「……これで、高校生活も終わりなのねー」
「おう、色々あったからなあ……さすがに感慨深いものがあるよな」
「よかったこと、悪かったこと……ま、トータルで見れば良い事の圧勝かしらね」
「おう、そうだな」
「ねえ竜児、最後に思い出の場所を見て回るってのどう?」
「悪くねえな。どこから行く?」
「どこも何も、ここが最初よ」
「おう?」
「国立選抜理系クラス。私が狩野すみれと大立ち回りを繰り広げた場所じゃない」
「……おう」
「探せばどっかに傷ぐらい残ってるかも」
「つ、次行こうぜ、次」
「んー……じゃ、屋上」
「おう、時々昼飯食ったりしたもんな」
「それもあるけど……ほら、みのりんのジャンピング土下座」
「……そういやそんなこともあったか」

「あ、そういやこの階段も」
「どうかしたか?」
「ほら、クッキーの時。私が足滑らせて落っこちて、竜児が受け止めてくれて」
「おう、我ながらあの時はよく届いたもんだよな。案外本当に泰子の超能力のおかげだったりして」
「……何それ?」
「いや、小学生の頃にな……」

「むー、やっぱり体育館は片付け中ねー」
「ここは色々あったよなあ……ミスコンに、生徒会長選挙に、クリスマスパーティに……」
「私が竜児にキズモノにされた場所でもあるわね」
「おうっ!? な、何だよそれ?」
「顔面にボールぶつけられた」
「おう……いや、あれはどっちかというとお前のドジのせいじゃ……」
「鼻血まで出したんだから。ちゃ〜んと責任は……とってもらってるわね、考えたら」

「グラウンドといえば、体育祭と……福男レースか」
「ねえ竜児」
「おう?」
「あの頃はまだ、私のことが好きってわけじゃなかったのよね?」
「まあ、少なくとも自覚はしてなかったな」
「なんであんなに頑張ってくれたわけ?」
「それは……教えねえ」
「はあ? 何でよ?」
「今更改めて言うとか、恥ずかしいじゃねえか」
「そう言われるとかえって聞きたくなるわね……ほら、観念して言っちゃいなさいな」
「……その、何だ。俺が大河のために頑張らない理由がねえだろ」
「へえ、そう……って、格好良い言葉で誤魔化そうとしても無駄だからね。さあ、吐け〜!」

 そして二人が足を止めたのは一つの教室の前。
「……やっぱ、ここよね」
「おう。一年弱しか経ってないのに、えらく懐かしく感じるよな」
「あ、竜児、ちょっと待って」
「ん? 何だ?」
「私が先に入るから、そうね……10秒ぐらいしてから入ってきてくれない?」
「おう? 何でだ?」
「いいから! ステイ!」
 言い残してがらがらぴしゃんと戸を閉められ、竜児はただただ呆然と。
「……なんなんだ、一体」
 言われた通りに10数えて、教室に入るとそこに大河の姿は無く――いや、あった。
 ロッカーの蔭、姿見の鏡に映っている、手足を脅威的に小さく丸め、コンパクトサイズになってちんまりとうずくまっている後姿と後頭部が。
「おう……」
 ともかく中に入り、そちらに足を進めること数歩。
「あ〜っ……」
 かすかな悲鳴と共にゴロンと転がり出てくる大河。ちょうど竜児の目の前に。
「……」
「……」
 恥ずかしそうに見上げる大河と、呆れたように見下ろす竜児。
「あー……大丈夫か?」
「……驚かせようと思ったのに」
「言っとくけどな、見えてたぞ最初から」
「え!? 嘘!?」
「お前、ロッカーの横に鏡があるの忘れてるだろ」
 大河の手を取り、立ち上がらせながら竜児は。
「あのさ」
「ん?」
「好きだ」
 大河は一瞬きょとんとして、見る間に頬を赤らめながら俯いて。
「ん?……たい」
 ガスッ!
 顔を覗き込もうとしたその瞬間、伸び上がった大河の頭突きが竜児の顎を直撃する。
「な、何こっぱずかしいこと、真っ昼間っから言ってんのよ! そういうのは、もっとこう、むむむ、ムードとか、そーゆーのが……」
「お前なあ……! いいじゃねえか! 言いたくなっちまったんだから!」



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