「ただいま」「やっちゃんただいまー」
 二人並んでドアを開けた次の瞬間。
「竜ちゃん大河ちゃんおかえりぃ〜〜っ!」
 目じりに涙を浮かべ、砲弾のような勢いで飛んでくる泰子。
「おうっ!?」「やっちゃん!?」
 どうにか受け止めた竜児と大河を二人まとめてぎゅうぅぅぅっと抱き締めて、そのまますりすりと頬ずりを。
「やっちゃんね、やっちゃんね〜、寂しかったんだよ〜」
「あのなあ……俺達が引っ越してからまだ一週間も経ってねえじゃねえか」
「寂しかったものは寂しかったんだも〜ん」
「わかった、わかったから離せ。朝飯作れねえだろ。あと大河が窒息する」
「ふえ? あ、ご、ごめんね大河ちゃん〜!」
「……あ、あやうくやっちゃんの胸に関する第二のトラウマを植えつけられる所だったわ……」


「はあ……やっぱこの家が落ち着くわね〜……」
 仕事に行きたくないとごねる泰子を今日は泊まるからと説得して送りだし、手馴れた動きで掃除を始めた竜児を横目に大河はちゃぶ台に突っ伏してのんびりモード。
「なんだよ、それじゃあっちの家じゃ落ち着かないみたいじゃねえか」
「当たり前じゃない。あっちじゃまだ10日も暮らしてないんだから」
「そりゃそうだが……一応『わが家』なんだしさ」
「それに、落ち着くよりもドキドキしちゃうのよね、まだ」
「おう?」
「だって、竜児と朝から晩までずっと、ずぅ〜っと二人きりなんだもの」
「いや、二人で居ることなんて今までしょっちゅう……」
「まったく……これだから女心のわからない鈍犬は……」
「お、おう?」
「ま、いいわ。ねえ竜児」
「おう」
「ドキドキしたくなってきちゃったんだけど」
「……駄目だ。まだ掃除が終わってねえ」
「後で私も手伝うから」
「…………まったく、しかたねえなあ……」
 ハタキを置いて、竜児の手が大河の頬に添えられたその瞬間、開かれたのは玄関の扉。
「あれぇ〜?」
 瞬間固まり、ぎぎぎと首を回してそちらを見やれば焦りの表情を浮かべた泰子の姿。
「ご、ごめんね、竜ちゃん、大河ちゃん。その、やっちゃんお財布忘れちゃって……」




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