【プール、開幕】

「あ、亜美ちゃんきたきたー!うっそー、超かわいいー!ほっそーい!」
「ごめぇん麻耶ちゃん、髪がうまくまとまらなくて遅くなっちゃったぁ〜。嬉しいなぁ、あたし、プールって大好き!すっごく楽しみにしてたんだぁ」
「なんかもう……感動した!」
「生き神さまじゃあ!」
―――ふっふーん、亜美ちゃん、今日もさいっこうにかわいい!さあ、この天使様をひれ伏して拝め愚民ども!影を舐めろ、がはははははは!
「……とか思ってるに違いない…」

「おーし潜水対決やろうぜ!ビリはジュースおごり!」
「おっしゃやろやろ!………あ、ちょっとタンマ!高須、高須」
「おう?」
「さっきから、ずっと探してたろ?」
「ずっと、いないなあ、って思ってたろ?」
「な、なにがだよ…?」
「あ、高須くーん!どうどう?水、冷たい!?」
「ほれ高須、『嫁』が来たぞ!……おまえって本当に分かりやすいんだもんなぁ」
「みのりん、走らないで!また髪の毛崩れちゃう!」
「んじゃ、俺たちはあっち行ってるからさ。ごゆっくり〜」

「あははははー!気持ちいいーっ!いやー私分かったんだよ。プールの中に入ってたらこの腹を見せずに済むってさー!ってわけで、泳いでくるぜ!」
「……な、なんだったんだ、あいつは…」
「あはは、みのりん、相変わらずだね……わ、つめたい……」
「あらあ〜、逢坂さん、やっと来たのぉ?なかなか出てこないから、水着のサイズがぶかぶかで、みっともなくて出てこられないのかと思っちゃったぁ〜」
「水着のサイズ?はあ?なに言ってんの?寝言?あんた寝てんの?竜児がちゃんとサイズぴったり直してくれたに決まってんでしょ」
「そ、そうなの……さすがというか…よくもまぁというか……」
「さーて、暑くなってきたからパーカー脱ごーっと」

「「「「「………ああああぁぁぁぁぁ〜〜〜」」」」」

「……ぷっ、やっぱり控えめでかわいい胸だことね〜」
「ふん、なんとでも言いなさいよ。竜児はこのままの私が好きって言ってくれたもん」
「………一年じゃやっぱり駄目か…」
「胸部の成長確認できず……」
「俺はやっぱりあみたん派だ………」
「外野がなんだかうるさいけど、他の男なんてどうでもいいもん。竜児が私にハァハァしてくれるなら、それでいいんだもん」
「あ、あぁ………そう…なのね……」
「……だから竜児も、ほら、あんまりクラスメートを威嚇しないの。外野が怯えてるわよ」
「え〜っと、うん……なんか、ごめん。さ、さーて、亜美ちゃん、泳いでこよ〜っと」

「……なぁ春田」
「なーに能登っち?」
「高須ってさ、手乗りタイガーと付き合うようになってから、キャラ変わったよな」
「うん、間違いなくね」
「なんつーか……あそこまで手乗りタイガーに一途になれるって、ある意味うらやましいな…」
「そうだね〜。でもさ、俺もゆりちゃんが『春田くん、付き合って』って言ってきたら、多分付き合うよ?一途になれるよ?」
「………おまえの妄想もあいつらとは違ったベクトルで暑苦しいよ……」



【高須竜児は目で殺す】

ドーーーーーン!
「うわははははっ!どうだ北村っ!自分ばかりモテやがって!」
「俺たちは格差社会に疑問を呈すっ!」
「……げほっ!お、おまえらなぁ……っ!ええいくそっ、やりかえーすっ!」
「ややややめ眼鏡が眼鏡が……うわあああぁぁぁぁーーーーーーっ!」
「くらえ能登、これが夏だドローーーーーーップ!」
どっぱーーーーん!
「それ春田も逃がさねぇぞ!地獄のゆりかごーーーーっ!」
「うわーーーーっ!」
バシャーーーーン!
「さあさあ祭りだっ!」
「ブチ落としてやるっ!」
「きゃーやめてやめてやめ……いやーーーーっ!」

「うわっ、ちょっ………あぶねぇぞこれ!?大河、ここは一旦避難…」
「獲物発見伝!」
「いくぞソフト部同盟!」
「は?き、北村?櫛枝!?……わ、わわわっ!」
ざっぶーーーーーん!
「あはははっ!やーい、落とされてやんのー!」
「ち、ちくしょー!おまえもいっそ俺が落として……はっ!?そうだ大河!逃げろ!『一周目』の通りなら、この後おまえは……っ!」
「みぃ〜つ・け・た♪まだ落とされてない子♪」
「あ、あんた……っ!」
「遊びよ遊び♪本気で怒っちゃや〜あよっ!おるぁっ!」
「や、やめろバカチワワ!わ、私は、お、およげな……うぎゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!」
ザバーーーーーーン!
「きゃはははっ!ザマーミロ!さーて、あの生意気タイガーの泣きっ面拝んだるんじゃいっ!」
「おい川嶋……っ!あぁぁばっか野郎!あいつ泳げねぇんだぞ!?」
「は?……マジで!?」
「がばごぼげぼがばばばばばばばばばば!」
「うわぁぁぁやっぱ溺れてるー!大河ーーーっ!」

「ぶはっ!りゅうじ!りゅぶぶぶじびびびびびびぃぃぃぃ!」
「おわっぷ!おい大河落ち着け!大丈夫か!?」
「あし、あしっ!つかなっ!お、おぼぼれべぢゃうぶぶぶぶぶ!」
「な、なんだってんだばばばばばば!とにかく落ち着け……ぶっほ!」
「りゅうじ!りゅうじぃぃぃ!がぼっ!こわいよ…げほっ!……沈んじゃうよぉ!」
「大河!大河っ!………駄目だ、完全にパニックになってやがる………くそっ!どうすりゃいいんだっ!?」

―――竜児に見つめられながらキスするとね……なんだか、頭がぼーっとして、とろぉんってして、ふわふわーって気分になるの。

「―――そうだ!おい大河、俺の目を見ろ!」
「がぼごぼぐぼ………っぷはっ!え?め?目っ!?………んむっ!……………ん……………ふにゃあ……りゅう…じ……?」
「………ふぅ、よかった。落ち着いたか?大河」
「あ……ん…うん……ありがと…」
「よし、このままプールサイドまで連れてってやるからな。しっかり掴まってろよ」

「……なぁ春田」
「なーに能登っち?」
「あいつらさ、今プールのド真ん中で抱き合ってキスしてたよな。みんなに見られてる前で」
「うん、思いっきりね」
「なんつーか……あそこまで見せ付けられると、もはやうらやましいを通り越して痛いよな…」
「そう?でもさ、なんかいいじゃんああいうのも。『プールの中心で、愛を叫ぶどころかキスしちゃう』って、学校の伝説になれそうだよね」
「………公然と夫婦宣言してる時点で十分伝説級の存在だよ。あぁくそ!もう結婚でもなんでもしちまえバカップルが!」


【激闘の幕開け】

「だからぁ、泳げないなんて、あたし本当に知らなかったのよ!ごめんって言ってるじゃない」
「………」
「……んもうっ!さっきから何度も謝ってるのにずっと無視して!もうあったまきた!あ〜あ、せっかく夏休み、あたしの別荘にみんなで遊びに行こうと思ってたのにな〜」
「………へっ?」
「実乃梨ちゃんと祐作にはもう声をかけてあるから、あとは高須くんだけ誘って行くことにしよーっと」
「おうっ!?待て待て、大河が行かねぇなら俺もパスさせてもらうぞ」
「あっれ〜、高須くんに拒否権はないのよ?夏休みは、亜美ちゃんと一緒に別荘で過ごすの!」
「……あのなぁ、おまえは大河に謝ってたんじゃなかったのかよ。別荘と俺は関係ないだろ」
「ふ〜ん、高須くんまでそんな態度とるんだぁ。亜美ちゃん傷ついちゃったな〜。いいのかな〜、そんなこと言ってて」
「……?」
「ねえねえ祐作ぅ〜、聞いて聞いて!あのね、高須くんと逢坂さんって、どうせい……」
「わーっ!うわーっ!」
「ん?どーせー?……なんだ、なにか言ったか?」
「ど…どーせー……どーめー!そ、そうなんだよ北村!俺と大河ってめずらしい名前だから、同姓同名の奴なんてきっといないだろうなって話をしてたんだ!」
「ふむ……確かに、竜児と大河はあまり聞かない名前だよな。俺なんて祐作だろ?ありきたりな名前だから、きっと同じ名前の奴もたくさんいるだろうな」
「………おい川嶋、おまえ…」
「うふふ…わかった?あんたたちの秘密は亜美ちゃんの手の中にあるのよ〜」
「ぐ……卑怯な…」
「ちょっとあんた……勝手な真似は許さないわよ…」
「あれー?どうしたの逢坂さん。いきなり高須くんを後ろ手にかばっちゃったりして、『竜児は私のもの!』ってことぉ?」
「ええそうよ!これ以上勝手なこと言ってると、本気でボコボコにして泣かすわよ!」
「そんなことしたら、傷害で訴えてやるわ。さすがの手乗りタイガーも、法の裁きには勝てないでしょ〜?」
「はいはいやめやめ!双方離れて離れて!二人ともいい加減にしなさーい!いくらなんでも仲が悪すぎ!」
「み、みのりん、だってこのアホチワワが……」
「実乃梨ちゃん、逢坂さんがあたしのことを……」
「拳で友情を育てたいのは分かったから、それなら喧嘩じゃなくて、尋常にスポーツで決着をつけなさーい!」
「……いいわよ。その代わり私が勝ったら、ちゃんと私も別荘に連れて行きなさい!」
「それじゃああたしが勝ったら、逢坂さんだけお留守番ってことで」
「よし決まった!それじゃあ、種目はなんにするかね?」
「ん〜、やっぱり体育の授業でもやってるし、夏といえば水泳かな〜?」
「おい、ちょっと待てよ。さっき見てたろ?大河は泳げねぇん……」
「いいわ、水泳で勝負しましょ」
「な、大河!?」
「相手の土俵にあえて上がってやろうじゃない。その上で勝利した方が、よりこいつに屈辱感を与えられるものねぇ」
「ふ〜ん、いいのね?後悔しても知らないわよ」
「二人とも、異論はないかね?………よし、双方の沈黙をもって合意とする!勝負の日は今学期最後のプール授業の日!種目は水泳、自由形一本勝負に決定!」

『2−C全員目を通せ!』
「……はぁ、また『今回』も俺の席に回ってきやがった」
『第一回!高須争奪杯!あみたんVS手乗りタイガー 注:あみたん、タイガー、高須、ジャッジくしえだを省いて回せ』
「相変わらず大河に賭けてる奴はいないな……おっ?コメントが『一周目』と少し違うぞ」

『泳げないのにタイガーもよく水泳で勝負受けたよな。これ、賭けになんの?』
『高須は結構泳げるから、ちゃんと教えてやればいけるんじゃね?』
『タイガーは勝ち目ゼロでしょ。あみたんに賭けとけば確実だな』
『でもタイガーも、高須を亜美ちゃんの別荘に行かせないために必死だったよな。あーあ、あそこまで大事に思われるのって、ちょっと憧れるかも』
『高須くんもいきなりブレイクしたね』
『あみたんが嫁付きを本気で相手にするわけないのにな。タイガーの反応見てからかってるだけだろ』
『そだな。亜美の本命は俺だし』
『ばかじゃねえの。あみちゃんは俺がもらう』
『いやいや俺が』
『あみは俺のだからごめんな>arl』
『もしかしてallって書こうとした?』
『オールも書けないってやばくない?>春田』
『おまえ裏口入学だろ>春田』
『でも高須くんも顔と違って結構誠実なとこあるよね。なんだかんだ言っても逢坂さんの世話焼いてるし』
『愛の力って奴ですかねぇ』
『だって公然と夫婦宣言してるもんね』
『一年後あたりに結婚したって言われても違和感なさそう(笑)』
『ほんと、いろんな意味で見てて飽きないカップルだわ』

「春田は相変わらずだな……それと結婚って……これはこれで微妙に馬鹿にされてる感があるが……まぁいいか。さてと……こうなったら総取りしてやる。今回は……」
高須 10
「……五千円賭けてやる!」

「大河、『今回』も俺は全面的に協力するからな。絶対負けるんじゃねぇぞ」
「あったりまえでしょ。ちょっと過程は違ったけど、結局勝負することになっちゃったし」
「おまえ、なんでわざわざ水泳勝負で受けたんだよ?前みたくくじ引きにすりゃ、もしかしたらおまえの希望する種目で勝負できたかもしれねぇのに」
「いいのよ。みんな私は泳げないって思ってるけど、ビート板さえあればバタ足でなんとでもなるわ」
「おう…確かにおまえのバタ足はすげぇ速いもんな」
「それに、私が勝てば賭けはこっちのぼろ勝ちじゃない。たんまり儲けさせてもらいましょ。ふふふ……」
「……やれやれ、そんな思惑もあったのかよ」
「ばかちーがどこまで本気か分からないけど、私たちが一緒に住んでるのを知られてる以上、あいつが勝ったらそれをネタに本気で竜児だけ別荘に連れて行かれちゃうかもしれないし…」
「大河だけ居残りってのは、さすがにひどすぎるもんな。せめて『一周目』みたくみんなで行けるようにしたいが…」
「だから私が勝てば済む話じゃない。『一周目』のときは私が変な小細工しちゃったからあんな大騒ぎになって……竜児を危険な目に遭わせちゃったから……」
「あ……」

―――竜児は私のだぁぁぁーーーーーっ!誰も触るんじゃなぁぁぁぁぁーーーーーいっ!

「だから今回は真っ向勝負!正々堂々とあいつに勝ってみせるわ!」
「………おう、そうだな。それじゃ次のプール授業から、みっちりトレーニングやるぞ。俺たちは運命共同体だ」
「望むところよ。あ、でもその前に……」
「おう?……って、んむっ!」
「んっ………よし、やる気充填完了!……また足りなくなったら…充填させてね」
「……おう」


【激闘に向けて】

「よし。やるぞ、大河」
「いくわよ、竜児」
「分かるぞ……『大河をどうやって川嶋と対等に競えるまでにするんだ』と言いたそうな視線がありありと感じられるぜ…」
「ふ……、それじゃあ、見せてあげましょうか。練習、始めましょ」
「おう。ほれ、ビート板」
「ありがと。じゃあ、軽くバタ足してみるわね―――」

「おおぉっ!?手乗りタイガー速ぇ!」
「あいつ、泳げないんじゃなかったのかよ!?」
「身体が浮きさえすれば、後は力技でどうにでもなるってことか……」
「やっべぇ俺タイガーに賭け直そうかな…」
「ありゃー、もしかしたら、もしかするぞ……」
「あれ、ただのバタ足だよな…泳ぎのセンスはないけど、あのパワーは侮れねぇぞ」
「あみたんがマーメイドなら、タイガーはさしずめ突撃魚雷ってとこだな」

「ふふふ、びびってるびびってる」
「そうだな。勝負はとにかく、速くゴールすればいいんだ。泳ぎ方なんか関係ねぇ」
「そうね。ねえ竜児、ちょっと反対側で待っててくれる?ちょっと端まで通して泳いでみるわ」
「おう、『一周目』の通りなら、明日からずっと雨続きになっちまうからな。できるときに特訓しとこうぜ」

「………結局、まともに練習できたのはあの日だけで、あれから二週間、ずっと雨だな」
「そうね。やっぱり今回も温水プール閉館してたし」
「とりあえず、俺ん家でバタ足の練習とイメージトレーニング……」
「後はお風呂で息を止める練習くらいしかできないものね…あ〜あ、もどかしいわ…」
「そんな二人に、ほれ、俺からの贈り物だ」
「市民プールの入場券……北村、ありがとな」
「ああ、俺は逢坂に賭けた。まぁ、あまりにも自信満々に高須が逢坂に賭けてるから、俺も乗っかっただけなんだけどな」
「私に賭けてくれたんだ……ありがとう北村くん!」
「こないだの授業で逢坂のバタ足を見て、これはいけるって思ったぞ。逢坂はさしずめ『火事場のクソ力』タイプだからな。最後にすごいひっくり返し方をしてくれそうだ」
「それじゃ、ありがたく使わせてもらうぜ。今度の週末にでも行くか」
「うんっ」
「ああ、頑張って練習しろよ。雨、止むといいな」
「さて……市民プールでたっぷり練習はできたが、気が付けば、勝負はもう明日か…」
「そうね。ここんとこ、ずーっと雨だったからね」
「……っと、やっぱ今回も降ってきたな。この焼きそば食ったら帰るか?」
「ううん、もうちょっと練習、する。まだ…頑張る」
「そっか。なら、俺はなにも言わん」
「ありがと。そうそう、『一周目』のこのときも、頑張ろうって気持ちになってたのよね」
「おう?」
「ほんとは『一周目』のときに言いたかったんだけどね―――あんたが、私のために、一生懸命になってくれたから。私のことを、ずっと助けてくれたから。だから、頑張ろうって」
「……」
「水着姿が恥ずかしいって言ったら偽乳パッドを作ってくれた。水に顔もつけられない私を見捨てないで、つきっきりで泳ぎの練習に付き合ってくれた」
「大河……」
「だから『このとき』は、北村くんに誤解されてもいいから、あんたのために、私も一生懸命頑張ろうって気持ちになってたの……結局、素直に言えなくて喧嘩しちゃったけどね」
「……あ」

―――頑張ろうと思ったの。つまり、あんたが……あんたには、全っっっ然、関係ないけどね!
―――あーそうかよ。じゃあもういいよ頑張んなくて。俺のことどうでもいいなら勝負もなしにすれば?
―――なによ、結局行きたいんだ、川嶋亜美ちゃんの別荘。ばっかじゃないの!
―――おまえ…全っ然!分かってねぇんだな!前のときもそうだ!俺が川嶋と抱き合って、それがなんだってんだよ!
―――分かってないのはあんたよ!なんでまたその話するの!?私は怒ってないって言ってるのに!私の気持ちも知らないくせに、知ったようなこと言わないでよ!

「竜児のために頑張りたい。竜児をばかちーの別荘に行かせたくない。竜児は私のだ、誰にも渡したくない。誰にも渡さない。………そんな気持ちで、心がいっぱいになってたの」
「そう…だったのか。なんか……すまん」
「いいのよ。あのときはまだお互い好きじゃなかったんだし、自分自身、この気持ちがなんなのか、はっきりとは分からなかったからね」
「お互い、気持ちの食い違いがあって、とうとう爆発しちまったんだよな」
「うん。でもね、喧嘩しても、竜児はやっぱり優しくて……翌日、ちゃんとお弁当と、朝ご飯まで別に用意してくれてて……」
「泰子がさ……言ってたんだよ。『大河は俺を好いてくれている。どうでもいいなんて思ってない。本当に俺のことが嫌いなら、ここで飯なんか食わない』ってさ」
「やっちゃん……私の気持ち、全部分かってたんだね」
「おう、なんだかんだ言っても、やっぱりこいつが親なんだなって思えたよ。だから泰子に免じて、弁当は作ってやろうって思ったんだ」
「うふふ、マザコーン」
「ぐ……ほ、ほれ!さっさと練習やって帰ろうぜ。雨も強くなってきたし、風邪でもひいたらカッコつかねぇぞ!」
「あ!待ってよ竜児ーっ!」

「竜児……もう寝てる………わよね」
「……」
「今日はありがと。雨の中でも練習に付き合ってくれて」
「……」
「でもね…明日になる前に、一つだけやり残したことがあるから…」
「……」
「最後のやる気の充填………ちゅっ……」
「……」
「……えへへ。りゅうじ……大好き」
「……」
「明日…頑張るから…おやすみ……」
「……………とっくに目ぇ覚めてるんだよ……ったく、幸せそうな顔しやがって」
「……」
「こいつめ……お返しだ……ちゅっ……」
「……」
「俺も好きだぜ。おやすみ…大河」
「……………ばか。まだ寝てないわよ……」
「……………おう……」


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