行きの服は自分の家に着替えに戻ってるじゃない。さすがに居候してる身でそこまで迷惑はかけないわよ」
「そうだな、『今回』のおまえは寝るときも一緒だし、完全に俺ん家で暮らしてるもんな」
「そうよ。同棲よ、ど・う・せ・い♪嬉しいでしょ?学校も、お出かけも、食事も、お風呂も、寝るときも、ずーっと私と一緒にいられるんだからねっ」
「さすがに風呂を一緒にしたことは『二周目』ではまだだけどな」
「でもさ、『本当』なら私たちの関係は…その…もう…最後まで…ね?」
「………真っ赤になりながら言うくらいなら言わなきゃいいだろうに。…おう、まぁ、『そっち』も、いずれは…な」
「………うん。今はこの家で一緒に暮らせるだけで幸せだから。竜児、大好き…」
「…おう」

「出前一丁!バニラアイス大増量の大河スペシャル、お待ちー!…えへへ、内緒だぞ。他の客から隠して食べな」
「うわぁ、みのりん、ありがとう!」
「おうよ!この連休ほとんど毎日来てくれてたじゃん。これくらいサービスしなきゃね!高須くんにもなにかサービスするよ?ポテトフライとか盛るぜ〜、超盛るぜ〜」
「…いや、俺までサービスしてもらっちゃ悪いからな。大河の分に込みってことで気持ちだけもらっとくよ」
「あっはは、律儀だねぇ高須くんは。いやーしかし、連休中毎日毎日二人でこうして買い物しながらここでお茶飲まれちゃ、店員としては嬉しいけど、私としては刺激が強すぎるぜ。ラブラブっぷりにあてられちまうなぁ」
「みのりんにだって、誰か気になる人とかいないの?」
「いないいない。店長とも、夜にバイトしてるしゃぶしゃぶ屋の店長とも、カラオケ屋の店長とも、早朝にバイトしてるコンビニの店長ともデキてませんよ。さーて仕事に戻らぁな」
「……どんだけバイトしてるんだよ」
「ん?時間あるもん。勤労しなきゃ。勤労怪奇ファイルだよ」
「…な、なに?それ」
「蘇る勤労だよ。じゃ、また後でねー」
「………うーむ、『二周目』でも、この謎は解けずじまいか…」

「あっ」
「あーあー『また』かよドジ。あれほどこいつを食うときは垂らすなって注意しといただろうが」
「うー、しょうがないじゃない。これ、美味しいんだもん……ねぇ、シミになっちゃう?」
「セーフセーフ。こんなもん家に帰ったらきちんと処理すれば大丈夫だ」
「竜児…ごめんね…」
「いいって。…まったく、おまえは本当に目が離せない奴だな。放っておけば一日三回は転ぶし、後ろにいれば気になってつい振り返っちまう。なにか無茶をしやしまいかと、いつもハラハラもんなんだぜ」
「む…あんた、私にケンカ売ってる?」
「そうじゃねぇよ。だから俺も心配で、『一周目』は寝るとき意外はずっと一緒だったろ」
「うん」
「でも『二周目』は、おまえの本当の気持ちを聞けたからな」

―――あのマンションに帰って、夜にあの部屋で一人ぼっちで過ごすのは、もう嫌なの!

―――せめて『二周目』は、竜児の『家族』として暮らしたい!ずっと一緒にいたい!竜児と一緒にいたいの!!

―――竜児、お願い!もう離さないで!!

「あ…」
「だから今度は、ずっと一緒にいる。寝るときも一緒だ。もうおまえに寂しい思いは、絶対にさせねぇ」
「うん、ありがとう。………あ、竜児、見て」
「祐作〜!おじ様、おば様、席ここだって〜!」
「…おう、『来た』みたいだな」


【あーみん、襲来】

「正直に答えてほしい。高須は亜美のこと、どう思った?」
「…まぁ、かわいいし、純粋って言うか…純粋すぎて危なっかしいって言うか……ただ、自分を演じてるって言うか…二面性がありそうな雰囲気もしたな」
「………ほう、さすがだな高須。よく気付いてくれた」
「ああ、最初は気付かなかったよ。『最初』は…な」

「あーあ、だるーい。ねえねえ亜美ちゃん喉かわいちゃった〜、アイスティー持ってきて」
「……」
「ちっ…態度悪くない?まあいいけど。祐作か…あの目つきの悪い変なヤローにでも頼んじゃおっかなぁ。なんかあいつ、ずいぶん落ち着いてた様子だけど、亜美ちゃんのかわいさになびかない男なんていないもんねぇ」
「……」
「ねえねえ、あれって、あんたの彼氏?亜美ちゃん奪っちゃっていーい?全然いらねぇけど」
「………」
「て言うか、今どきヤンキー?よくあんなヘッボいの相手にできるよねぇ。まぁ、せいぜいあんな程度しかいないわけだ。あーあ、さ、い、あ、く〜。…あんた、あんなのと普段なにして遊んでんの?暴走?」
「………彼氏じゃ、ないから」
「あっそ〜なんだぁ、別にどうでもいいんだけどぉ〜。今どきヤンキーなんて、ありえないにも程があるって言うか…」

―――ぱぁんっ!

「………っ!?」
「蚊、よ。蚊がいたの。よかったわね、売り物のほっぺたが蚊に食われるところだったわ……あら、これ蠅だ」
「なっ、なっ、なんてことすんのよっ!?」
「……うるさいなぁ。黙れ、クソガキ」
「う、…うっ、…うぅ…」
「それと、一つだけ訂正してあげる。竜児は私の彼氏じゃないわ。『婚約者』よ。あんたが何者だろうと、竜児のことを悪く言うのは許さないから。…いいわね」
「亜美。あーあーなんで仲良くできないんだよおまえは」
「ゆ、ゆうさく〜〜〜〜〜っ!ふえぇぇぇ〜〜〜ん!」
「まったく…騒がしくして悪かったな。逢坂、高須。俺、こいつ連れて帰るわ」

「……た、大河?」
「竜児、北村くん、あいつのこと優しく抱きしめて、慰めながら帰って行ったわね」
「抱きしめてはいなかったと思うがなぁ……って、おうっ!?」
「…竜児っ!」
「お、おい?なんでおまえが抱きついてくんだよ!?」
「『一周目』でおんなじこと言われたから、心の準備はできてたんだけど…私、駄目だった。今の私じゃ、竜児が悪く言われるのを黙って聞いてられなかった」
「大河…」
「だから今回のビンタは、あいつを黙らせるためだけじゃない。竜児を馬鹿にされて許せなかった私の気持ちも入ってたの」
「おまえ…俺のために、ビンタしてくれたのか」
「うん。……ほら、フィアンセが慰めてほしくてこうしてるのよ。北村くんみたく優しく抱きしめてくれないの?」
「だから北村は別に川嶋を抱きしめてたりは……まぁ、いいか。ほれ」
「あっ…」
「これでいいか?」
「…………うん。もっと、ぎゅーって」
「大河…」
「竜児…」
「………………お〜い、お客さま〜。一応ここは公共の場なんだし、店内ではあまり他のお客さまの目の毒になるようなことはつつしんでいただきたいんですが〜?」
「おうっ!く、櫛枝!?」
「み、みのりん!いつからそこに!?」
「気付いてなかったんかい…あっはは………や〜れやれだぜ…」



【あーみん、転入】

「今日からこちらの学校に転入してきました、川嶋亜美です。よろしくお願いします。みなさん、亜美って呼んでくださいね!」
「さあ、新しい二年C組の始まりですよ〜!…では北村くんからも、どーぞ!」
「みんな、実は亜美は俺の幼馴染でもある。まさか同じクラスに転入してくるとは思わなかったが、まあ仲良くしてやってください。では朝のホームルームは以上!」

「竜児、この休み時間さ、『一周目』のときはあいつと一緒に戻って来たわよね?あれ、どうしてだったの?」
「ああ、あれな。ジュース買いに行ったら川嶋が来て、ファミレスでの一件は自分は悪くないって自己弁護と、余計なことは言うなって口止めをされてたんだ」
「なるほど…あいつのやりそうなことね。おおかた『自分が天然なせいで逢坂さんを怒らせちゃった。でもそれは仕方がないから、逢坂さんになにを言われても自分は気にしてない』とでも言われたんでしょ」
「おう…すげぇなおまえ」

「ごちそうさま。竜児、なんか飲むもんちょうだい」
「ほれ、お茶。それ飲んだら一緒に弁当箱洗いに行こうぜ。ロッカーに俺のマイスポンジがストックされてるからよ」
「うんっ。…ねえ、あんたどこから飲んだ?」
「ん?そのマークのあたりだが…」
「ふーん。…んくっ…んっ………えへへ、間接キスしちゃった」
「なっ!?おまえなぁ…」
「なによ、直接の方がいい?……私は別に、今ここでしてもいいけど」
「俺がよくねぇよ!主にみんなの視線的に!」
「ねえねえ高須くーん、まだちゃんと挨拶できてなかったよね?」
「…おう…川嶋」
「びっくりしちゃった〜。まさか同じクラスになれるなんて。これから、よろしくね」
「あ、ああ…よろしく」
「さーて、授業の用意しなきゃ。竜児、早くお弁当箱洗いに行きましょ」
「あら、逢坂さんも同じクラスだったんだ。……これは今日の午前中を終えての感想ね。逢坂さんって、高須くんと付き合ってるみたいだけど、他のお友達、いないの?」
「黙れクソガキ、また泣かされたい?」
「……ふん」
「……ちっ。行こ、竜児」
「……お、おう」

「高須〜、今日さ、春田が陸上部の一年女子、三人セットで紹介してくれるんだとよ!三対二になっちまうけど、いっちょ勝負かけてくるわ。ああ、楽しみだぜ〜」
「おう、そうか、頑張ってこいよ」
「ちぇっ、彼女持ちはいいよなぁ。手乗りタイガーは確かに超美少女だし、くっついてるのを見ると正直ちょっといいな〜と思うときもあるんだけどね。とにかく、おまえら本当にお似合いだぜ」
「そ、そうか?サンキューな」
「竜児〜、まだ〜?」
「おっと、嫁が呼んでるな。邪魔して悪かったな高須。それじゃ、また明日!」
「ああ、じゃあな」
「竜児、帰ろっ。『今回』は私のロッカーにいちご牛乳もぶちまけてないし、わざわざあいつが教室に戻ってくるのを待ってる必要もないもの」
「そうか…そうだな。『一周目』と同じように川嶋と喧嘩する必要はねぇしな」
「そうそう。無駄にストレスを溜める必要はないわ」
「それじゃ帰るか。今日の夕食は黒豚トンカツだぞ」
「やった!あ、そうだ竜児、ソース切らしてたわよね?どうせなら帰りに買っていきましょうよ。あいつの黒ジャージ姿ももう知ってるんだし」
「おう、その方が手間が省けていいな。……なあ、今更だけど、これから起こることが分かってるってのも、なんだか不思議な感覚だよな」
「うん、なんて言うんだっけこういうの……つよくてニューゲーム?」
「…………その一言でこの不思議体験も一気に安っぽくなったな」



【VSストーカー男・その1】

「星屑と消えた、ダイエット戦士の涙に捧ぐ……くらえっ!必殺!コ ン ビ ニ 神 拳!!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「…大河、あんたのタレコミはいつも正確だね」
「いやいや、さすがはみのりん、いい仕事ぶりだったわ。川嶋さん、紹介するわね。これ、私の親友のみのりん。私にもちゃんと、竜児以外のお友達はいるのよ」
「4649!」
「…というわけで、あんた、食いすぎよ。マラソンでもすれば?きっと黒いジャージがお似合いよ」
「う……うぅ…」
「亜美ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈…夫」
「超かわいそ〜!亜美ちゃん全然太ってないよ〜」
「……………………………………………………あいつら、悪魔だな」
「……なるほどね、ああいう感じでいけば、亜美はああなるわけだ」

「ふん♪ ふん♪」
「わあ……ママー、あの人、お姫様?」
「えへへ…お姫様だって。ねえ竜児、私、そう見える?」
「おう、そうだな。確かに今のおまえの格好は、子供にはおとぎ話のお姫様に見えるかもしれねぇな」
「そう?…ふふっ♪」
「いやにご機嫌だな。川嶋には悪いが、やっぱあの一件がストレス解消にでもなったか?」
「まーね。あいつをぎゃふんと言わせられる貴重なイベントだったもの。何度体験しても悪い気はしないわ。それに…」
「ん?」
「今日は鮭のムニエルでしょ?『一周目』のとき食べて、とってもおいしかったから、それも嬉しくって♪…そうだ!竜児、今日は私もお手伝いする!サラダ作らせてよ」
「おう、いいぞ。ちゃんと作れるか?」
「あったり前でしょ。レタスはちゃんと洗ってから使うし、冷水に晒して締めるわよ」
「お、よく覚えてたな。えらいぞ」
「ふふん、小姑竜児にさんざん言われたものね。私だっていつまでも家庭内で発言権のないかわいそうな嫁じゃないのよ。ちゃんと、竜児の『お嫁さん』として…恥ずかしくないようにしたいんだからね…」
「大河…」
「竜児…」
「やっと追いついたぁっ!」
「おうっ!?」
「きゃっ!?」
「お願い……友達のふりして…!ほら、あいつ…」
「ああ…なんだか怪しい雰囲気の奴だな。芸能人によくある『変なファン』とかか?」
「う…うん、たぶん…」
「ふん、話は早いわ。ああいう奴は、体で分からせるのが一番なの……よっしゃらぁぁぁ!!」

どっごぉぉぉぉぉん!

「きゃぁっ!」
「うおぉっ!?大河無茶すんな!ゴミバケツとはいえ当たったら危ねぇだろうが!?」
「大丈夫よ。最初からあの変態野郎しか狙ってなかったし」
「おまえ本気で当てるつもりだったな!?」
「ね、ねぇ…お願いがあるんだけど…。あいつ、まだ近くにいるかもしれないから、一人で帰るの怖いの。少しでいいから家にかくまって、お願い!」
「おう…それは別に構わねぇけど…こっちの木造借家と、隣の最高級マンション、どっちがいい?」
「こっち、最高級マンションで!」
「それじゃ私の家で決定ね。いいわよ、来なさい。ちなみに木造借家は竜児ん家ね」
「え…こっちあんたの家!?冗談じゃないわよ、なにされるか分からないもの」
「ばか。緊急事態ってこと、分かってないの?なにかあってからでは遅いのよ。今は一時休戦。いいから、来なさい」
「…いいの?」
「ええ、もちろん。竜児、というわけで私はしばらく川嶋さんと一緒にいるわ。ご飯は後で食べに行くから取っておいてちょうだい。サラダ手伝えなくてごめんね」
「お、おう…っておまえ、まさか、今回も『アレ』やるつもりじゃ…」
「…アレ?アレってなによ?」
「さぁ、なんのことかしら?変な竜児ね。……それじゃ川嶋さん、行きましょ」
「あ…あぁ……行っちまった…すまん、川嶋。百五十連発…頑張ってくれ…」


【VSストーカー男・その2】

「あ、高須くん、おはよう。昨日はありがとう」
「………えっ!」
「な、なに?」
「いや…その…つ、疲れなかったか?昨日」
「まあね…精神的に…ってところかな」
「そうか…やっぱり百五十連発は辛かったか…」
「は?百五十連発?なにそれ?」
「………えっ?」
「な、なに?…ってこの会話、ループしてない?」
「お、おう…すまねぇ。っていうか…何もされなかったのか?大河ん家で」
「うーん…正確には、あの男のことを問いただされたりはしたけど…他は別に?」
「そうか…分かった」
「高須くんにも本当のこと話すね。実はあいつ…はっきり言うと、ストーカーなんだ。業界でも有名な迷惑野郎」
「な…っ」
「それで昨日、逢坂さんに言われたの。祐作にちゃんと話せって。こっちも高須くんと実乃梨ちゃんが助けてやるって」
「大河が…そんなことを…」
「うん。なにかあってからでは遅いから…って」
「そっか…そうだな。話を聞かせてもらった以上、俺たちも協力するぜ、川嶋」
「うん…大げさになっちゃうと思って昨日は言えなかったけど…お願い、あいつをやっつけるの、手伝って」
「ああ、任せろ」
「………その様子だと、ちゃんと竜児にも言ったみたいね」
「おう、大河?」
「北村くんとみのりんには私から話しておいたわ。早速今日の昼休み、作戦会議よ」
「あ…逢坂さん」
「ん、なに?」
「昨日は…その………あ、ありがと…」
「お礼なら、あの変態野郎をぶちのめしてからにしてくれる?あぁ…久々に腕が鳴るわ」
「虎だ…今の大河は獲物を見つけた虎の目をしていやがる…」

「………おい大河」
「なに?」
「おまえ、『今回』は川嶋にものまねメドレーやらせなかったんだな」
「気まぐれよ気まぐれ。コンビニ神拳をお見舞いできただけで十分だったし。それに…なまじ事情を知ってるだけに、わざわざ『一周目』をなぞる必要はないでしょ」
「おう、そうだな。それに今日は…」
「「生徒会主催、ボランティア町内清掃大会」」
「そう、あのストーカー野郎と二回目に出会う日よ。どうせなら今日とっ捕まえた方が手っ取り早いじゃない」
「おまえ…いい奴だな。見直した…いや、惚れ直したぜ。今すぐ抱きしめてキスしてやりたいくらいだ」
「ふぇっ!?……ば、ばか…」

「亜美、話は聞かせてもらった。よく勇気を出して言ってくれたな」
「うん…祐作にも心配かけちゃったけど…」
「なに言ってんのさ。こんなときに助けてあげるのが友達ってもんよ。腹肉の友は心の友さ!」
「おう、櫛枝の言うとおりだぜ。俺も喧嘩とかは駄目だけど、できる限りの協力はするぞ」
「大事にならないよう、証拠写真だけ押さえて警察に人物特定してもらったりすれば、あんたの名前にも傷は付かないでしょ?」
「みんな…うん、ありがとう!」
「さて、今日の放課後、町内清掃大会があるが…すまん、俺は生徒会の役員として会長の補佐をしなければならないんだ。協力すると言いながら早々に言い訳をしてしまって申し訳ないんだが…」
「大丈夫、それなら北村くんは私たちからの連絡を受けて警察に通報する係でどうだい?」「みのりん、それいいアイデア!私たちの携帯はきっと犯人を撮るためのカメラ代わりになっちゃうだろうから」
「そうだな、北村、頼むぜ。あいつのことだ、きっと今日も現れる。みんなで清掃大会に出ておとりになって、証拠を押さえてぶちのめしてやろうぜ」
「「「おぉーーーっ!」」」
「…みんな…うん、みんなが助けてくれるんなら、あたしも元気百倍だよ!ほんとにありがとう、頼もしいなぁ!」



【VSストーカー男・その3】

「雨…降ってきちゃったね」
「この降り方なら、あと何分かすれば止むだろ。寒くねぇか?使ってないゴミ袋あるけど、着るか?」
「えっ!?嫌よゴミ袋の貫頭衣なんて!」
「…だよな、やっぱ」
「まったく…こんな土手脇のボロ東屋で雨宿りなんて、亜美ちゃんやってらんねーっつの」
「…なぁ川嶋、北村が言ってたぜ。無理して外面作るより、ありのままのおまえでいいんじゃねぇかって。俺もそう思うぞ」
「へぇ…意外とチョロくないんだね、高須くんは。最初はあのチビと遊んでやるつもりだったんだけど…そっか、それくらい、高須くんと逢坂さんは、深く結ばれてるわけだ」
「な…っ!?」
「だって、始めてあったときのあの子、『竜児は私の婚約者よ』なんて言い出すんだもの。もう唖然とするしかなかったわよ。こいつ、なに言ってんの?ってさ」
「お、おう…」
「でもさ、家が隣同士って分かって、ああ、それなら付き合ってて仲がいいのも納得だわ、って思えたわけよ。あたしがいたずらしたり、ましてや邪魔なんてできないくらい、二人は強く結びついてるんだって」
「川嶋…」
「だから………――――っ!?」
「どうした?ちょっと、おい、川嶋!?待てって!」
「き…来た…あいつが…」
「…おう、そうだな……大丈夫だ川嶋。もうすぐここにも…」
「お〜い、高須く〜ん、川嶋さ〜ん!…おっかしいなぁ。ねえ大河、本当にこの辺に二人はいるのかい?」
「うん、さっき竜児にメールしたからそれは間違いないわ。手分けして探しましょ」
「了解、ひとまず合流しなきゃね。それじゃ、私はあっちの方見てくるね」
「…って……大河の奴、相変わらずたこ焼きパックの傘かよ」
「それに話題のゴミ袋貫頭衣着てるし。でも、あれはあれで写真に収めておきたいかも…」

「かわいいミニサイズ妖怪発見!」
「妖怪…だぁ?そこのあんた!どういう了見してんだか知らないけど、相当気持ち悪いわよ!こそこそ他人の後付け回して写真撮って、このストーカー野郎!」
「…あっ!おまえはあのときゴミバケツを蹴り飛ばしてきた…!」
「ふっ…覚えていてくれて光栄だわ。でも、あんたみたいな不審者風情に覚えられても嬉しくもなんともないけどねぇ!」
「うっ…」
「この雨なら証拠も流される」
「え…う、うわっ!?」
「あんたの悪事も今日で終わりよ!覚悟しな!………って、うわぁっ!!」

「大河ぁぁぁ!あの…ドジ!なにずっこけてんだよ!?」
「ちょ、ちょっと高須くん…あれ…」

「痛ったた……はっ!?」
「へぇ…近くで見ると、やっぱりかわいいねぇ」
「ば、馬鹿!撮るな、変態野郎!」
「この雨なら証拠も流されるんだったよね…ちょうどそこで雨宿りできるんだ。ゆっくりお話したいな……他にもいろいろと…ね」
「や、嫌っ!触んな、こいつ!」

「ね、ねぇ、あれ、やばくない?」
「大河!?…駄目だ、今のあいつは凶暴な虎じゃない…ドジな手乗りタイガーになっちまってる…」
「ちょっと、マジでやばいって!」
「大河…大河が…やばい…?大河が…危険な目に…あんな野郎に…大河が…」
「…おい!なにぶつぶつ言ってんだよ!」
「…ぇ……させねぇ……そんなことは…絶対にさせねぇ………大河は…俺が…っ」
「聞いてんのかよ!おい高須く……うおぉ!怖ぇ!顔こえぇ!」
「俺が守るって誓ったんだよ!大河ぁぁぁ!今行くぞぉぉぉぉぉっ!!」

「嫌ぁ!助けて!りゅうじーーーーーーっ!!」
「へへ…こんな人気のないところじゃ誰も…」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「……………ええぇぇぇ!?」
「こんの変態野郎がぁぁぁぁぁぁ!大河から…俺の嫁から離れろぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ひ、ひぃぃぃっ!」
「待てテメーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ちょ、高須くん!待ってーーー!つーかあんた、喧嘩とか全然駄目とか言ってたじゃんよーーーーーーっ!」


【VSストーカー男・その4】

「ほれ、蜂蜜入りのホットミルク。甘いのが嫌だったら、お茶でもコーヒーでもあるぞ」
「ううん、これがいい……ふう…おいしい。意外だね、高須くん、こういうの飲むの?」
「いや、俺はあんまり。大河がそうやって飲むの好きなんだよ」
「大河…か。高須くん、本当に逢坂大河のこと、好きなんだね。お弁当もお揃いだし」
「変に隠すのも余計おかしいから言うけどよ…たまたま近所に住んでて、あいつん家は一人暮らし、うちも母子家庭でほとんど一人みたいなもん。それで…なんだかんだ、家事を手伝ってやってるっていうか……飯とか一緒に食うような、兄弟みたいなもんになって…」
「ふーん、そうなんだ。で、別々の家だと効率悪いとかなんとか言って、勢い余って同棲してる…と」
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「うおっ!きったねぇ!ちょっと高須くん、ジャージが汚れるでしょ!まったく…」
「か…かか……川嶋……おまえ…なぜそれを…っ!?」
「いくらなんでもバレバレだっつーの。最初にあの子ん家にかくまわれたとき、あの子、学校の鞄とか高須くんに預けてたし、『食事は後で食べに行く』とか言ってたし」
「う…」
「それに、家の中が妙にこざっぱりとしてたっていうか…生活感がないっていうか…とにかく違和感があったのよね」
「おう…」
「んで、今ここにきっちり折り畳まれてるあの子のお姫様みたいなフリフリの服に、そこに置かれてるあの子の勉強道具に私物…反対に高須くん家に、あの子がいる雰囲気が満ち満ちてるんだもん」
「くそう…大河の奴…あれほど整理整頓はちゃんとしろって言ってたのに………頼む川嶋!このことはどうか内緒に…」
「んー、考えとくわ」
「おい!?頼むぞマジで!」

「しっかし大河と泰子の奴遅ぇな。いつまで買い物行ってんだ?」
「ふう…ミルクごちそうさま。それにしてもさっきの高須くん凄かったなぁ。喧嘩はからっきしとか言いながら、ものすごい形相であの男のこと追い回してたし、『俺の嫁から離れろーっ!』とか言ってたよねぇ」
「ま、まぁ、あのときは…手首を掴まれただけとはいえ、大河があの野郎に触れられたって思ったら…頭ん中が真っ白になってさ。気がついたら、無我夢中で…こいつだけは絶対に許さねぇって…」
「それだけ、嫌だったんでしょ?」
「おう、確かにな。……つーかあの後、川嶋だって凄かったじゃねぇか」
「そうだっけ?」
「追い詰めたあの野郎のデジカメぶっ壊して、『この亜美ちゃんが、こんな変態野郎に負けてるなんて…ああぁむかつく!亜美ちゃんだっていつまでもやられっぱなしじゃねぇっつーの!目にもの見せてやらぁ!』ってよ」
「高須くんが言ったんだよ?『もう取り繕うのはやめろ』って。だから本当のあたしを見せてやったのよ。そうしたらあいつ、勝手に幻滅してたじゃない?」
「ああ…」
「かわいい顔して取り繕って、好きになってもらうのは簡単なの。でも、同じくらい嫌われるのも簡単。素のあたしを見せればいいんだもん。そうすりゃあいつみたく、みんな勝手にあたしを嫌うよ」
「……そんなこと、言うもんじゃねぇぞ」
「でも本当だから。さっきのあいつもそうだったでしょ?……難しいのは、本当のあたしを好きになってもらうこと。歪んでて、腹ん中真っ黒な、意地悪っ子のあたしをね」
「川嶋…」
「だからあの子のことが羨ましかった。あの子は自分の気持ちを少しも取り繕ったりしないし、高須くんもそんなあの子を少しも嫌ってない。それが悔しくて…高須くんを奪ってやろうって思っても、二人の絆はものすごく深いものなんだって思い知らされたし…」
「………」
「高須くんは…もし、逢坂大河と恋人になる前にあたしと出会ってて、あたしが『本当のあたし』を見せてたら……好きに、なった?」
「…な!?あ、う…それは…」
「―――なんちゃって、冗談よ。ドキドキした?」
「ありゃりゃりゃりゃん………」
「「………へっ?」」
「やっちゃん…わざとじゃないのよん?ちゃんとただいまーって言ったのに、返事がなかったから、おかしいなーって思ってあがってきただけだもん……」
「………竜児…あんたって奴は…私という婚約者がいる身でありながら………この、浮気者がぁぁぁぁぁっ!『俺の嫁から離れろーっ!』は嘘だったのかぁぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーす!!」

「………ま、これくらい二人のことをからかったってバチは当たらないわよね。さーて、亜美ちゃん、し〜らねっと♪」


とらドラ・りたーんず!第二部・完
第三部【激闘・プール対決編】に続くっ!


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