某月某日、高須家。
今日は祝日で学校は休み。いつも通り竜児の作った朝御飯を食べて、竜児の作った昼御飯を食べて…そろそろお菓子の時間。

「それじゃあ、行って来る」
「は?何処行くのよ?」
「…なんで聞いてないんだよ…」
のはずだったのに…テレビを見ている横でさっきからゴソゴソ動き回っていたと思ったらそんな事を言い出した。呆れ返った極悪面を寝そべったまま見上げると「ちゃんと起きて話なさい」だって…。ほんと、うるさい。
「…顔に出てるぞ」
「あらやだ遺憾だわ」
「…」
心底嫌そうに顔をしかめて見せるけど、やめて欲しい。極悪面に金棒だ。
その実、見た目だけの面が小さな溜め息を一つ。説明するため膝を折った竜児にこれ以上うるさくされたくないから渋々体を起こす。
「ちゃんと聞けよ」
「だからわざわざ起き上がってあげたでしょ。おら、グズグズすんな早く言え」
「…あのな」
一瞬口元が引き吊った気もするけど多分錯覚だ。もしくは幻覚。


話の内容は、何とも竜児らしい理由だった。
タイムサービスがどうだのグダグタ言っていたけど…要は買い物らしい。
「なに、それだけ?はぁーあ!起き上がって損しちゃった!」
「お前が最初の時点で聞いとけばよかったんだろ!?」
「はいはい。早く行けば?」
「…行ってくる」
再び畳に寝転がりながら手をヒラヒラ振ると立ち上がる気配を背中越しに感じる。
「あ、竜児お菓子よろしく。後晩御飯はお肉ね」
「今日は魚だ。もう下ごしらえも万端だしな」
菓子はなんでもいいな、と言って遠ざかる声。
ちっ!魚か…まあいいけどね。竜児の作るご飯はどれもおいしい。
「行ってきます」
「ん〜」
バタン、と玄関のドアが閉まる音がしてガチャリ、と鍵。


さほど広くない部屋にテレビの音だけが響く。
「…」
チャンネルを適当に回してみたけど興味をひくものはなかった。そうするとその音はただの雑音に聞こえて、電源を切った。
「んんー!ふぅ」
大きく伸びをして凝り固まった筋肉をほぐす。
今度は完全な無音。
「…」
何となく、竜児の寝床から枕を取ってきてぎゅっと抱き締めてみた。鼻を押し付けて胸一杯に息を吸い込む。
「…竜児…遅い」
竜児の匂いが胸を満たし、余計に…寂しい。
「早く帰って来い…駄犬」
今しがた出てったばっかりなのにね。思わず呟いてしまった。
どうしよっかな…いっその事寝ちゃおっか。
ゴロン、と後ろに倒れる。
ガンッ!!
「いっ!?」
思いっきりテーブルの角に頭をぶつけてしまった。
「い…たい…」
ズキズキと痛む後頭部を押さえテーブルを睨みつけるけどすぐに馬鹿らしくなった。


「…寝よ」
今度こそ背後に気を付けて横たわる。勿論腕には竜児の枕。ゆっくりと睡魔が襲ってくる。
次に目を覚ましたら三角眼が拝める事だろう。そう思って弛む口元は自覚している。
…と、そこに機械音。
まどろみ始めた意識を現実に引き戻された。
「…なんだってのよ」
機械音の根源、電話をテーブルを睨んだ時より強く睨みつける。その間も鳴り止まない騒音。居留守をするつもりだったけど、気が変わった。私の眠りを妨げた不届き者にはそれなりの罰が必要に決まってる。
「鼓膜破ってやる」
ゆらりと立ち上がり、受話器を手に取った。
始めから怒鳴るよりは油断させといてからよね。
それこそ天使のように。
「はい、もしもしあい…」
顔までスマイルで決めてはた、と自分の状況に気付く。
勢いで取ってしまったがこれはあくまで高須家の電話。つまり…それって…
「…た、たかす…です」
っ!!



竜児は帰って来て早々ただのガラクタの塊となった電話を見て悲鳴を上げ、私は暫く畳の上を転がっていた。



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