「みのりん……」
 カーテンが僅かに開く音と共にかけられた声に振り向けば、使用中の試着室から小さな顔だけが突き出していて。
「どうだね大河、実際に着てみた感想は?」
「や、やっぱりちょっと恥ずかしいんだけど……」
「えー、まだ? 恥ずかしいからって露出控えめのスポーティなタイプにしたんじゃん。胸元だってしっかりカバーされてるし」
「でも、ほら……おへそとか見えちゃってるし……」
「そりゃ、お腹まで隠すビキニなんてのは無いさね」
「ねえみのりん、やっぱりワンピースじゃだめ?」
「大河……いいかい、私ら受験生には、プールで遊べるような機会なんてのはめったにないんだよ」
「う、うん」
「だったらその数少ないチャンスに目一杯アッピ〜ル!しないでどうするのさ」
「それは、そうだけど……」
「だ〜いじょうぶ! 高須くんだってきっと喜んでくれるから!」
「……そうかな……?」
「ビキニ女子が嫌いな男子なんていません! とはいえそうだね、勧める身としては出来を確認しとくべきか……大河、カーテン開けてみて」
「ふぇ? だ、駄目っ!」
「いいじゃんいいじゃん、女同士なんだから恥ずかしがることないって」
「ちょっとみのりん! 駄目だってば!」
 カーテンを開けようとしたり閉めようとしたり覗こうとしたりガードしたり、数分間のどたばたとした攻防の後。
「……高須くんの技術に敬礼」


 数日後、更衣室にて大河が取り出したのは去年と同じ赤の小花が散るワンピースの水着。
「あれ? 大河、新しいやつは?」
「んー……竜児が、ちょっとね」
「あちゃー、お気にに召さなかったかね」
「ううん、最初驚いてたけど、良いって、似合うって言ってくれた。喜んでた」
「じゃあ、何で?」
「その、『他の奴には見せたくねえ』って……」



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