「……おう……」
 鏡に映しだされたすっきりと整えられた前髪に、竜児は思わず感嘆の声をあげる。
 つんつんと軽く引っ張ってみるとしっかり感触があって、どうやら夢や幻ではないらしい。
「……なによ竜児、その感慨深げな表情は」
 切った髪を新聞紙ごと片付けながら唇を尖らせた大河に竜児は苦笑を返し。
「だって、前の時はなあ……」
「前?」
「ほら、俺が髪の毛を焦がした時」
「……! あ、あれはハプニング、不可抗力じゃない!」
「おう、そうだったな」
「何年前の話を持ち出すのよ。大体、それが人に髪を切ってもらってとる態度?」
「おう、すまねえ。ありがとな、大河。おかげでさっぱりしたぜ」
「何言ってるのよ竜児。さっぱりするのはこれからじゃない」
「おう?」
「髪の毛切った後にはすることがあるでしょ」
「……いや、それは自分で」
「遠慮しなくていいわよ。ほら、いつまでも座り込んでないで」
「別に遠慮とかじゃなくてだな」
「なによ、いまさら恥ずかしがるような仲でもないでしょ?」


「なあ高須」
「おう?」
「お前、今日はなんか微妙にフローラルな香りがしないか? 髪切ったついでに整髪料変えたとか?」
「いや、昨日ちょっと……シャンプーを間違えてな」



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