その週末。大橋の上。高須大河(43歳二児の母)は白いダッフルコートに赤いマフラー。頬を桜色に染め、
目を線にして笑いながらくねくねと身をよじっている。

「でさ、ここであんたがぎゅーっと抱きしめてくれてさ、私が『なんで、あんたは…私のそばにいてくれるんだろう』って
つぶやいたらさ、あんたは『俺がいる場所がここ以外のどこにあるんだよ』言ってくれたのよ」
「そうだっけ」
「そうよ。ね、竜児。ぎゅーって」
「お、おう」
「えへへへ…なんで、あんたは…私のそばに居るんだろう…」

いまいち乗り切れずに思わず黙ってしまった高須竜児(43歳サラリーマン)を、しがみついたまま大河が揺すって促す。

「俺がいる場所がここ以外のどこにあるんだよ」
「ひゃーっ。幸せぇ。もう融けちゃいそう……ほら泰児!ちゃんと写真撮ってんの!?」

「ねぇお兄ちゃん。私たち何してんだろう」
「竜河、こういう時は自分を捨てれば楽になれるぞ。俺、『心頭滅却すれば火もまた涼し』って意味、
わかってきたよ。かーさーん!もう一枚いくよ!とーさーん!もうちょっと眉間にしわ寄せて
苦しそうに目を閉じて!」
「早く帰りたいなぁ」




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