「ん…ぅん」

朝8時前。
いつもより遅くに目を覚ました。
今日は冬休みをあと3日ほど残す日だ。肌寒いが天気良好。雲一つない快晴。
「…あぁそう言えば泰子は旅行中でいないんだっけ」
そう呟きながら体を伸ばした彼は『あっ兄貴お目覚めですか?どうぞ目覚めの一服を』っと煙草を差し出す弟分を持ってそうな目つきがヤバい奴。
高須竜児である。

竜児はクリスマスイブに一年の時からずっと想い続けた同クラスの櫛枝実乃梨に振られ,その後インフルエンザで入院…っという散々な冬休みであったが体調はもう完治。
しかし心の傷はまだ癒えていない。
「…はぁ〜」
ため息を付きながら洗面台に向かう奴は目つきのヤバい奴……ヤバい奴なのだが…。



「えっ…?はっ!?あれっ!?」

洗面台に着いてここで異変に気付く。
目の前には洗面台。そう確かに洗面台なのだが,いつもなら着いた瞬間自分の凶悪な面を写す鏡がない。
いや。あるにはあるのだが,それは随分と上を見上げた所にある。
「……」
「…………」
「…………………」
時が数秒たった所で
「はぁぁぁぁ〜〜!?」竜児は狂ったように叫ぶ。
もう一度だけ言おう。
竜児は目つきがヤバい奴。
だがしかしそこで悶絶してるのは身長はおよそ60センチ程度。年齢にして5歳くらいの少年がいた。
「ありえねぇ。ありえねぇ!ありえねぇぇ!!」竜児は混乱した。

落ち着く
逃げる
逃げる
現実逃避←

現実逃避を選択したが逃避の仕方を忘れるくらい混乱中。
仕方なく落ち着くを選択。



かれこれ30分たって落ち着きを取り戻して考えた。
考えて考えて考えぬいた結果。
「はっ!!…まさか昨日の…!?」
慌てて台所へ行き缶専用のゴミ袋から一つの空き缶を手に取る。
手には【肌がピチピチ若返りジュース(ピーチ味)】と,なんとも言えないセンスの名前と嫌に禍々しく光る派手なピンクが目に入る。

それは昨日の買い物の帰り………


*****


「よし。今日泰子は旅行の為にいつもより早く出るって言ってたし大河と2人分ならこんなもんだろ」
と,満足気に買い物を済ませ商店街を歩いてたら「兄ちゃん兄ちゃん」っと声をかけられ振り向く。
そこには帽子を深く被り白髪,白髭のちんまりとした感じのお爺さんがチョイチョイと手招きをしていた。



ちょっと不審に思いながらも「なんですか?」っと答える。
「いやぁこれねぇ。まだ発売前の試供品ジュースなんだけど」っと笑顔で話すお爺さん。
「これお母さんとかに飲ませてあげたら喜ぶと思うよ」
で,貰ったのが肌がピチピチ…のジュースだった。
どうせ名前だけで中は普通の桃味なんだけどね。っとお爺さんはケタケタと笑う。
そんなこと配ってる本人が言っちゃダメだろ,と思いつつもタダなので有り難く貰う事にした。
帰り際に「たまに本物が混ざってるかもだけど」っと呟いてるのを聞き流す事にしてその場を後にして帰路についた。

帰る途中に大河からメールが来ており【今日みのりんと食べるからご飯いらない】とだけ書いてあった。分かったと返事をして「今日は一人飯か」と呟く。



一人分なので簡単なもので料理をすませ食べる。片付ける。洗う。暇。

ちなみにインコちゃんにもちゃんと飯をあげてある程度相手したらさっさと寝てしまった。気持ち悪い顔で…。

「一人ってこんなに暇で寂しいものなんだな」
大河がいないだけでこうも違うとは…とちょっと大河恋しくなってる自分に気付く。

「…風呂入って今日はさっさと寝るか」
そう言ってそそくさと風呂場に向かう。

20分くらいで上がって喉が渇いたので冷蔵庫をチェック…
「しまったぁお茶冷やすの忘れてたわぁ」
熱いお茶ならあるが今は冷たい物が飲みたいのだ。「あっ!」あるもの発見!あのジュースだ。
「まぁ泰子も大河もいねえし」と手に取りゴキュッっと。そして就寝。


*****


…で翌朝起きるとこれだ。
「ありえねぇ。マジで勘弁してくれよ」


午前10時過ぎ竜児は出かけた。商店街に向かう為だ。特に何を買う訳でもない。あの爺さんを見つける為だ。

ちなみに服は竜児自身で作った。
朝起きた時,体が小さくなってたせいで寝るとき着ていたパーカー一枚あとスッポンポン状態だったのだ。
勿論5歳児が着れるような服はなくダボダボのパーカー一枚でミシンを出し,いらなくなった服をあさりハサミを入れる。パシンっと音がなるたび「あぁMOTTAINAI」と繰り返す。
体は小さくなっても器用さは変わってなかった。

商店街に着き辺りを見回しながら歩いたがいない。やく一時間近く捜したが結局見つけず終い。

帰り道。高須家が見えた所で足が止まった。
高須家に入ろうとしているであろう人物がこちらに気付きその人物も動きを止めた。



お互い目を合わせたまま時が止まっている。
(ヤバイヤバイヤバイ)竜児は焦っていた。
だって目の前にいる奴は見た目は高級なフランス人形。大きな目。筋の通った鼻。潤ったピンクの口。きっとこうゆうのを美人と言う。
だがさすがは人形。小柄で華奢で可愛らしい部分も持っている。
しかし奴は凶暴で我が儘,気に入らない奴はぶっ潰す。手乗りタイガーこと逢坂大河だ。

ヤバいと思ったのはその性格が怖いからじゃない。俺の姿形がヤバいんだ。
「なに見てんのよ」
先手を取ったのは虎。
「おおう」
不意を憑かれた竜が反応する。
「あんたさっきから視線が痛いのよ」
「いや…あの」
うわっ!こっちくんな!
「んっ?」
しかめ面で竜児の前まで来てしゃがみ込んで俺の目線と合わせた。
「あんた…あいつにソックリね。名前は?」
「竜児です…」
「竜児!?」
あっヤバっ!!思わず素直に答えてしまった。




「…ぷっ」
「…ぷっ?」
「ぷぁっあひゃひゃひゃひゃぁ〜」
「おおう!?」
突然笑い出した大河にビックリして声をあげた。

「竜児って…竜児って…ぷっクククク…あーダメ!」あーひゃっひゃっっと笑い転げる大河を呆然と見やる。

「ひーひー。目つきとか雰囲気とかでさえ似てるのに名前まで同じだなんて…プクク,遺憾だわ」
「………」
「何?あんた。あいつの生まれ変わり?」プッ
いや死んでねぇからと声に出さず突っ込む。

そこで竜児は思った。
こいつ…もしかして俺だって気付いてない?

「はぁはぁ。あんた歳いくつ?」
突然の質問。
「えっ!?17さi」
「はっ!?」
「じゃなくて…5,6歳?」
「あっ!?」
あっ…眉間にシワが…
「あっ!5歳!5歳です!」
「あらそう。で,何してんの?」
えーっと,あーっと「ブラブラ?」
「一人で?」
何でこいつはこんなに突っ込んでくるんだよ!!
「はい…まぁ暇なんで」
「ご飯食べた?」
そう言えばもうすぐ昼飯時。あっ朝も食ってねぇや。
「食べてないです」
あまりの質問の速さに流されてしまい色々バカ正直に答えてしまう自分を殴った。…頭の中で

そしてこいつは
「まだならここで食べていきなさいよ。あんたソックリで名前は一緒。目つきの悪さは3倍の…まぁ悔しいケド美味しい料理作る奴がいるからさ」

などと嬉しい事を……じゃなくて,とんでもない事を言いやがった。



いやいやいや待て待て待て!俺が俺だからそこに俺はいねぇ!
〜あーややこしやー!!

竜児は焦った。
畜生!俺は[焦る]と[混乱する]しか身に付いていないのか!?

などと思ってる内に
「あれぇ〜?竜児いないの〜?おーい。だーけーんー!」
いつの間にか家の中にいた。

これはいかん!
「すみません…ちょっとトイレ…」
「えっ!?あーそこ右ね」
分かってるっつーの!ここは俺ンチだぞ。
「あっどーも」バタン


****


そこから大変だった。
ポケットから携帯を出し【悪い!今日泰子の店の人から連絡きて旅行先で泰子が倒れたらしく俺も大阪に向かってるんだ。だから冬休み中に帰ってこれるかも分からねー。】と大河にメール。
泰子すまん。
そしてこの苦しい言い訳を文句いいながら,心配しながらも信じてくれた大河…すまん。

ガチャと音をたてトイレから出る。
ついでに,はぁ〜っとため息も。
ここにきて罪悪感まみれなのだ。
初めから真実を全て大河に説明してたらもっと楽だったのだろうが,ここまできたらもう後には引けない。嘘を貫き通すしかないのだ。

「残念ね。あんたとあいつ見比べて楽しもうかと思ったらいないんだってさ」
「そうですか…」
そりゃそうだ。
「あっそう言えば私の名前教えてなかったわね」
「あぁ。たい…っ」
「えっ?!」
「いやなんでもないです。教えて下さい」
あっぶねぇ〜!普通に呼ぶとこだったよ。



「私の名前は大河よ。逢坂大河」
「…大河」
うん知ってるよ。
「そう。だから大河お姉様と呼びなさい!」

「……」
「ほら早く言いなさいよ」
どしたの?っと急かすが〜
いやいやいや無理だ!てか嫌だ!第一なんで様付けなんだ!?
そう思いながら必死に顔をプルプル横振り。
「なによ。嫌なの?ったく往生際が悪いとこまでソックリねあんたって……もしかして本物の竜児だったりして」
「ひっ!!」
ヤバっっバレたか!?
「な〜んてね」ってニッコリ笑顔
「おうっ!?」
今のは卑怯だ。不意打ちの笑顔。結構…てかかなり可愛くて不覚にもドキッとしてしまった。
何をときめいてんだ!相手はあの大河だぞ!

「まぁ兎に角、お姉様は可哀想だから大河お姉ちゃんとでも呼びなさい。分かったわね竜児」
どっちも呼びたくないのだがお姉様だけはマジ無理。俺のプライドが許さない。仕方ないここは素直に
「はい。大河お…お姉ちゃん…」あー言ってしまったぁ〜恥ずかしくて死んでしまう
それでも,よく言えたっと誉めて頭を撫でられたのはなんとも心地よかった。



……なぜこんなことに……

時刻は午後8時。
外はもう真っ暗だ。
俺は今大河の家にいる。上半身裸で…。


****


あれからお互いの腹から強烈な音がなり飯を食う事に。
大河の案で久々マック。大河は「らんらんるー」っと連呼しながら行き道を歩いてた。

…しかし大河の注文には驚いた。
「ビックマックのセット一つとチーズバーガー一つ。えーっと後ナゲットとサラダ,バニラシェイクも飲み物はアイスティーで!でっあんたは?」
マジですか?大河さん。化け物ですか?
俺は子供アピールをするため可愛くハッピーセットで。只今名探偵コ○ンが付いてくるらしい…。

食べてる途中「あんた家は大丈夫なの?親とか」と聞いてきた。
すげぇ〜俺まだ半分くらいしか食べてないのにこいつは3分の2以上も食ってるよ。と思いつつ,そこで俺は気付いた。
帰る場所がないと。

いや,あるにはあるが今大河の中では高須家の者はいないと思ってる。
そこでどうだ,俺が帰って電気などでも付けたら怪しく思うだろう。例え電気を付けないで生活しても,相手はあの猛獣手乗りタイガーだぞ。野生の何かで絶対気付くはずだ。

「どうしたのよ?」
あ〜急かすなぁ〜。あ〜…「い…家なき子です」
「えっ!?」

だぁー!!!俺はバカだ!大バカだ!!!もっとちゃんとした言い訳くらい見つかるだろ!?家なき子って…今時家なき子って…同情するなら金おくれってか!?このやろう!

「ふーん…だったら私ンチに泊まりなさいよ」
「…えっ!?」



そんなこんなで大河ンチ。
マックもそうだが,実はあのあと上下の服と下着まで買ってもらった。
見た目も値段も手頃な物を。そしてファミレスで夕食までも。
全て大河持ちだ。
男として情けないが財布も何も持ってきていなかったからな。
元に戻ったらうんと奮発してやろうと思う。

しかし!しかしだ!
この状況はなんだ!?

「いやいや。たっ大河お姉ちゃん大丈夫だから」
「なに言ってんの!!あんた家なき子ってくらいなんだからあんまお風呂とか入ってないでしょ」
「いや,そうじゃなくて!僕1人でも入れるから!!」
「なーに5歳児のガキが照れてんのよ。一緒に入って体洗ってあげるって言ってあげてるでしょ。「でもっでもっ」さっ下も脱ぎ脱ぎしましょーね♪」
いぃ〜やぁーーーーーー!!!


竜児の声が夜の街に響く。


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