それぞれのその後

竜児「あーあ、帰っちまったな・・・」」
大河「うん・・・」
竜児「しっかし久しぶりに会ってもかわんねーなあいつ等は」
大河「うん・・・」
竜児「?どうした大河。そんなに行っちゃったのが寂しいのか?」
大河「(ふるふる)」
竜児「ならどうした?」
大河「・・・さっきの、みのりんの顔・・・」
竜児「・・・ああ・・・」

実乃梨『あーみん。盗み聞きするなんていけない子だぁ。お家に帰ったらちょーっとだけ、お・仕・置・き・だぞ?』

大河「あの張り付いた笑顔・・・すっごく怖かった・・・」
竜児「口調がふざけてただけに一層・・・な」
大河「・・・さらばばかちー(合掌)」
竜児「縁起でもねーな!」
そうして笑いあった中、不意に大河の顔が曇る。

大河「・・・」
竜児「こんどはなんだー?」
大河「あの・・さ・・・」
竜児「ん?」
大河「竜児は・・・ほんとに、いいの・・・?」
竜児「なにが?」
大河「・・・フィールズ賞・・・」
竜児「?」
大河「っ!その名誉より!栄誉より!あたしなんか選んじゃっていいの!?だって世界的権威なんでしょ!?その先にはいくらでも・・・」
竜児「逆に聞くが」
大河「え?」
竜児「なんで「その程度のモン」が、お前と比べられるんだ?」
大河「そ、その程度のモンって・・・」
竜児「はっきり言ったほうがいいか?そんな程度のモンとお前を、比べるまでも無いっていってんだ。選ぶ?選択肢にも入れる価値もねーよ」
大河「そ、そんなこと・・・」
竜児「それよりお前!さっき「あたしなんか」とか言ってただろ?今度そんなこと言ったら一週間飯抜きな。俺の大事な大河を貶す奴は、例え本人だろうとゆるさねー」
大河「!!だ、だって世界・・・」
竜児「世界ってなんだ?」
大河「え・・・?せ、世界は世界で・・・世界中のみんなが尊敬や羨望してくれて・・・そんで・・・」
竜児「知ったことか」
大河「え?」
竜児「他人の言う世界なんざ、俺にはなんの興味もねえし必要じゃねえ」
大河「で・・でも・・・!」
竜児「俺の!」
大河「!!」
竜児「・・・俺の世界は・・・ここにある」

そう言ってふわりと大河を抱き寄せる。

大河「・・・りゅうじ・・・」
竜児「お前が俺の傍に居る。お前が笑って俺を見る。俺の料理をおいしいってお前が食べてくれる。お前が俺のために仕事を頑張ってくれる。たまにケンカして、すぐ仲直りして、また一緒に笑いあって・・・それが俺の世界だ」
大河「りゅう・・じ・・・」
竜児「たまに櫛枝や川嶋と会って、馬鹿な話をして、愚痴でもこぼして、北村や他の連中に思いを馳せて、そして横ではお前が笑ってる。これ以上に幸せな世界はねーよ。それが俺の答えだ」
大河「・・・っ!りゅーーーーじいぃぃぃぃぃぃっ!!」



それぞれのその後2

亜美『うわぁ、やっばいよぉ・・・。実乃梨ちゃん、全然こっち見ないし、かーなーり怒ってる証拠だよね・・・』

家までの帰り道、実乃梨が二歩程前を歩く。
その後ろをついていきながら、亜美は思案に暮れる。

亜美『つっても、このままじゃ気まずいままだし・・・ええい!』

亜美「あ、あのー・・・実乃梨ちゃん?さっきのあれなんだけど・・・」

瞬間ビクン、と実乃梨肩が震えた。
そのまま俯いて立ち止まる。

亜美「あ、えーっと・・・」
実乃梨「聞いてた?」
亜美「う・・・」
実乃梨「やっぱ聞いてたんだ?」
亜美「・・・う、うん。で、でもわざとじゃ・・・!」
実乃梨「やっば聞かれちゃったんだーーーっ!!」

突然頭を抱えて夜空に絶叫。

亜美「ち・・・ちょっと実乃梨ちゃん?ど、どうしたの・・・っ!?」

肩を掴んで振り返らせた亜美が固まる。
実乃梨の顔は、まるで泣き出す寸前の表情。
うまく言葉に出来ないのか、身振り手振りで伝えてくる。

実乃梨「あうあうあう」
亜美「あーみんに聞かれたから?」
実乃梨「あうあうあう」
亜美「もーおしまいだ?」
実乃梨「あうあうあう」
亜美「ホントはずっと言わないつもりだったのに?」
実乃梨「あうあうあう」
亜美「さっきは大河達の前だったから?」
実乃梨「あうあうあう」
亜美「強がってみせたけど?」
実乃梨「あうーあうあう」
亜美「もう限界だ?」
実乃梨「あう〜〜〜」
亜美「これからどうしよう?・・・ってあたしに聞いてどーすんの?」

そして実乃梨は跪いて泣き出した

実乃梨「あーうー、もう終わりだよー!絶対キモイって思われたよー!嫌われるのはいいけど、拒絶されたら生きていけないよー!!」

そう言ってワンワンと子供のようになく実乃梨を見て、亜美の心がズクンと鳴った。
驚愕に。
なぜなら分かってしまったから。
こいつこいつ・・・・

亜美『あたしがあんたのこと好きって気付いてない!?』

その途端、ぷっつーんと亜美の中の何かが切れた。



亜美「ふーん・・・実乃梨ちゃん、そんなにあたしの事好きなんだー・・・?」
実乃梨「あーみん?(ぐすぐす)」

ちゅ

実乃梨「・・・」
亜美「・・・」
実乃梨「・・っ!ああああああーみん!!?よよよ嫁入り前の娘が、ななななんと破廉恥な!!」

あからさまにパニックに陥る実乃梨に、こーゆーことしたかったんじゃねーのかよ?と亜美が突っ込む。
瞬間、正座をしてなにやらモジモジと、両手の指を絡めながら実乃梨が呟く。

実乃梨「そ、そりゃあさ・・あ、あたしだっていっぱしの大人だ?そーゆーことに興味ないわけじゃないけんども・・・」
亜美「なんで訛る?あーそれより亜美ちゃん。実乃梨ちゃんの本心知っちゃったねぇ?どーしようねぇ?」
実乃梨「あ・・・う・・・あう・・・」
亜美「・・・どうしたい?」
実乃梨「・・・ご、ごめんなさい」
亜美「・・・はぁ?」

怪訝に眉を寄せる亜美。
その目の前で、実乃梨は寂しげに微笑んだ。

実乃梨「あ、あーみんは、あたしを元気付けてくれる、たり、元気くれったり、そ、そーゆーいい友達なのに、その、よこしまってゆーか、縦縞ってゆーか、そりゃ阪神なんだけど、るるルーキーズでもあって・・・」
亜美「・・・なに言ってんの?」
実乃梨「あ、ごごごめん!!ちょちょっとパニくっちゃって・・・えへん!えと・・・えとね。・・・今夜中に出てくから・・・」
亜美「!?」
実乃梨「ほんと、ごめん!あーみんの優しさ勝手に取り違えて・・・。すぐに気付いてたんだけど、心地好かったんだ・・・あーみんの傍に居るのが」
亜美「・・・」
実乃梨「あたしを理解してくれて・・・受け入れてくれて。それがすごく嬉しくて、気がついたら・・へへ」
亜美「・・・」
実乃梨「あたしは・・・あたしはあーみんが好き!・・・えへへ、やっとちゃんと言えた。でも・・・言ったら終わりだってのもわかってた」
亜美「・・・」
実乃梨「だから・・・今夜中に出てく。二度と会わない。もう不快な思いはさせないからそれで・・・」

パン!

実乃梨「・・・え?」
亜美「っ!」

気がついたら頬を張られていた。
実乃梨がそれに気付くより早く、亜美は絶叫していた。

亜美「なんだそれ・・・?なんだそれなんだそれなんだそれ!?」
実乃梨「・・・あーみん・・・・?」
亜美「なに勝手な事言ってんだ!?なに人のこと振り回すだけ振り回して消えようとしてんだ!?なに・・・あたしの前から消えようとしてんだ・・・!?なんっ、で・・・あんたは・・・っ!」

そこまで言って亜美は顔を覆って泣き崩れた。
まだジンジンと痛む頬を押さえながら、その様子を櫛枝実乃梨は呆然と見下ろしていた。



実乃梨「な・・・なんであーみんが泣くんだよ・・・?」
亜美「お前がニブイからだろーが!このニブ枝実乃梨!!」

キッと、その誰からも誉めそやされる麗しき双眸に涙をたたえて、亜美は睨みつける。

亜美「なに謝ってんの!?キモイとかって何!?不快な思いとかって・・・ばっかじゃねーのっ!?なんで
あんたは・・・周りの人のことはわかんのに・・・なんであたしの事分かってくれないの!?なんであたしがあんたのこと嫌いとか思うのよー!!」
実乃梨「・・・え?」
亜美「終わりとか言ってんじゃねーよ!!消えようとかしてんじゃねーよ!!あたしのこと捨てよーとすんなよ!!」
実乃梨「!?す、捨てようとなんかしてない!!た、ただ・・・」
亜美「うっせーっ!!」

絶叫と共に、近寄ろうとしていた実乃梨の手を取り、引き寄せる。
バランスを崩して、倒れこみそうな実乃梨の頬を押さえると、思いっきり口づける亜美。
数瞬の間を置いて離される唇。
目の前には真っ赤になった実乃梨。

実乃梨「あ、あああああーみん・・・」
亜美「あんたが好き。あんたが好きあんたが好きあんたが好き。何回言えば分かってくれる?」
実乃梨「〜〜〜っ!!?」
亜美「実乃梨ちゃんが好き。学生の頃からずっと惹かれてた。川原で二の腕擦ってくれて嬉しかった。一緒にダッフル着させてくれてありがとう。一緒に泣いて
くれてありがとう。今まで一緒に居てくれてありがとう。そしてできたら・・・これからも一緒にいてくれるのにもありがとうって言いたい」
実乃梨「あうあうあう・・・」
亜美「あたしは、実乃梨ちゃんが、好き」

言い含めるようにゆっくりと、亜美は実乃梨を抱きしめた。

亜美「逃げようとしたら許さないから。さっきの高須君ちでの話し全部聞いたから。逃げても絶対掴まえるから」
実乃梨「あ・・う・・・」
亜美「あたし本気だから」
実乃梨「っ!!・・・あーみん・・・」
亜美「なに?」
実乃梨「・・・やっぱあたし・・・大好きだあんた。その真っ直ぐなところが・・・本当に眩しい」
亜美「あったりまえでしょ?なんたって、亜美ちゃん輝いてるから」
実乃梨「はは・・・そういえばそうだね。・・・ね?」
亜美「ん?」
実乃梨「・・・もっかい言って貰っても、いいかな?そのー・・・あたしのこと、アレだって・・・」

探るように上目遣いでみつめる実乃梨。
亜美の顔が一瞬にして沸騰する。

亜美「!!い、いえないっ!!」
実乃梨「な、なんでだよっ!?さっきはあんなに・・・」
亜美「さ、さっきはあれよ!勢いあったから言えたのよ!ここ、こんな・・こんな落ち着いた状況でいえるかー!!」
実乃梨「あーそれひっでー!!あたしは言えるぜ!?あーみん好き。超好き。大好きー!ほら!!」
亜美「軽いんだよ!そんな軽々しく言われても嬉しくねー!」
実乃梨「うっわ出たよワガママ。あーあーそんなんじゃ嫁の貰い手ねーぜー?」
亜美「・・・そんなん・・・」
実乃梨「ん?」
亜美「・・・あんたに嫁ぐからいいのよ・・・(ぼそ)」
実乃梨「!?ちょっと待ったー!今のもう一回!よく聞こえなかったからもう一回!ね?ね?」
亜美「あーうっせうっせ!ほら帰るよ!!」
実乃梨「あー待ってよー!こら、あーみーん!!」






そして時は流れて

所属事務所にて

TELLLLLTELLLLLTELLL・・・ピ
大河「あ、竜児?うん、そう。仕事はバッチリ入れたからついていけるよ。・・・うんほんとに。・・・なに言ってんの、世界デビュ
ーだよ。もっと喜びなさい。あはは。うん、うん、詳しいことは帰ってからね。うんあたしも愛してるよ旦那様。じゃね」


亜美「はあ?東京へ?なんで?」
大河「実はさ、竜児が学会に招かれてるんだって」
亜美「?数学の?」
大河「うん。実は北村君、著名な数学者にはホントの事を伝えてたんだって。それで今回東京で集まるから、秘密裡に何人かに竜児を紹介したいんだって」
亜美「へー祐作にしては気がきいてるじゃん。あれ?そしたらその間タイガー一人?」
大河「ううん。ちょうどその時、東京でリアルクローズがあるから、そのショーに出演すんの。そんでおくおくおく奥様って紹介してくれるんだって」
亜美「へーなるほど。あれ?そーいやそろそろ亜美ちゃんにもプレタポルテのオファーきてもいい頃だよな・・・ちょっと電話してみる」

TELLLLTELLLLLTELLL・・・ピ
亜美「あ、もしもし実乃梨ちゃん?あのさあたしに東京コレクションのオファーなかった?・・うん・・・
へ?断った?なんでそんな・・・うん・・うん・・旅行!うん!二人っきり!!・・もー全っ然おっけー!うん、うん、詳しいことは帰ってからね。ハーイ」

亜美「なんかオファー無かったみたい」
大河「横に居た人間にそんなバレバレの嘘つくか!?」

TELLLLLTELLLLLTELLL・・・ピ
竜児「ああ北村か?うんそうだ、大河も一緒だ。うん・・・はは、きっとあまりにも変わってない方で驚くぞお前。うん・・ああ、よろしく頼む。あっと、それ
から。俺の出した問題は解けたか?・・・そーだろそーだろ、アレは俺の最高傑作だからな。うん・・・はは、期待してるぜ。それじゃまた東京で」


電話を切って窓の外に目を向ける竜児。
部屋から見上げる空はあの日と変わらず。
そして彼らもつながりつづけていく。
この空と同じくきっと永遠に・・・。

竜児「さって、夕飯の買い出しに行って来るか。今日は何を作ってやろうかな・・・」

そうしてつながりゆく日々は、驚くほど幸福に満ち溢れている―――――――

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