気づいたとき竜児は知らない街にいた。
 しかもなぜかサンタの格好をして。当然クマでもヌーディストでもないきちんとした
サンタの服で背中には袋も背負っている。
 周囲の家からは団欒の声が聞こえてきてるというのに、通りに人気は感じられない。
 訳も分からず辺りを歩いていると、一軒だけ妙な家があることに気がついた。

 その家は窓から明かりが一切消えていて、聖なる夜を祝う声も全く聞こえてこない。
まるでこの世界から取り残されたように。目立ちたくない様子だが、周りの家が明る
い雰囲気に満ちているせいかかえって逆に目立ってしまっている。

 不審者オーラ満々でその家を覗きこむ竜児だが、やがてあることに気がついた。

 ・・・あのクリスマスツリーに飾ってある星って・・

 そう思った瞬間にはもうその家の敷地に入ってしまっていた。

 * * *

 ツリーが見える大きな窓に近づいてよく観察する。
・・・間違いねぇ。なんでこんなところに。
 そう思っていた竜児だが急に聞こえてきた声によって急に思考を中断させられる。

 

「・・・サンタさん?」

 ふと視線を落とすとそこには今よりずっと幼いが、見間違えようがない。

・・・逢坂大河がそこにいた。

「ねえ、サンタさんなんでしょ?そうでしょ?」
 幼い大河は窓の外にいる竜児に興味津津。とてとてと窓辺まで歩いてくると
あっさり鍵を開け竜児を家の中に招き入れた。不用心すぎるだろ、
とはこの雰囲気ではさすがの竜児も言い出すことはできない。
 今も大河は大きな目をさらに輝かせ、竜児のことを見つめてくるのだ。

「ああ、そうだよ」
 実際はサンタでもなんでもないがこんな純真な目で見つめられて
否定できる奴なんかいやしない。現にサンタの「格好」はしてるんだから
全く嘘というわけでもない。

「プレゼントは?」
・・・まあそう来ますよね、普通。

「えーと・・・」
 どうすりゃいいんだよ。子供といっても大河は大河、持ってきてない
なんていった日にはなんて言われるか分かったもんじゃねえしな。
 そう思いつつも一応竜児は袋の中を探ってみる。



「お!こんなのでどうだ?」
 袋の中から見つけたのはドラゴンをモチーフにした
一見枕のようにも見えるぬいぐるみ。
「・・・可愛くない」
 こいつこんなに小さかったときからこんなだったんか?とは思わない。
実際本当に可愛くないし、おまけに目つきも悪い。非常によろしくない。
「でも・・・ありがと」
 しかしクリスマスの時いい子なのは小さい大河も同じらしい。
まるで宝物をもらったかのように大事そうに胸に抱きかかえて、
そんな無邪気な様子に当然のことながら竜児の胸もなんだか暖かい気持ちになる。

「でも・・・なんでどらごんのぬいぐるみなの?」
 簡単じゃねえかそんなの。でもな、
「大河がもうちょっと大人になったら、誰かが教えてくれるかもしれないな」
 それを言うのはここじゃないんだよ、大河。

 * * *

「もう帰っちゃうの?」
 泣きそうな声でそう言う大河。竜児とて傍にいたいのは山々だが
ずっとそうしているわけにもいかない。大河の親だっていつ帰ってくるか
分からないのだ。
「ごめんな、他の家にもいかなくちゃならないから」
「うん・・じゃあしょうがないよね・・。」
 ごめんな、ともう一回今度は心の中で謝る。
「ねえ・・また来てくれる?」
・・・それは、

「大河がいい子にしていたら、また来るよ。」
 俺はお前の、いやお前だけのサンタだからな。

 そこで竜児の意識は途切れた。

 * * *

「はあ・・・」
 日当たりの悪い高須家の居間。時間は午後5時43分。
竜児はこの日4回目のため息をついていた。
「やっちまった。」
 力なく見下ろすのは炊飯ジャー、分量はきっちり4合半。
どう考えても竜児と泰子の二人が一食で食べるには多すぎる。
 こりゃ明日米は炊かなくてもいいかもな、と思いながら夕飯の準備を再開する。

 逢坂大河と高須竜児が離れ離れになってもうすでに10カ月が過ぎた。
当初はこういうミスもかなり繰り返したが最近ではもう
ほとんど無くなったはずなのに・・・と思いながら時計を見やる。



 大河は3日おき、午後8時に電話をしてくる。
たしか今日は新しい家族と食事に行くためその予定は急きょ明日へ延期になって、
そのことが竜児の憂鬱にさらに拍手をかける。

 それもこれもあんな夢を見たせいか・・・
俺がサンタで、大河が子供で・・・どう考えても無理あるだろ。

 そして想う。
 あいつはやっぱり今年もエンジェル大河様を演じてるのだろうか、と。

 * * *

「あれ?」
 午後7時、いきなり携帯にメール。
 北村の奴め、今年はクリスマスパーティーには行かないって言ったはずなのに
まだ懲りねえかと思いながら送り主を見て・・・固まる。送信元は「大河」。

 メール内容は、
題名、
大発見!!
内容、
あんたに去年クリスマスに来たサンタさんのこと話したよね?
実はそのサンタさんから貰ったらしいプレゼントが今日見つかったのよ!
ママが家出て行っちゃったときに間違えて持って行ったみたい。
画像、送るね。

添付されていた写真は

「マジかよ・・」

どこかで見たあの全然可愛くない、やたら古そうなドラゴンのぬいぐるみだった。



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