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『近ごろ恋人とケンカばかりでうまくいかない…という方にぜひ覚えていただきたい「はひふへほ」の法則!』

(くっだらねえ。最近こういう恋愛系のネット記事って多いよな)


(・・・で?)


 なんだ、文句言っといて結局は読むのかとツッコんではいけない。
 俺たちは分かりあってる。常日頃から思ってはいても、実際に彼氏という立場に慣れて自覚
も少しばかり出てくると、それがひょっとしたら万が一にでも単に思い込みに過ぎないのでは
ないだろうか?などと頭のどこかで不思議思考を始めるのが原則的には石橋を三回叩いたあげ
く渡らずに遠回りして買い物に行く竜児らしさである。

 ■は=話し合う

 (うん。まあ・・・当たり前だ。)
 (ってか駄話ばっかりしてるな。してないときは・・・ぐらいか)

 ■ひ=秘密があることを認める

 (そりゃ一つや二つあるだろ。あって当たり前だ)
 (俺だって鼻毛切りをすごく楽しみにしてるなんて言い難い)

 ■ふ=触れ合う

 (『「デートで手をつながなくなった…」交際期間が長くなるとスキンシップの頻度は反比
例して少なくなる。刺激的な感じはなくなったけど一緒にいて落ち着くとからいいかなと現状
に満足していたら危険かも?』おう・・・そういうもんなのか?)

 スキンシップの頻度。
 頻度だけでいいのかと考える。そもそも一緒にいる間は常にどこかしらくっ付いていて特に
何も思わない状態はどう判定すればいいのか。いわゆる口唇期ってやつか。ふう。保留。

 ■へ=変化を演出する

 (『ふたりにとっての記念日や小さな変化をとびっきりの演出で迎えましょう』か。演出っ
てーと驚かすことだよな。でもあいつ短気なとこあるから演出だと明かす前にキレるかもしん
ねえし、その辺の加減がなあ。・・・うーんんん、分かりあってるようでいて勘違い?してる
ってことも、うーんー)

 ■ほ=褒めあう

 (『ラブラブでいるために一番大切なこと。好きな人から褒められたら誰だって嬉しいもの
です。相手のいいところを三つみつけて、言葉にして伝えるようにしましょう』ほうほう、な
るほど。要するに、だ)

 こじつけくさくはあるが、こうして覚え易く5ワードにまとめて法則化しているその要点は、
慣れきってぞんざいな態度をとらず、いつも好きになった初心に還って見つめ直すといいよと
いうことなんだな・・・と、寡黙なぶんだけ頭の回る竜児は通底する概念をだいたい把握する
に至った。ベタに言うとうはおkってやつだ。
 『近ごろ恋人とケンカばかりでうまくいかない…という方に〜』っていう、ついさっき自分
でくっだらねえと思った前置きを既に失念しつつ、逢えば掛ける言葉の過半は小言ではなかっ
たかと反省してみたりする。

 (うん、良くねえな。小言の裏で思いやってるのがいつもいつも伝わってるもんだろなんて
こっちの只の思い込みだったらどうする。あいつの台詞が基本突っかかりから始まるからと言
って売り買いで返してもな、2回に1回は真に受けてムカついてるかも知れねえし)

 そういやいつだったか犬姑とか言ってたなと、まあ思い込んでみるとそれを補強するような
材料を選んで次々掘り返しては確信めいていくもので。

「竜児ー、今日はこっちでお夕飯食べるってママに言って来たー!」
「おうっ!?そ、そうかっ」
「なんか錦糸玉子が食べたいっ、から、卵とお酢買ったよ。ちらし寿司なんて良くない?」
「お、おう。いいな。じゃシャケ焼いてほぐしてシイタケとニンジンとゴボウ煮て」
「鶏ないのトリ!そぼろも!」
「あるある。ムネ肉が一枚凍ってた」
「やったー!これでできるねっ!」
「お前・・・買い置き把握もしないで卵と酢だけ・・・いや、無し。今のツッコミ無し」
「・・・なに?」
「なんでもねえ」
「なんで突っ込むのやめたの?気持ち悪い」

「いやあ、もしもお前がムカついてたら悪いなって思ってさ」
「あんたさあ・・・」

 一瞬にして機嫌悪なスイッチを入れた大河は、ぷんっと鼻息もあらく昨今すっかり肉づきの
良くなったぷくぷくのアゴを突き上げて竜児を睨む。

「それじゃー、私の娯楽であるツッコミ待ちはどうなるわけ?」
「待ちって・・・」
「あんたは私がドジな方が毎日楽しいわけでしょう?こういうのう、うん、ぃんういんうぃん」
「・・・Win-Winの関係な」
「そう!それ!!なんだ、やればできるじゃない」
「お前がいいんならいいんだけどよ・・・ちょっと待て!じゃあわざとドジやってんのか!?いつから?」

「そうよ・・・いつからかは忘れちゃった」

 ぷんっ、ぷんっ、と再三アゴを突きあげて鼻息荒く、吹きすぎて若干洟水まで吹きかけたの
をばつ悪そうに手の甲で拭いつつ差し出されたティッシュをひったくって、その威厳だけは初
めて遭った時から一向に減じられることはなく。

「悪い?」

 悪びれない。


 そんな福々しい顔で凄まれたところでちっとも怖くねえ。竜児は心中ひそかに毒づいた。




〜おしまい〜



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