「ぽわぽわ暖かくなってきたね〜」
「おう、新年度だな」
「この時期になると『約束通りジンギスカン食べさせてくれないかな』って思うのよね」
「約束?そんなんしたっけか・・・」
「ほら、橋の上と下で」
「あれは俺が牡牛座だっつったら自分が牡羊座だもんだから勝手に勘違いしたんだろ?」
「細っかい事はいいのよ。羊、牛、と続けばお肉食べたいと思うのも人情でしょ」
「そうかぁ?」
「そう。ジュ〜って」
「そんなに焼き肉が続くのかよ。まあ、その前は魚だけどな」
「魚座だもんね。いいねえ〜春先は動物性タンパク摂り放題ってわけよねー」

「5月中旬からはどうすんだよ?」
「う・・・」
「双子座」
「き、黄身二つ入りの卵で!卵月間で!」
「コレステロールが大変なことに・・・」
「まだ成長期だからいいの!乗りきったらカニ!だもん」
「成長期ってまだ言い張るのか・・・まあオホーツク海産なら春から夏が旬だったかな?」
「お財布がシュンてしちゃうね」
「どやぁってか?そん次は獅子座だぜ、どうする」

「ライオンさん・・・ん!そういう名前の店を食べ歩く!」
「外食に思考が行くのはお前らしい。ただ洋食店とかパブとかに偏ってそうだなあ」
「ライオン寿司とか、割烹ライオンとか、大獅子飯店とか、ラーメン獅子郎とか」
「最後のはなんだよ。四×四でヤサイ16倍マシとかか?」
「ラーメン屋って予想もつかないローカルルールあるとこ多いじゃん?」
「おう、そうだな」
「だから食べ終わったら必ず爪楊枝くわえて『ごっそさん』て言わなきゃ出禁になる掟の店」
「それでシーシーとかすげえオッサンくせえ!」

「次の乙女座は処女宮だから文字通り女を食いものにするべきね。主に竜児が」
「なんで俺が・・・」
「あんたがその生温かい優しさで女の子をきゅんきゅん言わせておごらせる」
「お前の発想がちょっと読めねえ」
「そこに私がごちそうさまですーって登場してお相伴にあずかるのよ」
「どんな美人局だよ。それに毎日ナンパしてねえと食えないな」
「ちょっと肉食獣っぽいよね」
「お前が言うな。獲物がない間は何日もすきっ腹でゴロゴロすんのか?」
「現代人は飽食しすぎてるからたまにはそういうのもいいのよ、で、次は?」
「天秤座」

「うーん・・・」
「ハカリだからな。普通に粉モノでいいんじゃねえ?」
「あっそうか。パスタにお好み焼き、うどん、パイやケーキもオッケーじゃん」
「割と充実した食生活が送れそうな月になるな」
「あんたが大変だけどね。全部粉から作るなんて」
「そこだけ忠実にしなくていいんだよ。麺くらい買わせろよ」
「うどん打ちがちょっと見てみたい」
「見たいだけか・・・」


「まあ気を取り直して話戻すけどさ」
「気を取り直すのは俺だろう。次は蠍座だったな」
「うん。エビの月っていう事で」
「サソリはたしか蜘蛛の仲間だぞ?」
「なによ!蜘蛛食べろって言うのっ?あんた捌けるっ!?」
「逆切れか・・・てか蜘蛛さばくのはぞっとしねえな。海老の方がいい」
「でしょ?」

「おう。射手座はあれだな、猟ってことでジビエ料理」
「ん?なにそれ?」
「食いしんぼのくせに知らないのか。山で撃った獲物を捌いて食べるんだ。イノシシとか」
「クマとか」
「・・・それはちょっと荷が重いな。シカや山鳩辺りで」
「要するに焼き肉なのよね」
「いや、野生動物だからケモノ臭強いらしいんで、鍋にするとかいろいろ工夫がいるらしい」
「ふぅん、ちょうど冷えてくる頃だし鍋もいいね」
「で、やっぱ獲物がない間はすきっ腹でダイエットだな」
「うぇぇ・・・やだ!」
「矢だけに?」
「なんか言った?」

「なんだかな、で年末は山羊座・・・となると中東系の食いものになるのか」
「ばかねえ、あれよ。おんじが買ってくる黒パンにやぎのチーズをたっぷり乗せて」
「おう、ハイジか。だがなー大河、やぎのチーズってものすごく毛糸くさいぞ」
「毛糸・・・イガイガって感じのあれ?」
「そう。乳くさいケモノ臭。子供の時から慣れてない俺らにはキツイだろう」
「たしかにそうかも。じゃあ広義にチーズと乳製品でね。あっ、クリスマスだしちょうどいい!」
「そんなとこだな。さて、正月も過ぎれば大変な月がやってくるわけだが」

「大変て?あっ、水瓶座・・・」
「水だけだな」
「ううう・・・かめに入れて保存するもの・・・?」
「梅干しとか漬物の類になっちゃうなあ」
「水と漬物だけ・・・厳しい冬になりそうね・・・」

「なんかお腹へったきた」
「じゃあ買い物行って、ちょっと早いけどメシのしたくすっか」
「そうしよ!水だけじゃ耐えらんない。そうね?チーズ・・・乳製品・・・」
「飢えてない頃の記憶をたどったわけだな」
「グラタン!マカロニとかあさりとかカニ缶とかの具で!」
「ベシャメルソースに牛乳とバターたっぷりで、上にチーズ山盛りで」
「わ、ワインも買おう?あんまり甘くないので」
「おう、酸味を利かせたトマトサラダなんかもな!」

 行こう行こう出かけよう、と二人が買い物に出てったあと。


(大河ちゃん!じ、ジンギスカンはぁ〜〜?)

 隣の部屋ですっかり焼き肉心を膨らませていた泰子がちょっとだけ目を潤ませた。


〜おしまい〜



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