「タイガー、ほらほら」
「ばかちー。今日のスゴレンには挑まない方がいいと思うよ?其の方に迎撃の用意あり?大丈夫?」
「なに言ってんだかわかんない……じゃあこれ!」

(スゴレン - 08月13日 07:00)
女性が理想とする「付き合って初めてのキス」9パターン

【1】「キスしていい?」と聞かれてからキス
【2】「チューしよっか」と誘われてからキス
【3】「キスしたい」と一方的に言われてキス
【4】「目をつむって」とお願いされてからキス
【5】何も言わずに自然な雰囲気でキス
【6】エレベーターや公園など二人きりになった途端にキス
【7】握っていた手で体を引き寄せられてからキス
【8】不意打ちで無理矢理キス
【9】帰り際に引き留められてキス

「さあタイガー、どっからでも来な」
「うわあ、なんかすごくいい笑顔になってる……白状すると【5】だよ」
「……ふう。じゃもう他はコメントの必要なし!で?」
「あんたたちに逃げるの手伝ってもらってさ、竜児のお祖父さん家に行って泊まった夜の話」
「うん、うん」
「離れの部屋でお祖母ちゃんが布団敷きに来て、私てっきりおひとり様だと思っていたわけよ」
「初めて具体的な話きくね?そんなに詳しく、いいの?」
「ま、ばかちーならね。……それで布団二組敷かれちゃったわけですよ」
「『ですよ』!?あ、まあ話の腰折ってすまんわ」
「『いずれ結婚すんのよねっ、いっしょでいいわねー』とか言われちゃって私も『うん!』とか」
「ああ、ちょっと舞い上がっちゃったわけだ?」
「そうそう。で、並んだ枕見て我に返ってさ……現実感っていうかね。ああ乙女のわたし今日までありがとう、みたいな」
「ゴクリ。……でっ?」
「とりあえずパジャマに着替えました」
「あんた緊張すると語尾が丁寧語になる人だったんだ?まあ別にいいけどさ」
「うん。そうこうしているうちに竜児がお風呂上がって部屋にくるわけですよ」
「ちょっ、ちょっと待って!飲み物お代りしよっ!?なんか食うっ?かぼちゃパイ!おっけー、おごるっ」
「……どっちが緊張してるのよ?まあいいや、ラッキー♪」

「さて。高須くんのリアクションからじっくりと訊こうかな」
「ばかねばかちー。そこまで詳しく話せるわけないじゃない?知りたかったら本人に直接訊きな」
「食うだけ食ったらそれかよっ、裏切りものっ」
「しょうがないわね?まあさわりだけ教えてやろう。星が綺麗だったから窓開けてふたりで見上げたわけよ」
「うん。……なんかいいね」
「2月よ?星綺麗ってことは冷え冷えよ?放射冷却って知らない?せっかく温めてもらった部屋が氷のように!」
「ああ……そおっか。寝る前だから薄着だしねー、ロマンティックどこじゃないわけだ」
「そ、そそそそそれが、ぜんぜん気づかないほど、……あ、熱かったですよ?」
「う。……いきなり来るか」
「りゅりゅりゅうじ見たことないほど真剣な顔でこう……ほっぺた包み込まれるようにつかまれてっ」
「うああああわああ……ちょっ!?」
「や、な、なんか基本あいつどおりで優しいのにもう抑えきれないってのも一緒にある感じでっ」
「はーっ、はーっ!そそそれでっ?」
「ちょっとしては……止めるわけですよ。遺憾に思って引き返そうとするわけですよっあの犬はっ!」
「いやあああ!タイガあ!」
「こう、なんか男としてモノにしたいっっていうアレと清廉潔白で闘って行こうとゆうソレとがっ」
「うわっ、うわあっ、それいいっ!あたしもそんな目に遭ってみたいっ」
「だからもっとしてもっとしてって何度もねだったわけですよ私としては。そんな葛藤を目の前でされてみろっ」
「たまらんっ!たまらんわっ!そのまんまあっ、一気にぃっ布団にぃっ倒れ込んだりぃぃ?」
「……いやあ、まず窓しめたよ?『さむいね』『おう』って」
「あ、そりゃそうよね。でっっ?」
「この続きを話すには、そうねえ?プリン・ア・ラ・モード辺りでくちを滑らかにしたいかなあ?」
「おうふっっ!あんたって……あんたって……くっ、アイスティーも付けてやるわっ」
「シナモンティーの方がいいな。あと薔薇の形の角砂糖ふたつ付けて?」
「おおっ、シナモンの枝でテーブルに何でも描けやっ!好きなだけっ!」

 窓際のゴムの木の向こう側の定席で、偶々居合わせていた大橋高校教諭恋ヶ窪ゆり(32)が笑
いを堪えて聞き耳を立てていた。
 パンプキン・パイの歌にはローズ・パイの続編があるのを彼女は知っているけど、あの子た
ちにはきっとオレンジタルト辺りが似合うと思う。薔薇の形の角砂糖が手に入り難くなっても、
女の子はいつも甘いもの好きなのだから。


〜おしまい〜




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