****

再び俺たちはここ,商店街に戻ってきた。
およそ2時間はたってたので爺さんがいるか心配されたが…
「おや?おチビちゃん達また来たのかい?」
KYG(空気読めないジジイ)未だ在籍中であった。

「チビって…達って…竜児は分かるけどなんで私まで…」
どう見たって私の方が高いでしょ!!
などと根本的にズレた突っ込みを入れてる大河の横では
「まぁ落ち着けって!てか爺さん!この姿見たら来た意味分かるだろ!?」
隣の猛獣を軽く宥めつつKYGに言葉を放つミニマム竜児。

商店街のド真ん中で朝からギャーギャー騒いでいたせいなのか?
顔を覚えられてるのであろう。
俺たちを見た瞬間,周りのお店の人達からの冷ややかな目が突き刺さる。
そんな過酷な中で必死に先ほどの出来事を説明する竜児は
「…ふむ。なるほど」
無事爺さんに報告する事が出来た。

「つまり高須君の好きな子にキスしてもらったけど元に戻れてない,と」
説明した事を丸々復唱すんなよと突っ込みをいれたいが「そうだよ」と頷いておく。

「ふむ。…高須君」
「なんですか?」
「その子は本当に君の好きな子かい?」
…えっ?
「ちょっと!!何言ってんのよクソジジイ!!」
いや…さっきもだけど何故大河が噛みつくのだ?
竜児は驚く暇もなく大河を宥め落ち着かせ,そして爺さんは言葉を続ける。

「ワシは本当に好きな子からキスしてもらうと戻ると言った…それは嘘じゃない,真だ。」
「…はい」
「だが君は戻ってない。つまりそれは本当に好きな子じゃない」
「………」
「ちょっと!!そんな訳ないじゃない!!竜児の好きな人はみのりんなのよ!!」
大河は訳分かんないと喚き散らかす。

そんな大河を爺さんはチラリと横目に見てすぐ俺に視線を戻し
「…高須君。君はもう分かってるんじゃないのかね?」
「!!」

そう。俺は薄々気付いてた。




爺さんが言いたいこと。
竜児が感づいていること。
元の体に戻す方法。
それは全て繋がっていて一つの場所にある答えを示している。

「…高須君」
「あぁ…。分かってるよ。ありがとう爺さん」
「ちょっと!!竜児どう言うこと!?」
俺と爺さん2人だけが事の行き先を分かってる中,1人だけ理解出来てない大河が俺の視線に目を合わせ両肩に手をかけ揺さぶり聞いてくる。
そんな大河に俺は優しく微笑みかけ
「…大河。帰ろう」
とだけ言葉を放つ。
大河は困惑した顔のまま動かない。

「爺さん。あのジュース失敗作だ」
もう配るなよ。と試供品の感想を述べ
「ワハハ。そうじゃな。肝にめいじておくよ」
そう言って俺たちは爺さんと別れを告げた。


*****


「なぁ大河」
「なによ?」
「晩飯なにがいい?」
帰り道。いつもと変わらない会話をしながら2人は歩いていた。

「あんた、そのちっこい体で何か作る気なの?」
遺憾だわ。と睨み付けてくる大河。
「おう。大丈夫だよ。お前が協力してくれるならいつも通りになるから…さ」
竜児は俯いて顔を軽く赤らめて呟く。
「??はぁ??あんた私に手伝えっての!?散々私のドジ振りを見ながらも手伝えって?」
嫌そうな顔をして話すのも束の間
「まぁあんたがどーしてもと頼むなら、やや、やぶさかではない」
フハハハハっと調子に乗り出した。

そんな大河に何か突っ込むでもなく
「今の言葉。マジで信じるからな。てか本当に頼むわ」
竜児は真剣な表情で改めてお願いした。


***


時間は過ぎ時刻は夕方5時半。
爺さんと別れたのが昼1時くらい。
昼飯を食ってなかった俺たちは大河の要望で晩飯は「肉」と一点張りだった為安上がりにカップめんを食べた。
竜児にとってはかなり久しぶりに食べたものだった。

先ほど俺たちは狩野屋へ買い物に行き高須家へ帰ってきたばっかり。
因みに今日の晩飯は黒豚の豚カツにするつもりだ。
「にーくー♪肉,肉♪きょーのおかずは豚カツだぁー♪」
ヘンテコな歌を歌うのは久しぶりの豚カツで上機嫌真っ盛り中な大河である。
「おう!しかも黒豚だからな!味わって食えよ」
「当たり前じゃない!それよりもあんたがまともに作れるかが問題でしょ」
まぁ私が手伝ってあげるんだから美味しくできるのは当然ね。
…などと言ってくれるよこいつは。
買い物も無事終了し高須家。
さぁ,ここからが勝負だ!


***


取り敢えずコンロ,油などこの体のままでするには危険な事以外の下拵えを全て済ました。
大河も…まぁ皿にキャベツを盛り付けるという手伝いをしてくれた。
卓袱台の下に沢山のキャベツ達が散らかっているのは…まぁ目を瞑ってやろう。
MOTTAINAI事してすみません。と俺が代わりにキャベツに謝ってやったかんな!

「さぁ次は何するの!?」
キャベツを盛り付けた事で自信をつけたのか,大河は張り切って次の指示を待っている。
「おう!あとはこの黒豚ちゃんを油で揚げるだけだ」
「オッケー!あんたじゃ背丈が足りないから届かないでしょ?」
「えっ…?あぁ…まぁ」
「なら私がこの油の中に黒豚をぶち込めばいいのね?簡単よ♪」

…ん?今なんと?
油の中にぶち込む?何を?…黒豚を。
誰が?…大河が。
「…ちょっと待て」
「なによ?」
「それはダメだ!危険だ!お前の事だ。絶対油が飛び散り大変な事になり怪我するのが目に見えている!」
「なによそれ!!じゃあどうすんのよ!?」



どうすんのよ!?と言われましても…。
どうすんだ,俺?言っちゃうのか?ついにあの頼みをお願いするのか?
そんな事…そんな事…
「恥ずかしくて言えるかぁぁぁ〜〜!!!」
あぁぁぁ……あれ?
声出ちゃったじゃねぇか…。

あぁ…そして大河よ。そんな今にも「はぁ!?」って言いそうな顔は止め…
「はぁ!?」
…て,って思う前にやっぱり言っちゃったよ。
「あんたなに急に訳分かんない事叫んでんの?」
ばかなの?死ぬの?
と続けざまの罵倒ありがとうございます。

「うっうるせぇよい!気にすんな!」
俺はこの時相当テンパってたんだと思う。
「あ〜えっとぉ,さ…さっきの続きだけど〜」
だからこんな言葉をつい口走ってしまったんだ。
「大河が俺を抱っこしてくれたらいいと思うんだ!」
…ほらね。俺,テンパってるでしょ?
「なっ!?なななななに言ってんの,ああ…あんた!?」
ついでに大河もテンパったし。

「ち…ちがっ!!今のは言い方が悪かった!抱っこじゃなく抱き上げて高さ調整をと言う頼みで…」
必死に言い訳をする竜児。
しかし大河は竜児の声など耳に届いていないのか1人でごにょごにょと呟き「よし!」と何かを決心したみたいで顔を上げた。

「わわわわかたわ!なんかよくは知らないけど,りゅっ…竜児をだだ抱っこすればいいのね!?」
「おうっ!?」
この竜児の口癖でもある「おうっ」を大河は「その通りだ!」と解釈したようだ。
因みに竜児にとっては大河のまさかの発言に対してビックリして出た声でしかない…。



「ちょっ…ちょっと待て大河」
まさかの展開で困惑してる竜児。
「なっなによ?あんたが言い出した事なんだからね!」
決心した大河はそれに突き進み引かない。
なんだかまんざらでもなさそうに見えるのは俺だけか?
それでも2人とも肌の色は耳まで真っ赤だ。

「いや…大河。お前は何か誤解をして…」
「だー!!うるさい!!逃げんな!!おおおとなしく抱っこされろ!!」
ふんぬっ!っと言う掛け声とヒョイッと言う効果音と共に俺は宙に浮いた…のは一瞬でボフッと俺の体は何かに預けられた。
と次の瞬間

――ギュッ――

「……っ!!?」
抱きしめられた。

それは優しくて,でもどこか力強くて…暖かい。

「………」
「………」
だから俺も

―ギュッ―

と大河の首に腕を回して抱きしめ返した。
「…!!……なっなんなのよ。この状況は…?」
一瞬ビクッと体を震わせた大河だったが,何のこれしきとばかりに軽くドモリながら聞いてくる。

なんなんだろな?本当に…。
俺にも分かんねぇよ。分かんねぇけど
「さぁな。俺,今一応5歳児のガキだから甘えたくなったのかもな」
気持ちいいから。もう少しこのままでいたいから適当な事を言ってしまう。
「……なによそれ」
顔は見えないが口調からして怒ってる感じではないだろう。


頬と頬が触れ合う程に近くお互いがお互いの熱を感じる程抱きしめ合う。
もし俺が小さくならなければこんな抱きしめ合うイベントはなかったかもしれない。
こんな心地よい感覚を知らないままで過ごしてたかもしれない。

そう思ったらこのまま…5歳児のままでもいいかもしれないと思った。



本当に?

『…れは……ゅう…』

このままで

『…ま…は……ら…』

いいのか?

『俺は竜,お前は虎』

!!

『虎と並び立つものは,昔から竜だと決まってる』

あぁ…

『だから俺は,竜になる』

そうだよ

『お前の傍らに居続ける』

このままじゃ大河の隣には居られないじゃねぇか!!

「…うじ!ちょっと竜児ってば聞いてるの!?」
「…えっ!?何っ!?」
暫く1人で想い老けてた竜児は今までずっと話しかけてたであろう大河の声なんて聞こえてなかった。

「ったく!!なんなのよ?さっきからボーっとしちゃって」
「わりぃ。ちょっと考え事を…」
「はん!まぁいいわ。で!これからどうすんのよ!?」
これから…。
そう。このままではいられないから。
これから戻らなくちゃいけないから。
戻る為には
「大河」
お前が必要なんだよ。

「なに?」
「もう一つお前に頼みたい事がある。てかこれが一番重要なんだ!聞いてくれるか?」
「一番重要ならさっさと言いなさいよね!!まぁいいわ。私になんでも言いなさい。優しいご主人様が飼い犬駄犬の為に手伝ってやろうじゃないの」
フフン♪と鼻高々と威張ってた大河は
「キス…してくれないか?」
「……へ?」
ネジの切れた人形みたいにゆっくりと停止しました。


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