夕映えに染まる高須家の台所にて。

「あ!夕飯前なのになに食おうとしてんだよ」
「なにって……見てのとおりカップ焼きそば」
「そーゆーもんは栄養が偏るし、太るし」
「おやつよお・や・つ!お腹へっちゃったもん。ミルク添えて栄養だって考えてる」
「案外高くついて」
「安かったのよ。なんと3個199円!」
「えーと……」
「意地汚いわね。ほらあんたの分もお湯入れてやるから」
「別に俺は……そうか?じゃ」
「こっちはそろそろお湯捨てて、と」

 どぼどぼどぼぼぼーーーっ。慣れた手つきで大河はシンクにお湯を捨てる。
 ベコン。

「ね?」

「なにが『ね?』なのか分からねえ。ステンレスが熱で膨張して歪んだ音だよ」
「ふーんそうだったんだ?なにか居るのかと思ってシンク下開けてみたりしてた」
「なわけねえよ」
 
 ソース掛っけてー♪ふりかけ振ってー♪ 鼻歌まじりで混ぜるのはもちろんマイ箸で。
 ちょろっと先を舐めて、うん、と満足そう。

「座って食えよー」
「うん。そっちも三分たったよ?」
「おう……フタ押さえて湯切りか。あんまり食った事ねえから……おぁちっ!?」

 だばあ!

「ああ〜〜」

 大河が立って来て横から覗きこむ。

「あーあ、だばあやっちゃったー。フタ越しにでも熱いとびっくりして手が滑るのよね」
「お、お前もやったこと?」
「あるわよ。何だと思ってんの?人はみな失敗を糧に成長していくもんよ」
「じゃ、こう言う時は?」
「捨てて忘れる」

「もったいねえ……さ、三秒ルールっ?」
「いいけどお箸でうまく掬える?あわてて手で回収すると火傷するわよ」
「経験あるんだ……?」
「それにいくら綺麗に磨いたシンクでも雑菌がねー?」
「……そうだよな。排水溝にも半分落ちてるし」
「覆水盆に帰らずね」
「あ〜消費税込み69円65銭がーぁぁぁ」
「ソースとふりかけ無事だから実質50円くらいね。まあ次から気をつけな」
「おう……50円で腹壊すわけにも行かねえ」


「ほらカップ出して。半分わけてやるから」
「すまねえ」
「いいっていいって気にすんな♪あんたにも『ドジ!』なとこぐらいあるって」
「うう〜面目ねえ。なんだかとっても面目ねえ」
「今晩はおかずなんにする気だったの?」
「おでん作ろうかなと」
「そう。うん、おでんも美味しいけどご飯のおかずにはちょっと飽きるね」
「そうか?」
「そうよ。トンカツにしなさいよ」
「よくロースの切り身買ってあるの知ってるなー」
「まあ元気出すがいい。はい座って座って」


「半分だとすぐ食べ終わっちゃうな」
「まあ夕飯までのつなぎだからこの方がいいんじゃない?食べ足りない?」
「少し食べちまうと勢いがつくもんだからなー」
「あそう。じゃこれあげる」

 大河はごそごそと鞄を探って、ちんまりとした、けれども綺麗にラッピングされた包みを取り出す。

「ハッピーバレンタイン。竜児がいつも健康で、いつも私の事好きで、いつもお肉を料理してくれますように」
「ん、もうか?……そうか、当日は試験会場別々だもんな」
「そ。最後の追い込み糖分補給してがんばりな」
「おう、ありがとうな。……い、今開けてもいいか?」
「いいわけないでしょ。子供じゃないんだから」

 鬼の首でも取ったようなどや顔だった。

「夕食前よ」


〜おしまい〜



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