竜児の部屋の豆電球を見上げながら思う。
この部屋には竜児の匂いが染み付いてる。もちろん、この布団にも。
ここ以外で抱き合ったことなんかないけど、やっぱりここが一番だと思う。

ごめんね、やっちゃん。私ここがとっても好きなんだ。
今日は……ううん、今日もこっそり泊まらせてもらうね。

ちょっとした空白の時間。10秒とか20秒とか。
私と竜児の関係がもっと進めば、二度とは訪れない今だけの時間。
でも、今の私にはとても大事な時間。さっきまで散々こいつに苛められて
火照った身体と蕩けそうな脳みそをクールダウンするのに必要な時間なの。


視線を下に45度、私の膝の間に座ってる竜児を見る。
手元を見てないって事は終わったんだ、手先だけは器用なやつめ。

こちらを見下ろしてる竜児と見つめ合いながら、ふと思う。
普通の女の子じゃ、きっとこいつの視線に耐えられないんじゃないかな?
だって、こんなに暗いのに白目がギラギラ光って浮かび上がってる。
うわーと眉をひそめたのが分かったのか、不思議そうに話しかけて来た。

「大河?……どうした?」
「あんた、目だけ光ってロボットみたいよ? それ、レーザーか何か出してんの?」
「おう!? いきなり失礼な奴だな」
「やっぱり真っ暗にしない? 交わるならせめて人間を相手にしたいの」
「交わるとか言うなよな…………真っ暗はイヤだと言ったのはおまえだろう?」
「…………」

そう、真っ暗だと竜児が見えない。
愛しそうに見つめてくれる眼差しが見えない。
両の手が私を包んでくれてるのが見えない。
手入れの悪い唇も、薄い胸板も、一生懸命な顔も見えない。

それが不満なんだ。
でも、そんなこと言ったら恥ずかしくて死んじゃう。







手を伸ばして竜児の頬を撫でる。目元を指先でなぞりながら、

「……なら、目を半分に細めながら頑張りなさい。なんなら閉じてもいいわ!」
「はぁ!?」
「そうすれば私も怖くない。竜児も大好きな私が見えて満足でしょう?」
「おまえなぁ……とか言って、単純に見られるのが恥ずかしいんだろ?」
「うるさいわね、当たり前じゃないの!」
「なぁ、大河……何度も言うようだが俺はおまえの……んっっ!?」

片手でがっちり首を掴んで無理やりに引き寄せる。

こんな時に恥ずかしい台詞なんか言わせない。
それに、今まさに合体☆って時に無駄口叩いてる暇なんかないでしょ?
あ、私が話を振ったんだっけ。……まぁいいや。


「んっ……」

ためらいがちに唇を割って竜児の熱い舌が入ってくる。
ふふん、絡める相手を探して右往左往してる時は可愛いのよね。
ちょんと舌先でつついて私はこっちよとアピール。

なんて、余裕ぶって見せてても、いったん捕まっちゃうと

「ん…ぁぁっ………」

あっという間に竜児のペースになっちゃう。
絡め取られて、弄ばれて、その後はもう抵抗なんかできない。
ま、そりゃね。私だって抵抗したいわけじゃない、むしろ……

竜児のキスに応じるまま、どんどん身体が熱くなっていく。
自分の心臓の音が鼓膜に響いてうるさいくらい。

あぁ、だめだ。やっぱりさっき言ったの無し。
ちっともクールダウンになってないじゃない!



……もう我慢……できない。

「ねぇ……竜児……」

「お?おぅ…」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「んっ…………」

熱い。
熱くて火傷してしまいそうな塊が私を広げて入ってくる。
私を気遣いながら、私の反応を見守りながらゆっくりと竜児が入ってくる。
やっぱり最初はちょっとキツいし、たまに痛む時もある。
けど、声を出したりしたらすぐに竜児は止めちゃうから我慢しないと。

ずりっ…ずりっと中が擦られる度に、奥に進む度に首筋がゾクゾクする。
ぷるぷると身体が震える。自分ではどうしようもない。震えが止まらない。

「あぁ………ぁ…ぁぁあぁぁぁ……」

声が細く掠れる。もう、とっくの昔からトロトロに溶かされてる。
なのに更にこんなに熱いので……どうしちゃってくれるの?

体中の意識が竜児の塊に集中する。
竜児を包み込むようにしながらその形や硬さを感じる。
全身にぐっと力が入る、思わず目を閉じかけて……だめ、目を開けないと!

まだ全部入ってない。竜児がひといき付く前に一目見てやらねば。
ひくひくと震える身体に鞭打って無理やり目を開ける。


……あれ、なんかボヤけてて見えない。

「ぁ、あれ?……りゅ、りゅう…じ………」
「大河…泣くな、泣くなよ……痛かったのか?」
「ううん、痛くない。だいじょうぶ……」

そっと竜児が涙をぬぐってくれる。
こっそりと気持ちよさそうな顔を見ようとしたのに、気付かれちゃった。

あーあ、残念。でも、それでも満ち足りた気分になる。
嬉しい。幸せ。そんな言葉が頭をよぎる。





「……大河。すっげーいいよ。大河のなか……熱い」
「…………っ!」

カッと頬が熱くなる。そんなあからさまなのは反則だ。

「……だ、黙れ……」

あちゃあ、声が高くなっちゃった。恥ずかしいったらないわ。
そんな私をじっと見てる竜児の視線から隠れるようにキスする。
挨拶のように軽く合わせた唇を離して首根っこにしがみ付く。

もうすぐ、もうすぐだよ。

「…………ちょうだい。……奥まで……」

耳元で囁くと、答えの代わりに腰を進めてくれる。
あぁもう、抱きしめちゃってるからまた竜児の顔が見えないじゃないのよ。

「う……っく!大河っ!」
「ああ……りゅ、う、じ。あぁああぁぁ!」

無意識のうちに両手で力いっぱいしがみ付いてしまう。
浮いていた両足で竜児の腰周りをぎゅううううと締め付けてしまう。

強靭な虎の筋肉がめいっぱい緊張して竜児を離すまいとする。
胸を合わせて密着してる体の間に空気すら入れさせまいとする。
なんて浅ましいんだろうと頭では考えても、この身はどうしようもなく竜児を求める。



一番奥に届いてるのにまだ足りないのか、私は――――




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




ゆるゆると竜児が動く。
腰が、というより重なりながら身体をずらすような感じ。
竜児の匂いを胸いっぱいに吸い込みながらゆっくり深呼吸。

「はぁぁ…………」

あとは息遣いと衣擦れの音が微かに聞こえる。
自然と身体の力も抜けていき、竜児はゆっくりと上体を起こす。
僅かに照らす光が心許ないからか、竜児の唇が私の鼻先に触れた。

「ふふ……着陸失敗ってやつ?」
「ばーか、これから華麗に決めてやる」
「はいはい」

拗ねた言い方が可愛い。ついつい顔がほころんでしまう。

もう一度近づいて来た唇が唇に触れる。離して、触れて、何度もそれを繰り返す。
竜児の細い指先があごのラインをや首筋をゆっくりと這う。
その手をそっと握り、ゆるく指を絡める。

「そろそろ、平気かも」
「おう」
「…………んっ…………」

甘い刺激が送り込まれてくる。お腹の中が更に熱を帯びた気がする。
手と指よりも柔らかな部分で触れ合っても、全然足りない。
唇よりも柔らかいところで竜児と溶けあいたい。

だから、もっと、深くまで――






きしきしと布団と畳が擦れる。いや、私と布団の立てる音かな?
私が声を出すのを我慢するとそんな音が聞こえてくる。

「はっ………はっ………はっ…………」

竜児の声は声と言うより呼吸を強くしたような細い呼気。

「あっ……んっ…………あぁっ……は…ぁん…」

私の声は口をふさがない限り途切れなく漏れてしまう。
……不公平よね。出したくなくても出ちゃうんだもの。

でもそれは私が途切れない快感に揺られているから。
竜児の指先、竜児の唇、竜児と擦れあうところ。
その全てが私の身体の内側に波紋を広げる。
それは共鳴し、波形を高く強く増幅していく。

竜児が水面を叩く。弱く、弱く。慈しむように。
「ん…あっ……ぁぁ……んぁ…」

竜児が水面を叩く。パシャンって強く。
「ああっ!!!」

竜児が水面を叩く。弱く、強く。リズミカルに叩く。
「あっ…あんっ!…んっ……ふ、あっ!!……ぁっ……ん…」


情けないくらいに、もう本当に、なすがまま。


竜児のいいようにやられちゃってる!
いっつもそう!いっっっっつもそうなの!!!
ほんっと遺憾だわ。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




竜児のギアはゆっくり上がっていく。
マニュアル車のようにガキン!ガコン!とかじゃない。
切り替えを感じさせないスムーズなギアチェンジを決めてくれる。

指先だけじゃなくて腰の動きまで繊細なんてね。
いったいぜんたい何の家事を頑張ればそんな風になるの?
私なんかまだまだ不器用だから、思うように喜ばせてあげることも……

「……なぁ、大河」
「ぁ……はぁ………はぁ……ん。なに?」
「その、なんだ……」
「…………?」
「あの、また胸を……さ。おまえの、ちっ、乳首を舐めてもいいかな?」

なんて台詞で私の奉仕の精神を打ち砕くのだ、この男は。


「そ、そそそそ、そぉんなことは黙ってすればいいじゃない!!」
「おう!? いや、だってホラ、おまえがビックリするかなって思って」
「はぁ? ビックリも何も、あんたさっきから色々触りまくってるじゃないの!」
「そ、そうだよな。普通はそう思うよな、うん……」

「……さっきのじゃ足りないってわけ? ちょっと控えめだとは思ってたけどさ」
「控えめっていうか、俺はほとんどそこには触ってない、というか……」
「だからって、ちったぁ言い方ってもんがあるでしょ? 考えなさいよね!」
「………………」

……そうだ! 呆れついでにちょっといじめてやろう。
くふふふ。やられっぱなしは性に合わないわ!





「あんた、ほんっとデリカシーないわよね。ヘコヘコ腰振ってりゃいいってわけじゃないのよ?」
「ぐっ!…………」
「こういうのはね、ムードってものが大事なのよ? 教えなかったっけ?」
「……お、教えられてねぇよ」
「あらやだ。教えなきゃ何もできないの、このエロ犬は?」
「……………………」
「あーあ、マナーのなってない奴を相手にするのってほんっとに大変だわ!」
「お……おまえだって人のこと言えねぇだろうが!」
「な、なんだってのよ? いきなりキレて。タチ悪いわね、あんた」

「おまえは覚えてないかもしれないがな、俺だっておまえが言うデリカシーってのをしっかり考えて、
 苦労しながらも自然に顔を寄せて、その、ち、乳首にキスした事もあるんだよ!」
「あら、上出来じゃないの。なら忘れないようにその小さな頭に叩き込んでおきな!」
「なんてひどいことを言うんだ……っていうか、本当に覚えてないのか、大河?」
「何を?」
「その時の事をだよ!」
「そ、それは、そんな全部は覚えてられないわよ……」

「そうか、それなら俺が思い出させてやるぞ、大河! おまえはな、キスした瞬間に
 ひゃー!とか言いながら俺の横っつらを思いっきりぶん殴りやがったんだ!!」

「………………………………」

「すさまじいフックだった。俺は上半身まるごと布団の外までふっとばされた」

「…………………………………………………………」

「ったく。意識というか命が飛びかけたぞ? 違う意味で腹上死するところだった。
 あれ以来、俺はお前の乳首がトラウマになっちまったんだ、悲劇だと思わないか?」


ぐわっと顔をひねる。
そこに見えるコンポの時計を射殺す勢いで睨み付けた。



これはまずい。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




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