「何でも言うことを聞いてあげる」

と、日曜の朝に高須大河が夫の竜児に言ったのは、別に何か含みがあってのことではない。知り合って7年。先日ようやくゴールインした二人は、1DKのつつましやかなアパートで愛を育てている新婚さんである。

ハネムーンから帰ってきたのは先週のこと。付き合った時間が長かったうえに、知り合って最初の1年は半同棲だったなどという型破りな二人ではあるが、実のところ本当に同棲したことは無い。
夫の竜児が人一倍堅いということもあって、キスより先に進んだのはなんと知り合って2年後、お泊りだって二人で行った旅行が二回あるだけである。だから、ハネムーンの興奮が尾を引く今は、まさに嬉し恥ずかし新婚ほやほやなのである。

「いってきます」で、ちゅ。「ただいま」で、ちゅ。おはようからおやすみまで暮らしをピンク色に染め上げるちゅっちゅ生活だったのが先週の事。新婚旅行あけだというのに休日出勤だった土曜日には旧手乗りタイガーが幾分不機嫌だったが、そこはまぁ、新婚である。
夜には囁くように、絡み合うように、溶け合うように、互いを確かめるように、愛を確かめ合って今朝に到る。

「何でも言うことを聞いてあげる」

と、言ったのは布団の中で素肌を重ねておはようのキスに甘くとろけた新妻からの、愛する夫への心からの、この一週間へのいたわりだったのだ。いいじゃない、新婚だからこのくらい言うわよ。
と、頬をぷくぷくふくらませながら目を線にして夫の腕の中で柔らかく微笑んだ所までは良かった。

「お、おう。じゃぁ。ちょっと恥ずかしいんだけどよ」

つむじの上の方で鬼般若が呟いた。その声を聞いて、また大河がクスクス笑う。なんであんたが恥ずかしがるのよ、と。しかし、腕の中で夢のように笑っている妻を余所に、竜児はつっかかりながらとんでもないことを口にした。

「裸エプロンってやつ、やってくれねぇか?」



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