今こいつは何て言った?
好きな人は竜児?
竜児って…竜児って…
「………俺か…?」
思わず声に出してしまった。

「…ぷっ」
その瞬間背中から聞こえたのは昼前にも聞いた覚えのある含み笑いの漏れる声。
「ぷはッ」
そして吹き出した声。
その声に反応し上半身を起こし少しあどけない三白眼を思いっきり開いて大河を見やる。

「ははは!うん!あんたも確かに竜児だね」
でも残念。あんたもまぁ好きだけど…あんたじゃない。っと言葉を続けた大河の顔がくもがかっていく。

「なんで!?だって大河の好きな奴って別の……っ!!」
あまりの出来事につい,いつもの調子で喋ってしまった自分に気付きブレーキをかけた。
ヤバい。今のはまずった。

「………」
「ぁ…ぇっとぉ……」
「…あんた。いつ誰が名前を呼び捨てにしていいって言った?」
「…ごっ…ごめんなさい」
ここは素直に謝る。
だって今のは完璧自分のミスだったから。

「ん…まぁいいわ。なんでそんな事聞いてきたのかは知らないけど,あんたの言う通り前は別の人が好きだったのよ」
だった…過去形…つまり今は好きではないって事だよな。
「まぁ竜児が…って言ってもあんたじゃないからね」
っと軽く頬を赤くして微笑んでる様な膨れてるような顔で釘を刺してくる。

「…うん」
分かってるよ。俺の事じゃない。俺の事じゃないよな…?
竜児は胸の内で祈ってた。
だってそうだろう?
もし俺だったら絶対今までみたいに大河を見れない…意識しちまう。

そして大河は言葉を続けた。




「前まではね,別の人…竜児の親友で北村君って言うんだけど,その北村君が好きだったの」

…あぁそうだよ。
俺の唯一の親友,お前の好きな奴は北村だ。
ここまでは俺だって知ってる。
だがこっから先は知らない…知りたくない。
でも竜児は今時間が止まってるかのように動けなかった。

「でもね,それはいつしか憧れに変わってた事に気付いたの」
「………」
「…っで竜児を好きだって気付いたのもつい最近,去年のクリスマスイブ…根性のない竜児を告白するように仕向けて背中押してあげた後…」
クリスマスイブ…あの日か…あまり思い出したくもない

「…私1人で泣いてた」
「っっ!!」
竜児は眉間にシワをよせ驚き元々出なかった言葉を余計に詰まらせた。
「そこで私竜児が好きなんだって気付いて裸足のまま竜児を追いかけてた…でも見つからなくて…追いつけなくて」
もう…頼むからもうその先は言わないでくれ…
「エントランス抜けたところで竜児の名前を呼びながら…ずっと泣き叫んでた」

…知らなかった。
俺はまたこいつを1人ぼっちにさせていたのか…泣かせてしまっていたのか。
「情けないでしょ?」
っとあどけない笑顔で聞いてくる大河に心が痛む。
「…そんな事ないよ」
もうこんな下らない返事しか思いつかない自分にも腹が立つ。
「あ〜ぁ。私こんな子供相手に何言ってんだか。さっ!もう遅いしさっさと寝よ。はい!あんたもさっさと布団に入る!」

いつのまにか俺は布団の上で正座して話しを聞いてたようだった。
「はい」と返事をして気持ちのいい布団に体を滑り込ませる。
「じゃ,寝るわよ。おやすみ」
「おやすみなさい」




………
あれからどのくらいの時間がたったのだろう?
予想だと30分?いや!一時間くらいか?
大河とお互い背中合わせの状態で横になってる竜児は未だに寝付けずに考え込んでいた。

大河は北村ではなく俺が好きだと言った。
あの文化祭の日から大河をもう独りさせないって決めたのにまた独りにさせて泣いてる事にも気付いてやれなかった。
このやるせない感情はいつまでたっても消えない。

「……スンッ」
!!突然後ろから聞こえてきた鼻を啜る音に反応し振り向く。
「大河お姉ちゃん…まだ起きてるの?」
「…フッ……クッ」
次に聞こえてきたのは
「…もしかして」
歯を食いしばって声を押し殺すような喉の鳴る音。
「泣いてるの…?」
その音が,声がシンとした寝室に響く。
「…ハァ……クッ…ぅじ」
「えっ!?」
「りゅ…じ……竜児……りゅーじぃ……」

連続して自分の名前を呼ばれる声。
―ズキン―
胸の奥が締め付けられるような感覚が走る。
なんだかいても立ってもいられない。
その瞬間大河が突然寝返りふわっとした甘い香りが鼻をついて気付けば大河の頭が俺の狭い胸に寄りかかっていた。
て言うか押し潰してきた。

「くはっ!!」
ちょっ!!苦し…!!
「……ゴメ…ちょっ…と…スンッ…胸……貸して…クッ…」
「………」
「うっ…竜児…りゅーじぃ…」
うわぁ〜んと泣き叫び続ける大河の頭を俺は自然と小さい腕で包み込んでいた。

大丈夫。俺はここにいるよ。もう独りにしないよ。
そう思い頭を柔らかい髪を優しく優しく撫でる。
俺が感じたあの安心感を大河…お前にも感じて欲しいから………。



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