「おう?」
 ホットミルクを作るためにほんの少し席を離れたその隙に、座布団が姿を消していて。
 見やればそれはなぜだか大河の尻の下。それだけでなく、普段泰子が使ってる物や来客用の予備まで。
「……おい大河、なんで座布団独占してるんだよ」
「女子は腰を冷やしちゃダメなの」
「それにしたって多過ぎるんじゃねえか?」
「今日はそんな気分なのよ」
「……おう、そうか」
 はあ、と溜息をついて畳に直座りする竜児に、なぜか大河は焦ったような表情で。
「あ、あれ?」
「おう? 何だ?」
「竜児、お尻冷たくない?」
「ちっとな。でもまあ、じきに体温で暖まるだろ」
「……でも、ちょっと痛いんじゃない?」
「いや、別に」
「あ、そうなの……」
「ほら、早く飲まないと冷めるぞ」
「…………うう〜……」
「大河、どうした?」
 ぼすん!
 突然竜児の顔面に投げつけられる座布団。
「おうっ!?」
「あんたが! あんたが!」
 さらに大河は両手に持った座布団をぼすぼすと叩きつけてきて。
「お、おい! 大河!?」
「あんたが座布団返せとか言わなかったら、その代りに竜児の脚の上に座らせてって展開にできないじゃないっ!」
「なんだよそりゃ!」

「……ごめんなさい」
 俯く大河の後頭部を間近に見ながら、竜児はそのつむじを優しく撫でる。
「まったく、座りたいなら普通にそう言えばいいじゃねえか」
「だって……いつもいつもそれじゃ、私が竜児に甘えっぱなしみたいじゃないの」
「大河は弟の世話とか勉強とか普段頑張ってるんだし、二人きりの時ぐらい甘えたって別にいいだろ」
「でも……」
「それにだな……ぶっちゃけると、大河に甘えられるのは嬉しいんだよ、俺は」
「え?」
「だから、大河が甘えてくれてることに甘えてるっていうか……その、なんだ、まあ、あまり気にするなって」
「……うん」
 小さく頷いた大河は竜児の体に背を預け、見上げながら穏やかな笑みを浮かべて。
「ねえ竜児」
「おう?」
「ちゅーして」
「おう」




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