「み〜のりん♪」
「おや大河、どうしたね?」
「今日は部活休みでしょ。久しぶりに一緒に帰らない?」
「そりゃもちろんOKだけど、高須くんは?」
「あー、いいのよあんな馬鹿犬は」


「で、何があったのよ」
「なによばかちー、勝手についてきて野次馬根性丸だしとか、ちょっと会わない間に随分とオバサン化が進んだんじゃない?」
「あのね、実乃梨ちゃんと帰る先約はこっち。割り込んで来たのはあんたじゃない。それに、暇さえあればイチャイチャベタベタしてるあんたと高須君がケンカしてるとか、気にならないわけがないでしょ」
「むー……」
「ねえ大河、そのへんは私も気になるっていうかさ、心配なんだよ。何か力になれるかもしれないし、よかったら話してくれないかな?」
「……昨日、竜児が英語の宿題で苦戦してたのよ。それで教えてあげようとしたら、自分で考えないと意味が無いやつだからって……」
「いや、それは……」
「高須君の方が正しいんじゃね?」
「私だって、いつもだったらそれぐらいで怒りゃしないわよ。でもね、ここのところママの仕事が忙しくて、私もずっと弟の世話があって……久しぶりに家にきた恋人を放って机にかじりついてるとか、許せないと思わない?」
「……ごめん大河、ちょっと審議ング・タイム、いいかな?」
「? いいけど……」
 怪訝な表情を浮かべる大河を尻目に、実乃梨と亜美は顔を寄せ合ってひそひそと。
(あーみん、どう思う?)
(久しぶりってのがどれぐらいかによるわよね……)
(私らの目の前に転がってるのは蜂蜜と砂糖菓子を詰めた対人地雷だ。うかつな答え方をすると……)
(愚痴に見せかけたお惚気ストームをくらうわね……っていうかさ、あいつら家には行ってなくても基本的に登下校は一緒なんでしょ?)
(そうだよ。今日は私朝練だったからわからないけど)
(……ちょっと、贅沢じゃね?)
(いやでも、あの二人だしねえ……)


 と、鳴り響いた軽快な音楽は大河の携帯の着信音。
「はい。あ、ママ。 
 ……ううん、今帰る途中。
 …………居ないけど。
 ……うん。
 ……え? でも、昨日も行ったのに。
 ……な、なんで知ってるの!?
 ……ううう……
 ……うん。ありがとね、ママ」
 通話を終了した大河は、すぐさま別の相手に電話をかける。その顔はなぜか少し上気していて。
「……あ、あのね竜児。その、今ママから電話あってね、今日の仕事が相手の都合でキャンセルになったんだって。
 それで、早く帰ってくるから、私は今日も竜児の家に行っていいって……行っても、いい?
 ……ん、別に何でも。
 ……わかった、かのう屋の前ね。
 ……あ、あと、その……昨日は、ごめんなさい。
 ……ん、それじゃ」
 携帯を閉じた大河の表情はこぼれんばかりの微笑みで。
「ごめんみのりん。そういうことだから、一緒に帰るのはまた今度でいい?」
「……あー、うん、いいよ、大丈夫」
「ほんっとごめん。それじゃ、またね」
 今にもスキップでも始めそうな大河を見送りながら、呆然と立ちつくす実乃梨と亜美。
「……ねえあーみん」
「……実乃梨ちゃん、何?」
「……ちょっとさ、スドバ寄ってかない?」
「……いいわね、それ。ラテでも飲みましょ」



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