「文化の違いを感じるな…」
「え、ええそうね…」
回りを見渡せば、茹だる暑さに耐え兼ねて上半身をさらけ出す人。公衆の場で平
然といちゃつくカップル。それを見ても怯みもしない人々。
「日本で恥ずかい事も此処なら恥ずかしくないかもね」
そう言って竜児にキスをする大河。
「お、おう。そう…かもな」
かく言う二人は真っ赤である。その様子は、流石のこの地でも目立ってしまって
いる。


アメリカ大陸。全50州。人口約3億人を有する世界の軍事、経済、文化の中心
に二人は来ていた。
親友である北村に呼ばれたのは一ヶ月前。大河が何となく買ったロト6で100
万が当たり、旅費のめどがついたのが2週間前。異国の大地を踏んだのは3時間
前となっている。
「北村くんもここなら目立たないね」
「おう。そうだな」
親友のちょっと妙な癖を思い出す。それは、アメリカ軍の規定でギリギリアウト
なレベルの露出癖だ。
日本では、それこそあの社交性と明るさが無ければ、ほの暗い部屋でベテランポリ
スメンとにこやかな世間話を繰り広げる未来に繋がりそうな癖である。
「おーい!高須ー、逢坂ー!」
懐かしい声に振り返る二人。視線の先では北村が手を大きく振っている。勿論上
半身に服は着ていない。
「あいつも随分オープンだな」
「そうね」
何も変わらぬ親友の存在に温もりを感じて、二人の顔が思わず綻ぶ。だが、直ぐ
にその顔に亀裂が……というのは実際には有り得ない話なのだが、もし漫画なら
ば間違いなくそうなっていただろうと感じる程、二人の表情は固まった。石の如
く。銅像の如く。
「久しぶりだなぁ、二人とも」
何故なら、二人に駆け寄ってくる北村の出で立ちは高田○次よろしくの象さんパ
ンツいっちょだったからだ。流石のアメリカでもこれは変態の域なんだろう。北
村の笑顔の背後には同じく笑顔の警察官が見える。
二人の脳内に北村祐作と他人を装う為の62の嘘が展開する。
「どうした、二人とも。感動の再開に言葉が出ないか?」
二人の顔には『頼む、話し掛けるな』と書いてあるのだが、北村は気付かない。
「ア、アンタナンカシラナイワ」
「オ、オレモシラネェ」
「はっはっは!記憶喪失ドッキリか?似合わないから止めろよ」
止めるのはお前だと目で訴える。だが、やはり気付かない。わざとなのかもしれ
ない。
「だぁぁぁもう!後ろ見ろ!そして状きょ……」
「後ろ?」
ついに豪を煮やした竜児が、鈍感な友に状況を教えようとするが、時既に遅し。
「Don't move!I arrest you!!(動くな!逮捕する!)」
警官が手帳を見せ付けて、三人を睨んでいた。


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