振り下ろした木刀に感触は無かった。
ちっ、避けやがったか。
「おとなしくしてたらすぐ済むって言ってんでしょー!!」
「おとなしくしてられるかー!!」
壁際に避難した高須竜児が怒鳴ってくる。
関係ない。
今記憶を消さなければ・・・私は多分壊れてしまう。


『1話if・11』


「なあ落ち着け!とりあえず俺の話を聞け!!」
必死になって語りかけてくる高須竜児。
そりゃあそうだろう。
なんたって木刀で殴られるのだ。
でも安心して。
私は今までの経験上、手加減には慣れてるから。
「お話の時間は終わった・・・そう言ったわよね?」
「だから終わらすな!俺はまだ何も言ってねえ!!」
その言葉にカチンときた。
そうでしょうよ。あんたは何も言ってないわ。
・・・私を拒絶した理由を。
でもそれがなに?
あんたは・・・あんたは・・・。
「嫌って言っておいて・・・他になにを付属させる気なの・・・?」
そうなの。
拒絶された方には、その理由なんか要らない。
全然全く。
でも拒絶した側には、それは大層重要なのだ。
自分を正当化するために。
私は特にそっち方面には対面してきた。
友人にも。
親戚にも。
・・・親にも。
彼らはこぞって、自分達の理由を並べ立てる。
自らの行為の正当性を。
でもそれは・・・私にはなんの意味もなさない『言い訳』に過ぎないのだ。
それを身をもって知っているのだ。
なのに・・・なのに・・・。
「あんたまで・・・自分を正当化するの?」
「・・・逢坂?」
気がつけば、頬に熱い液体が流れていた。




ああそうか。
私はまた悲しいんだ。
また裏切られたから。
裏切られたってのはおかしいか?
勝手に期待して勝手に先走ったのだから。
でも・・・屋上でのこいつの言葉には、それだけの価値があった。
でもそれは結局は勘違いだったわけだ。
ははは。笑え過ぎて涙が出る。
「・・・屋上で・・あんたが言ってくれた言葉・・・すごく嬉しかった」
「!?」
驚いた顔してる。
聞かれてたなんて夢にも思ってなかったでしょうね。
いい気味だわ。
「それに・・・期待しちゃった・・・あんたなら・・・あんたなら、私を・・・受け入れてくれるのかもって・・・!」
「!!あ、逢坂・・・!!」
「うるさい!!」
そうだうるさい。
うるさいうるさいうるさいうるさい。
もういい。
もういらない。
あんたなんか・・・あんたなんか・・・。
「記憶さえ飛べば・・・もうあんたに近づいたりしないわ・・・。でもこのままじゃ・・・私は学校にもいけない・・・!あんたを遠くからでも見ることが出来ない!それは嫌・・・それは嫌なのーっ!!」
「あ、逢坂!そ、それって・・・!」
頭の中が真っ赤だった。
何か言ってる高須竜児の声も耳に入ってこない。
好都合だわ。
このまま一気にあいつの脳天ブッ叩いて・・・それで・・・。

『ソレデワタシハマタヒトリボッチダワ・・・』

「う・・・わあああああああああああああ!!」
「空っぽだったんだーーーーーっ!!!」

え?

ピタリと振り下ろす手が止まる。
なんていった、今?
ぶわりと、木刀に纏っていた風が床に跳ね返り吹き上がってくるのを感じながら、私の頭は真っ白だった。
なんて言ったの・・・?
なんて・・・あ。
ゆっくりと思考の中に、高須竜児の声が反芻される。
「空・・・っぽ・・・?」
それをただ口に乗せる。
そうして耳に届くのは、安堵の溜め息。
「そーだよ・・・だから内容なんて・・・わかんねーんだよ」
ゆっくりと目を上げて見た高須竜児は、そう言って私に笑いかけた。
「ったく先走るのもいい加減にしてくれ。俺はまだ・・・その・・・お前の気持ちを聞いてねーんだから・・・」
そう言って、照れた様にソッポを向く高須竜児。
「・・・」
「あ、逢坂!?」
その顔と驚愕の事実に、私はそこで思考を手放した。

『今の顔・・・すごい可愛かった・・・』


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