「大河、知らないのか。
口の中には雑菌がたくさん居るんだ。歯と歯茎の間にできるプラークは食物かすに雑菌が大量増殖しているやつだし、それ以外にも口の中にいつも住んでいる雑菌がたくさんいる。そもそも口の中は体の中でありながら外という難しい場所だ。
口から入って消化器官に至るまで、体の中だが、実際には血管やなんかが露出しているからな。そう言うところに食べ物という異物が流れ込むんだから、体の免疫系統の相当部分が口から始まる消化器官に集中している。
つまり、口の中には考えられないほどたくさんの雑菌が居る上に、薄い粘膜が気づけば血やら体液やらにまじって攻撃的な白血球がどんどん出てくる。そういうところなんだぞ。だから唾液ってのは」

北村、亜美、実乃梨、春田、能登、摩耶、奈々子といった古い友達が久々に集まった高須家のホームパーティー。一同が息を呑む中、竜児は脂汗を流しながら目を血走らせて必死の説得を試みる。だが大河は聞いちゃいやしない。

そして柔らかそうな頬を桜色に染め、見る物をとろかすような微笑みを浮かべながらフライドチキンをはさんだ箸を突き出す。

「はい竜児、あーーーーーーん」

(おしまい)



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