「いらっしゃいませー!」
 元気のいい店員の声に迎えられて、ファミレスに入って来たのは地味目の服装に大きめのサングラスで顔の半ばまでを覆った女性。
 だが、隠しきれない美貌とスタイル、何よりオーラとでも呼べばいいのであろうか、かもし出す雰囲気が周囲の視線を惹きつける。
 案内を断わり、その女性が向かった席に居たのは、逆に周りの人間に視線を逸らさせる眼光を振り撒く極道の若頭……ではなく。
「やっほー、久しぶり、高須君。元気だった?」
「おう川嶋、お前も元気そうだな」
「そりゃもちろん。この業界、体が資本だもの」
「だけど、忙しいんだろ? 最近はしょっちゅうテレビとか出てるじゃねえか」
「まあね。実は今日も久しぶりのオフだったり」
「すまねえな、そんなめったにない機会なのに大河の奴熱出しちまって」
「ねえ、それって本当に熱?」
「おう?」
「昨日の夜、休み前だからって頑張り過ぎて、足腰立たなくしちゃったんじゃないの?」
「っ! ん、んなわけねえだろ!」
「どうだかねー。あんた達の『せいかつ』を聞くかぎりじゃあながち外れてもいないんじゃないの? あ、もちろんりっしんべんの方ね」
「……そーゆーことをどこから聞いてくるんだよ」
「当然、タイガーから聞き出したに決まってるじゃない。ま、あたしは半分以上実乃梨ちゃん経由だけどね」
「……おまえらなあ……」
「や〜だ、怒らないでよ。そのぐらいガールズトークの範疇なんだから。あ、そうそう、これお土産ね。高須君にぴったりの選んできたから」


「……で、これ何?」
「ドラゴンフルーツ、だそうだ」
「なにそれ、駄洒落?」
 川嶋亜美の沖縄土産は尖った鱗が生えた赤い大きな卵のような外見で、なるほど竜の卵と言われればさもありなんといった風情。
「なんでもサボテンの果実だとかいう話だけど……」
 言いながら果物ナイフで二つに割ってみると、その中身は……
「うわぁ……」
「おう……」
 思ったより薄い皮に包まれた果肉は、皮よりも薄い赤……というか、むしろピンク。それも蛍光色に近い感じの。点々と散る黒い粒は種だろうか。
「……これ、本当に食べられるの?」
「……そのはずだが……」
ともかく一口大に切って、おそるおそる口に運んで見れば。
「あら、美味しい」
「おう、これは意外に……」
「甘すぎないのがいいわねー。私この味好きかも」
「おい大河、だからって俺の分にまで手を出すんじゃねえ」
「いいじゃない、病人は労わりなさいよ」
「おまえさっき、もう大丈夫だって自分で言ったばっかじゃねえか」
「あー、ところでこれがどうして竜児にぴったりなのかしらねー?」
「おう? ……やっぱ、名前じゃねえのかな」
「あんたが実は、一皮剥いたら頭の中どピンクのエロエロ犬だってことだったりして」
「そうだ大河、おまえ、櫛枝や川嶋に何話してるんだよ」


「んであーみん、正解は?」
「実乃梨ちゃんならわかるでしょ?」
 ドラゴンフルーツをつまみながら、亜美は僅かに微笑んでみせる。
「んー、見た目でちょっと引かれがちだけど、実際の所中身は優しくて甘いってとこかな?」



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