「んーっ……!」
 昇降口から出たとたん、大河は大きくのびをする。
「やーっと終わったわねー、期末試験」
「おう」
 応える竜児も首筋を軽く叩く。
 勉強は好きだしいつもの如く役立った兄貴ノートのおかげで結果に不安は無いが、それでもやはりテストというものは緊張するもので。
 肉体的にはそれほどでなくても、やたらと肩がこった気がするのは不思議なものだ。
「だけど、これであと何日かすれば待ちに待った夏休み!」
「おう、そうだな」
「……あのねえ竜児、恋人と過ごす初めての夏休みなんだから、もっと喜びなさいよ」
「いや、去年も一緒だったじゃねえか」
「『恋人として』ってのは初めてでしょうが!」
「おう、そういやそうか、すまねえ」
「ふん、まあいいわ。で、どこに遊びに行く? 映画は定番でしょー。遊園地や水族館とかもいいわねー。去年は海だったし、今年は山でキャンプとか。ふ、二人っきりでお泊り旅行とかしちゃったりして」
「……大河、お前は大事な事を忘れている」
「え?」
「俺達は受験生だぞ。夏期講習だってあるし、それでなくたって正念場なんだから、そんなに遊ぶ暇があるわけねえだろ」
「で、でも、竜児も私も成績悪くないんだし……」
「そう言って油断するのが一番いけねえんだ。レベル下げたり、ましてや浪人なんて絶対にするわけにはいかねえんだからな」
 そんなことになったら、大河と結婚できるのが遅くなるから……とまでは、流石に面と向かっては言えないが。
「ううー……せっかく高校最後の夏休みなのに、ロクなイベントも無いなんて……」
「まあ、一緒にいられる時間は増えるんだし、デートだってたまに息抜き兼ねて近場でってぐらいならできるだろ。それに、イベントっていうなら一つ重大なのがあるじゃねえか」
「何よそれ?」
「夏休みだからって、大河は弟の世話がある時はうちに来るわけにはいかねえだろ」
「ん、まあね。でもその時は竜児がうちに来ればいいじゃない」
「おう、それだよ。今までは送って行っても玄関までとか、せいぜいリビングまでだったろ。だけど一緒に勉強するとなればだな、初めて大河の部屋に入れるってわけだ」
「そ、そんなの、去年いくらだって……」
「今の家になってからは初めてだろ。『恋人として』ってのもな」
「ひ、ひやゃ……」




作品一覧ページに戻る   TOPにもどる

inserted by FC2 system