「大河、ドライヤー貸してくれねえか?」
「いいけど、どうしたの?」
「おう、蜂蜜の蓋が開かなくてな。ちょっと温めようかと」
「それじゃ、私もホットミルク飲もうっと」
 
「……ねえ竜児」
「おう?」
「それ、本当に蜂蜜? なんか見たことがない色してるんだけど」
 大河がいぶかしむのも当然で、竜児が蓋に温風をあてている瓶の中身は黒に近い茶色のドロっとしたモノ。
「おう、こいつはソバ蜂蜜だからな」
「……お蕎麦に蜂蜜かけるわけ?」
「……大河、その間違いはちょっと恥ずかしいぞ。っと、開いた。こいつはソバの花だけから採られた蜂蜜なんだよ」
「へー、そんなのがあるんだ」
「ミカンや向日葵なんてのもあるぞ、どれもちょっと高いけどな。ちなみにこれはばあちゃんが送ってくれたもんだ」
「あれ? それじゃ普通に『蜂蜜』って言ったら何の花なわけ?」
「いろんな花から集めた百花蜜か、レンゲ、アカシア、クローバーって所だな。うちで普段使ってるのもレンゲ蜜だろ」
「……ブランドか商品名だと思ってたわ、それ。蜂蜜っていっても色々なのねー。今度ネットで調べてみようかしら」
 
 
 
「……なあ大河」
「なに?」
「なんでこんなに蜂蜜買ったんだ?」
「んー、蜂蜜酒ってのに挑戦してみようと思って」
「おう? なんでまた急に?」
「えーっとね……ほら、結婚式までもうちょっとじゃない」
「お、おう」
「その後は当然ハネムーンでしょ」
「おう」
「そのHoneymoon−−蜜月の語源が蜂蜜酒って話で」
「へー、知らなかったな」
「昔のヨーロッパで結婚した直後のお嫁さんが一ヶ月外出しないで、滋養強壮作用がある蜂蜜酒を旦那さんに飲ませて、その……頑張ったんだって」
「…………おう」




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system