「ただいまー」
 電灯を点け、買ってきた物をしまう竜児の横をすり抜けて、大河は卓袱台の前にどっかと腰を下ろして宿題のノートを取り出す。
 竜児が麦茶を持ってくると視線を逸らし、その表情はずっとふくれっ面。
「……大河、さっきから何を怒ってるんだよ」
 竜児の問いかけに大河は無言。去年の『怒ってないわよ』と比べて進歩したと言えるのかどうか。
「なあ大河」
「……自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ」
「おう?」
 大河の言葉に竜児は少し思案を巡らせるが。
「……心当たりはねえぞ」
「はあ!? あんた、あれだけデレデレしてたのに言い逃れようっていうの!?」
「でれ……?」
「帰る時! 教室に迎えに行ったら女の子に囲まれてたじゃないの! 私が来たら逃げてった連中!」
「おう、あれは」
「他の女の子と話すななんて心の狭いこと言うつもりは無いけどね、ハーレム状態でニヤつくとか、恋人がいる身としてどうなのよ?」
「……顔、そんなに緩んでたか? いや、だからな」
「言い訳は見苦しいわよ」
「聞けって! あれは俺じゃなくて大河が目当てだったんだよ!」
「……なによ、それは」
「ラクロスとテニスと、あと何だったか……とにかく、運動部のスカウトとか大会の助っ人依頼とか、そんなのだ」
「それが何で竜児の所に行くのよ?」
「大河より俺の方が多少は組みしやすいと思ったんだろうな。あと、俺から頼めば大河も断われないだろう、とか」
「……でも、それじゃ竜児がヘラヘラしてた理由にはならないわよね」
「誤解させたならすまねえと思うけど……恋人が褒められて嬉しくならない男はいねえだろ」
「え?」
「だから、あの子達が大河は凄いとか可愛いとか、そんなことを口々にだな」
「そ、そんなこと……」
「……なあ大河、俺がそんなに浮ついた男に見えるか?」
「それは、その……し、証明しなさい!」
「おう? 証明って……何をどうやって……」
「あんたが浮気なんてしないって! 私をどれだけ愛してるかって!」
「……よしわかった。たっぷり思い知らせてやるから覚悟しろよ」




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