気だるい体に鞭を打って、傍らの大河を起こさぬようにそっとベッドから抜け出す竜児。
 最低限の衣服を身につける途中で袋の中身が随分と残っているのに気づき、それを手にして台所へ。
 片手鍋に牛乳を入れ、温まるのを待つ間に個包装を剥く。
 沸騰直前に火を止めてそれを放り込み、白に溶けていく茶色を見ながら考えるのは妙な入れ知恵をしたのは誰かということ。
 櫛枝実乃梨かあるいは川嶋亜美か、はたまたその両方か。
「後で大河に白状させねえとな」
 文句をつけるべきなのか礼を言うべきなのかはわからないけれど。
「……りゅうじ」
 マグカップ二つを取り出したその時にかけられる声。振り向けば、素肌に毛布を巻きつけた大河の姿。
「おう、夜明けのコーヒーならぬホットチョコレートだ。飲むだろ?」
「ん」
 答えた大河は、しかし竜児がマグにホットチョコを注ぐ間も動かずに。
「大河?」
「飲ませて。手離したら毛布落ちちゃうから」
「おう」
 竜児は大河の口元にマグを持ってい……こうとしてふと思いつき、その中身を口に含むと大河と唇を重ねてゆっくり流し込む。
 こく、こくとそれを飲み下した大河は、唇を離すと頬を赤らめつつもちょっと不満顔。
「……ホワイトデーまではまだ一ヶ月あるんだけど?」
「おう。その時までにすげえの準備しといてやる。期待しとけよ」
「き、昨日より凄いの? ……やだ、壊れちゃうかも……」
「……そっちじゃねえよ」



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