週の半分は北風が吹いて夜冷え込むようになればもう冬本番。先日、2年ぶりにこたつを出
した高須家でもそこから動かない、いわゆる“こたつむり”が発生していた。

「にゃはぁ〜☆」
「にゃあ〜」

 昼間っからえんえんこたつみかんテレビを相手に暮らしているでかいのと、大学から帰るな
り料理の様子をふんふん嗅ぎまわって納得いくまで検分したのち寒む寒む言いながら滑り込む
ちっこいのと、この家には二匹猫がいる。

「ちょっと!すきま風入るじゃないの竜児。閉めて閉めて」
「お前な……俺がいくら冷えても平気なのかよ?」
「ファーの長〜いポカポカスリッパ買ってあげたでしょ。ぐだぐだ言わないっ。はやくご飯作るっ」
「へえへえ、じゃこれおろしとけ」
「辛くならないように拝みつつ……やさしく……」
「そう、しょりしょりとな」

 まあこんな感じでその日の炊事当番が冷え冷えの台所仕事をしているうちに、でかい猫の泰
子が「さてっ☆」と気合いを入れるとこんな時ばかりは光の速さで出勤の準備を終え、お腹の
底から温まる竜児の得意料理、白菜と豚肉のおろし鍋(今日は豆腐や茸も入った本格レシピ)で
夕飯を済ますとお尻ふりふり出かけて行った。

「にゃー」

 こたつに埋まって目を細めてる茶虎のちっこい猫の向かいで茶をすする竜児。

「こたつ好きだな」
「こんな幸せな家具があるなんてー。もう自分の部屋にも買うー」
「じゃあ明後日くらいに電器屋行くか」
「うんー」

 おうそうだ、忘れてた。と竜児が自分の部屋に引っ込み、すぐ出てきて大河の背後に回り肩
に掛けてくれたのはモッコモコ綿が詰まった丹前。

「こ、これって?」
「おう作った。帰り途にミシンメーカーのショールームがあっていつか使ってやろうとな」
「あんた私のサイズなんて……そりゃ知ってるか」
「そりゃ身頃から丈からな。そんなにぴったりしなきゃいけないモンでもねえし」
「へへへ」

 つるんと袖を通して前ひもを蝶結びに。あちこち少しずつゆったりめだが室内用の防寒着だ
からこれでちょうどいいのだ。どうよ?と広げて身体を左右に揺すってみたりする。

「あれ?あんたのとか、やっちゃんのはどうすんの?」
「とりあえずお前の分作ってみてうまく行ったからこれからだな」
「なによ、わたしゃ実験台か」
「人聞きが悪いな。彼氏が手作りの着るものプレゼントするカップルってそうねえぞ?」
「それもそうね……へへへあったかぁ」
「持って帰って自分ちで着てもいいし。そんならもう一着作ってやるから」

 へへへ……へへ……へへ……。嬉しそうな様子で良かったと思いながら竜児はこたつの向か
いに入り直す。と、胡座をかいたひざにとんとケリが入ってそのまま膝頭をさわさわと撫でま
わされた。他に誰もいないし、もちろん大河の小さな足によって。

 優しくされるのに慣れていなかった大河にも慣れは訪れる。人並みより優しい性格の竜児に
対してはひけ目を感じやすいけれども、付き合っていれば納得するもの。


 それでもこんな風に当たり前に……特別に優しくしてもらうことにまで慣れろというのは無
理がある。嬉しくて気恥ずかしくて、もうこのまま爆発したっておかしくない。それほど竜児
に愛されていると思う恍惚と不安ふたつ我にあり。頬も耳も額も熱くテンパってしまう。

(ぜんぶ竜児が悪い!)

 いや未だに処理しきれない自分が一方的に悪いのは知ってる。でも、少し慣れるたび予想外
のこんな好意をぶつけてくる竜児の方が規格外なのであって、もうちょっと素っ気ないくらい
が普通のはずだ。釣った魚にいつまでも餌をくれる男の恐ろしさ!このまま行くとそのおいし
さに甘えてプクプク太っちゃう。そしたらその小デブが可愛いとか真顔で言われるに違いなくて。ひーっ!

 大河はこたつの中でソックスを脱ぐと、裸足の足を竜児の股間に突っ込み、親指と中指で柔
肉を挟むと思い切りねじ上げていた。

「あ痛ててててっ!!」
「あ、ごめん」

 な、何すんだー!と涙目の竜児の表情に、舞い上がった気分もかろうじて抑えられた。

「内腿とか痛えだろ!もっと奥だったら取り返しのつかないことに!」
「ごめんごめん。ちょっとアタマおかしくなってた」

 大河は後ろ手を畳についてこたつに腰を潜り込ませると竜児の腿をすりすり撫でて遺憾の意
を示してみる。これでも暴れ方はずいぶんおとなしくなったと思うが、キャパの少なさは相変
わらず。
 まあその辺りは竜児だってじゅうーぶん分かった上で好きに……ひーっ!危ない危ない。

「ん?あっ!ちょ、ちょっとあんたっ!」
「何かなー。受けて立ってるだけだしなあ」

 こたつの中で足首を竜児に捕まえられ、敏感な土ふまずを、ついでくるぶしの周辺を触れる
か触れないか玄妙な手つきでさわさわ……と。

「ん、んぁっ!!こらっ!!うひぃっ!!!」
「んー。足も指もちっちゃくて可愛いなお前」
「ひゃ、ひゃめっ。くすぐったっぁあーーっ!!」

 竜児の目からはこたつの向こうで丹前の袖を振りじたじた暴れるくすぐったがりタイガーは
風に煽られるやっこ凧のようで楽しい。まあしかし本気でつらそうなのですぐ離してやる辺り
はこの男の甘さというか、優しいところ。
 そんなこんなでこれで終わりかと思いきや、卓上の湯飲みを傍らの盆に置き換えている。つ
まり第2ラウンド行くぞという意思表示でもあり、それを大河とは一瞬の視線のやりとりで了
解した。
 どうやら竜児もこたつのインナースペースでもぞもぞ靴下を脱ぎ裸足になったらしく猫背に
なって準備も完了。

「ほれ。さわさわ……と」
「なに?楽しいのそれ?」
「……お前が乗ってくれないとなんかアホみたいじゃねえか」

 この隙に体勢を立て直してぺたんこ正座した大河の膝頭に、やがてさわさわでなくぐーるぐ
ると円を描き始める竜児の足指。む?……むぅぅ。これはこれでピンポイントにこそばゆい。


「じゃちょっと乗ってやろう。くすぐったいってのっ!あーもうっ」
「あ、やっぱりガマンしてたな」
「触るか触らないかがね。そんなにゴリゴリされても平気」
「これは?」
「親指」
「じゃこっち」
「中指?あ、ちょっと!」
「お、効いた」
「たぶん爪切ったときささくれ残してるよ。ちくちくする」
「そうか?……ああほんとだ。大事な女の肌に傷つけちゃいけねえ」
「なっ!?言うに事欠いてそのおっさんくささっ!」
「お、おっさんか!?俺」

 ついっと立って爪切りを出した竜児はさっと手入れして戻る。

 まあ言ってみればこの“間”が分かれ目みたいなものになった。従前のじゃれあいを続行し
ようと温かなこたつの中で伸ばされた竜児の足は、大河の膝をつるんと弾かれた勢いで奥へと
導かれる。

「お?」

 少し驚いた表情を頬づえの顔で眺めた大河の両膝は竜児の足を挟みこんで逃がさない。

「なんだよ……」
「ちょっと冷たくなってる」
「おう、こっちは温けえ。そんでもって……柔らかい」
「あの……あんまり前後に動かさないでよ」

 微妙に指先だけ触れているのか。動かしたくても大河の脚力は凄まじく、押しても引いても
動きゃしなかったけど。

「ああ。ていうか、なんでいきなりこんな雰囲気になっちまったかな?」
「やばいよね?」
「なんかな」
「どうしよ?」
「どうしようったって」
「ここで膝を緩めると襲われそうな気がするね」
「いや、そんなことは……しねえけど」

 とりあえずそっちに行ってもいいか?と竜児のつくる真顔にうん、と答えた大河は込めた力
を抜いた。その後ぐるっと回り込んで背中から小さな身体を抱え込みながら「いやまあ、」ふ
たり一体でこたつに浸かり直した竜児は言いかけた言葉を継いで。

「これでとりあえずは、とりあえずだ」
「あんたはそれでとりあえずなのかも知れないけど」
「ん?」
「私の方はどうしてくれるわけ?」

 ぐるん、と懐の中で器用に回って、おおお?と言う間もなく肩を押されて竜児は後ろへとゆ
っくり倒される。

「私だってね、あんたのこと。こうしたいもん」
「そうか、すまねえな」

 仰向けで枕のように首を抱え込まれては逃げることも留まることも難しく、そもそも逃げる
気などはなく。遠慮なく体重をかけてくる柔らかく熱い者を抱きとめた。


「しかしなー」
「んー?」
「これでどうにかなるっていうのも何か、ちょっとした抵抗感があるんだよ」
「そうなのよね。なんかこたつに騙される感がシャクといえばシャクで」
「そういうわけで、しばらくこのままでいねえ?」
「うん賛成……あの、竜児?」
「おう?」
「あったかい丹前作ってくれてほんとにありがと」

「そういう態度をとるのはやめろ……」
「やめらんない」

 ぎゅっと首っ玉にしがみついて、鼻先を擦りつけながら耳元に響く大河の声と頬をくすぐら
れる睫毛の感触に竜児は耐える。

「好きだもの」





 さて。ここで問題です。
 このあと竜虎は何をする?

1)当然らぶらぶねっとりとギシアン!
2)竜児が超人的鈍感犬能力を発揮して耐え抜き、しばらくイチャイチャバリエーションを継続する!
3)睡魔に襲われ竜虎ともにアウト!寝落ち!変則的朝チュン!
4)お腹が減り連れ立ってコンビニへ行き弁当争奪戦!
5)その他(やっちゃんが帰ってくるとか、いきなり竜児の親父が訪れるとかね)

 正解者、というか答えを書いた人は続きを書いて読ませてねwてか冬のこたつ祭り?



〜おしまい〜



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