とある休日の昼下がり。
「ふっふ〜ん♪」
「…………。」
 高須竜児は思わず眉をひそめた。
 晴れて昨年愛妻になった“高須”大河が、秋口だというのにキャミワンピ一枚でウロウロしているのだ。
 しかもわざわざ彼の前で「あ、ゴミが。」などと言ってしゃがんだりする。
 もちろん竜児が部屋のゴミなど見逃す訳がなく、要するに大河のおふざけだ。
「ふっふふ〜ん♪ あ、ここにもゴミが……」
「──大河。」
「なによ?」
 呼ばれてテテテ、と寄ってきた大河が、目の前でくねくねと身をよじる。胸の下で手を組んで、まるでどこかを強調するように。
「……あのな。」
「なに、竜児。」
 へいへい、わかってんだろカモン! YOU言っちゃえよ! ──な態度を総スルーし、竜児はその場でシャツを勢いよく脱いだ。
 きゃーっと頬を染める大河に、頭からすっぽり被せる。
「やだ、竜児ったらまだ昼……
 ……何よこれ。」
「妊婦なんだから、身体冷やすんじゃねえ。」
 ぷいと横を向いた夫の態度に、大河はみるみる頬を膨らませてぶうたれた。
「竜児の鈍感犬!」
 自分のよりもふた周りは大きい素足をぎゅっと踏んづけ、さらに言い募ろうとした瞬間、ふわりと肩を抱かれて。
「……その、さ。産まれるまでは、あんま触んねえほうがいいんだと。」
 どこの話かは言わずもがな。
 ──だから、頼むから。そんなに挑発するんじゃねえよ。
 耳元でボソッとそう告げられ、言われた方も言った方も真っ赤になる。
「あっ……そ、そう。わかってるならいいのよ、わかってるなら……」
「お、おう……」
 謝罪代わりか、踏まれた箇所をそのまま足の裏ですりすり撫でられ、竜児は全身を総毛立たせた。
「た、大河……っ!」
「こないだの検診でねぇ、安定期に入りました、って言われたの。」
 頬を染めたまま、意味深に微笑む大河の手が、竜児のアンダーシャツの裾をぎゅっと掴む。
「し、知ってるよ。一緒にお前の大好物山ほど作って、お祝いしたじゃねえかよ。」
「私、今、安定期なのよ。」
「だから、知っ……。
 …………昼だぞ?」
 答えずにまたんふ、と笑った妻を、竜児はため息をつきつつそっと抱き上げた。



「見るだけで触れねえってキツいよなあ……」
「ちょっと舐めるくらいならいいよ?」
「ばっ……! 刺激する自体ダメなんだよ。」
「先っちょを避ければ大丈夫って、あんたの買った雑誌に書いてあっ──」
「わあああ! なに勝手に読んでんだ!?」
「今日び、育児雑誌でもそういう特集組むのねー。にんしんちゅーのせーせーかつ、とかさ。
 ご丁寧に付箋までつけちゃってまあ、このエロ犬め♪」
「…………。」
 とうとう口をつぐみ、くすくす笑い続ける新妻をベッドに優しく転がす。
 窓を閉め、カーテンを閉めると、やがて薄暗い寝室には衣擦れと甘い囁きだけが満ちた。



        《おしまい》




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