【これまでのあらすじ】親元で一年を過ごし進学した逢坂大河は大橋の町に帰ってきた。高須
家から徒歩3分のワンルームマンションで独り暮らし。ぶじ嫁入りのその日まで!などと大げ
さな話は置いといて瑣末事を綴ったエロコメディ(要するにアニメ版アフターです)


 高校を卒業して、別々に進学した竜児と大河は結婚という遠大な目標に向けて鋭意努力をし
始めていた。他人であったふたりが奇しくも出逢い、惹かれあって、ずっといっしょに居たい
と願った以上、そしてふたりが同性でなかった以上は、当然の帰結と言えた。
 19歳になった逢坂大河と、もうすぐ19歳になる高須竜児は、めでたく恋人以上夫婦未満
といった関係になっている。
 しかし、やることはとっくに済ませていても、いまだ親がかりなふたり。
 やはり毎日エロエロアマアマに惚けてるわけにもいかない。そういう甘美な数日間がたまに
はあっても、社会に巣立って、いつかは自分たちだけの家庭を持つための準備を怠るわけには
いかないのだ。したがって、のべつまくなしにイチャついていないで学生の本分を全うしろ!
という自律的な制約を、どちらからともなく課している。
 それは“したくなっちゃうようなエロい行為を平日は自重する”ということ。

 とあるどっかの、またも日曜日。
 さんざんおためごかしを書いておきながら、日々のつとめをこなしたら制約を解放してもよ
いとふたりが暗黙に決めている休日がまたもやってきて、このくだらない話は始まる。


「はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!あっ、あっ、あっ、ああああっ、ああっ〜」
「はっ、はっ、はぁっ。……3回目だな……」
「う……、うんっ、うんっ!……りゅうじは?」
「ああ。まだ大丈夫だ」

 竜児はきもちよく逝った(ワラ)大河を優しく抱きしめて波が去るのを待っている。
 男は一度いったらいわゆる賢者モードの時間が訪れて、場合によってはこうした行為を継続
するのがバカバカしくなることもあるが、女は何度でもいけるもの。
 パワフルにスタミナあふれる男によってひと晩に何度もいかされるのが女にとっては他に得
難い幸福。そうした価値感は、やりたい盛りの竜児にも当然のごとくもたらされていた。

 というわけで、今日は一種のドーピングをしてみたのだ。
 詳細は、ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/tomorrow/1252792801/ を参照してみれば分
かるだろう。フェミ○ーナ軟膏を使って、男の子側の感受性を麻痺させて、早漏を防ごうと言
うメソッド。これはオカルトでもなんでもなく、本当に効くらしい。ていうか、筆者の体験か
らいって副作用もなく効く。この先を読み進めるよりリンク先の方が楽しいかもしれない。


 もちろん大河はそんなことを知らない。
 いつも早漏で(「早漏って言うんじゃねえ!」高須竜児:談)2回戦以降に真価があると信じ
て疑わなかった竜児――抑えの守護神、と崇めていた――が、今日に限って最初から耐久力抜
群で一体どうしたのか、と少なからず驚き、そのシャイな心が“う、うわぁ、かぁっこいいぃ”
と感動で震えていたのもまた事実。

 惚れ直した、という表現がまさにぴったりくる。
 女として自分を愛していてくれるとこんな奇跡も起こせるのか。という感動。
 感動ゆえに2回目以降がいきやすくなってしまったのもまた事実で、もちろんその自身の変
化も繊細な大河はしっかりと自覚していて、このうえない幸福感を感じていたのだった。
 曰く、愛って素晴らしい、などと。
 愚かしくも。

 でも、がんばる竜児を、4回目が迫った頃に気になりだす。

「はっ、りゅっ、りゅうじ?あんたは……?」
「んっ、んっ、大丈夫。まだっ」
「……?いっ、いくらなんでも、がんばりすぎっ!……じゃないっ?」
「はっ、まかせろ!お前はなにも考えずに気持ちよくなれ」
「えっ?はっ、そ、そんな?のって?あっ、あああっ!?」

 はい4回目。
 でも肩で息をしながらも大河は、さすがに違和感を感じ始めたのだった。


「ちょっ、あんた。竜児。……抜け」
「ん、なんだ?」
「抜いたら、そこに座んなさい」
「おう……なんだよ?」

 行為の途中で、……いやまあひと区切りついてはいたが、全裸で正座させられる男ほど情け
ない存在もそうは無いだろう。また、全裸で正座して問い詰める女というのもあまりカッコの
いいものとはいえない。

「あんた、どう考えてもおかしい。……なんでいかないの?」

 いかないのにこのカッチカチの小白龍(シャオパイロン)のままっておかしくない?などと大河はむ
にむに握りながら詰問。あっやめてっ!

 仕方なく、というよりも待ってましたと言わんばかりの得意げで、竜児は種明かしを始める。
ネットで目にしたこのメソッドによって、持久力が増すんだよ、と。
 どうしてそんな魔法のようなことが?と問う大河に、これこれと理屈を説明する。主成分の
リドカインってのがさあ?麻痺効能をもっていてさあ。

「な、なんだそれっ!!」

 大河はいきなりキレた。ぼろぼろ泣き始めた。なんだよ泣くこたないだろ?お、おい?と竜
児が驚いて慌てる。

 私たちはそんなこと気にする間柄なのかっ?私が……あんたのその……いわゆる……世間的
な用語でいう“そうろう”を一度でも責めたことあるかっ?バカにしないでよっ!!

「あんたにいかされたくてえっちしてるんじゃないよっ!」

 あ、ごめんごめんとキレたはずの大河がすぐ謝る。ごめんうそ。いかされたくないなんてそ
んなことない。あんたにいかされるのすごい好き。タンカ切ったけどそこだけ取り出して言い
返さないでね、と不思議な折れ方をする。

 あー、まあ。ようするに。

「薬物効果でいかされても、そんなの嬉しくないの。……あ、知らなきゃ嬉しいかな」

 微妙よねっ!?あんたどう思うっ?どっちなのかよく分からない。
 どう思うって言われてもな、いいのか気に入らないのか決めてくれよと竜児は困る。そりゃ
困るだろう。どこに線引きゃいいんだ?と思うから。

 イイコトしてる最中に、しかも4回もいかされた女がキレてるというのも普通はない。それ
で相対して、ベッドのうえで正座して文句が出ると言うのも。
 だがそれを言うのが大河と言う女であるし、それを聞くのが竜児と言う男。ふたりは絶対に
なぁなぁで流さない。だからこそ後に毛の先程も未練も遺恨も残さない。合意した以上は、死
んでも誠を貫くのだ。そのためにこそ、争う時は真剣勝負。……こんなエッチねたでさえも。

「お前、気持ち良くてなんの文句があるんだよ?」
「きもちいいことに文句なんてない!……麻痺効能ってのは……あんたがいきにくいわけじゃない?」
「でも累積していけばそのうち俺だっていけるわけだろ?互いになんの損もないだろ?」

 涙目の大河が、ようやく思いをまとめた。理屈ではいつも竜児にかなわない、情を理解して
もらう他にない。だが、今日のこの問題では、理屈で押す事が出来る。

「私はねっ、あんたといっしょにいくのがいちばん幸せなのっ!いっかいで、いいのっ!」

 竜児はそれを聞いてふにゃふにゃと負けを認めた。軍扇を一振りすれば全軍で大河の一味を
数分で蹂躙できる戦力を擁しながら、撤退した。
 しかし、それは敗走ではなかった。

 そうか。そうなのか。俺が悪かった。つか、だったら、もっと早く言えよ。気にしてたんだ
よ、俺がヘタだとお前は不満なのかって。……エロ虎。可愛い、俺の大河。

 わ、分かればいいのよ。ちょっとキレすぎて悪かったわよ。言い過ぎた。
 ね……いっしょにいけるように、もう一回してくれる?
 ああ、そろそろ薬効も切れるだろう。でもうまく合わせられるか保証できねえ。頑張るけど。
それでもいいか?いいだろ?

 いいよ。でも合わなかったらもう一回ね?私は4回いったけど、あんたは2回目になるんだ
から無理はないよね?
 おう、できるかぎり頑張るからな。

「ふふふっ、竜児。好き」
「おう、大河。俺も好きだよ」


 晩酌をしながらこんなの書いていたら俺(筆者)も心底ばかばかしくなってきた。そのあたり
はどうか理解をしてほしい。こんなオチでほんとうに済まないと思っている。


――END



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