4月某休日・街中にて

大河「・・・」
実乃梨「!あれ、大河じゃん!?」
大河「(驚いて振り返る)み、みのりん!?」
実乃梨「おーそーだぜー、みのりんだ!どしたー!?こんなところに一人で?」
大河「あ、あたしはやっちゃんに頼まれたのを買いに・・・み、みのりんこそ、ど、どしたの?」
実乃梨「わたしは練習試合の帰りです。もっちろん勝ったぜ〜」
大河「お、おめでと」
実乃梨「ありがと!んでんで?何見てたんだい?」
大河「!ななななんにも!」
実乃梨「なに慌ててんのさ?それ見てたんでしょ?どれどれ〜・・・」
大河「みみ見てないから!か、買い物届けなきゃいけないから帰るね!」
実乃梨「え?ちょっ、大河!?」

慌てて走り去る大河。
その顔はなぜか真っ赤だった。

実乃梨「んー・・・?」

首を傾げる実乃梨。
その目は何気なく大河の見ていたショーケースに。
その目が少し強ばる。

実乃梨「!!・・・はっはーん、なるほどねー・・・」

暫し考え込む実乃梨。
おもむろに携帯を取り出すと、メモリーから一つの名前をプッシュした。
TELLL・・・TELLL・・・ガチャ

「あー、もっしもーし・・・」



翌日。登校時。

大河「え?バイト?」
竜児「ああ。泰子の店、繁盛してるの知ってるだろ?」
大河「弁財天国?」
竜児「ああ。あまりにも忙しいんで、次のバイトが見つかるまで仕方なく・・・ってな」

並んで歩きながら、竜児は気まずそうに、顎を掻いた。

大河「へー・・・それっていつから?」
竜児「・・・今日」
大河「え!?な、なんでもっと早く言わないのよ!?」
竜児「し・・・仕方ねーだろ!俺だって今朝聞いたばっかりなんだから!『竜ちゃ〜ん、お店忙しいんだ〜。放課後だけでいいからぁ、手伝ってくんないかなぁ?』って言われたら断れないだろ!?」
大河「・・・まあ、やっちゃんの稼ぎに頼ってる身としちゃ仕方ないわよね」
竜児「・・・なんか引っ掛かるがまあいい。とにかく、今日から1ヶ月程、泰子のトコでバイトするから、夕飯は10時くらいになるから」
大河「えー、お腹空き過ぎちゃうじゃん」
竜児「我慢しろ。それともお前だけ先に食べるか?仕込みは朝に回したから、お前の分だけ朝に作っておくことはできるぞ?」
大河「・・・いい」
竜児「ん?」
大河「・・・竜児と食べる方がおいしいもん」

・・・きゅ

竜児「・・・だな。俺も大河がおいしいって言ってくれるの聞きたいしな」
大河「えへへ・・・」




昼休み。教室にて。

摩耶「きゃー!すっごい綺麗!」
亜美「こないだの撮影で使った小道具。今日返しに行くんだ」

亜美の机の上には、色とりどりの装飾品。
おそらくはイミテーションだろうが、女子は黄色い声を上げている。

亜美「せっかくだから、摩耶も奈々子も着けてみなよ」
摩耶「マジで!わーこんな綺麗なの目移りしちゃう!」
奈々子「これなんか摩耶に似合うんじゃない?あのマフラーに合わせて」
摩耶「うぎ。奈々子・・・そーゆーの思い出させないでくれる?あれはもう封印したの!」

あははは、と矯正があがったとき、ガラッと開いた教室の扉。
そこには、トイレから帰ってきたとおぼしき大河と実乃梨。

実乃梨「おお?なんだい?皆して何の悪巧み?」
亜美「してねーし。ちょっとしたファッションショーだよ。実乃梨ちゃんもどう?」
実乃梨「おーいーねいーね!女の子が着飾ってるのは、イー目の保養になるよー!」
亜美「オヤジかっつの・・・」
実乃梨「大河もほら!」
大河「え?あ、あたしはいいよ・・・」
実乃梨「なーに言ってんだー!?こんなチャンス滅多にないぜ?ここぞとばかりにセレブリティを満喫しようではないか!」

強引に大河を引きずり込む実乃梨。
そこに乗っかる摩耶と奈々子。

摩耶「大河顔ちっさいから、こんなのよくね?」
奈々子「文化祭のティアラ似合ってたからこんなのも・・・」
亜美「ピアス開いてないからイヤリングか・・・んー・・・」
大河「ちょ、お前ら・・・」
摩耶「指輪はこんなのが・・・うっわ大河、指細っ!ブカブカじゃん!」
奈々子「うわほんと。大河、サイズいくつ?」
大河「・・・5号」
摩耶「!?」
奈々子「・・・」

衝撃の告白に愕然とする二人を尻目に、亜美が意地悪げに唇を歪める。

亜美「あーららー?流石にそれはないわー。なんたって、こ・ど・もサイズだもんねー?うーん、どーしよっかぁ?小さいのも善し悪しよねー?」
大河「・・・ばかちー・・・命、いらないようね・・・?」

不穏な空気をいち早く読み取って、実乃梨がすんでのところで大河を押さえ付けた。

実乃梨「ま、まーまー。折角の楽しい着飾りタイム。もうちょっと楽しもうぜー!」

なんとか取り成しその場が治まる。
その陰に隠れて、ニヤリと笑う影二つ。




帰宅後。10時過ぎ。

大河「・・・ったくあのバカチワワめ・・・」
竜児「まーそう言うな。あいつも悪気があってバカにしたわけじゃないし」
大河「・・・なによ。ばかちーの肩持つわけ?」
竜児「いや、そーいうわけじゃなくてだな・・・よっと。よし完成だ。大河そこ開けろ」
大河「うわあ。お好み焼き!」
竜児「店の余り貰ってきた。今日仕込んだのは、明日に回すから食べようぜ」
大河「いただきまーす!(はむ)・・・おーいしー!!」
竜児「だろ?あの店意外に味にこだわってるんだよ。俺も初めて食べたけど、お前にも食わせたくなった」
大河「うんうん、これは繁盛するのも分かるわ!あ、そいえば、バイトの方どうだった?」
竜児「いやーもうクタクタ。慣れない接客から、お客の目の前で焼くのがもう・・・まあ、おいしく食べてもらえてるのは嬉しいけどな」
大河「へえ、お客さんが焼くんじゃないんだ?」
竜児「基本的には従業員が焼いてやるんだ。なんつーか、職人的な?」
大河「バイト一日目が大きな口叩くな」
竜児「なんだよ、俺評判いいんだぞ?指名も結構入ったし」
大河「・・・指名?」
竜児「そうだ。美味い人ほど指名が入るんだぜ?どーだすごいだろ?」
大河「・・・」
竜児「大河?」
大河「なんでもない」
竜児「なんでもないって顔じゃ・・・」
大河「なんでもないったら!」
竜児「なんでいきなり切れてんだよ?」
大河「・・・」
竜児「おい大・・」
大河「あんたは・・・」
竜児「ん?」
大河「あんたは、あたしの為だけにおいしく焼いてればいいんだから」
竜児「・・・大河。・・・あのさ」
大河「え?」
竜児「抱きしめていいか?」
大河「!?・・・い、いちいち聞くなバカ犬!!」




半月後。放課後。

竜児「じゃあ大河、俺このままバイトいくから!またあとでな!」
大河「うん・・・」

カバンを掴んで走り去る竜児。その後姿を寂しげにみつめる大河。

亜美「あらら〜?そろそろ寂しい病が発動しちゃったかな、チビ虎?」
大河「うっさい。みのりんに相手されないからって絡むなバカチワワ」
亜美「んな!?ななななに言ってくれちゃってるわけあんた!?」
大河「みてりゃわかるわよ。あんたみのりんのこと、好き好きー!って思ってる
のに、素直になれずに邪険にしてるよね。なにそれ?ツンデレってやつ?」
亜美「ば、ばっかじゃねーの?亜美ちゃんそんなふうに縋ったりしねーし」
大河「あーそうよね。お綺麗なモデルの亜美ちゃんは、一般人のみのりんなんか眼中に無いわよね?所詮パンピーだし?」
亜美「!?ざっけんな!実乃梨ちゃんの魅力は、一般人だからで切り捨てらんねーんだよ!あの子の太陽みたいに真っすぐな・・・」大河「ほら」
亜美「え?」
大河「大好きじゃん」
亜美「・・・ぐ・・・」

口惜しげに唸る亜美。
その反対に、大河は目を細め、笑顔を作る。

大河「ありがと」
亜美「・・・なんであんたがお礼言うのよ?」
大河「みのりんのいいトコ、ちゃんと知ってくれてるから。だからありがと」
亜美「・・・っ」
大河「んじゃあたし帰るね。また明日ねばかちー」

タタタ・・・

亜美「・・・」

ピピピ・・・
TELLLL・・・TELLLL・・・ピ。

実乃梨『モシモシみのりんだー!どしたあーみん?』
亜美「あ、実乃梨ちゃん?・・・あたしさ、この件から降りていいかなぁ?」

実乃梨『ええっ!?そりゃまた急にどうしてさ!?』
亜美「・・・別にたいした理由はないけどさ、なーんかやる気なくなっちゃったっていうかさ・・・」
実乃梨『あーみん手伝ってくれるっていったじゃんー!』
亜美「・・・別に亜美ちゃん、なんもしてねーし。居なくたって・・・平気じゃん?」
実乃梨『平気じゃないって!お願いだあーみん!あたしを助けると思ってさ!』
亜美「・・・まぁあんたがそこまで言うなら手伝うけどさ、期待しないでよ?」
実乃梨『おーありがとう!あーみん大好きだぜ!!』
亜美「っ!!・・・実乃梨ちゃん?亜美ちゃん、いーことおもいついちゃったぁ。あのね・・・」

ゴニョゴニョ

実乃梨『おー!それはいいね!わかったあとは任せてくれぃ!愛してるぜい!』



亜美「なーにが愛してるぜだっつの。・・・あーもう、あの子のあーいうとこ・・・大好き」

一人ほくそ笑みながら、亜美は鼻歌混じりに帰路へとついた。


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