「お姉ちゃんは恥ずかしいなんて思ってないから、パンツも出しなさい!」
これである、自分が姉と分かるや大河は俺にお姉ちゃん風を吹かせてきたのである。
「…………」
「りゅ〜じ〜、恥ずかしくないよぉ、だからパンツも洗おうねえ」
しばらく抵抗してみたが大河のお姉ちゃんパワーには勝てず、俺のシークレット洗濯カゴは没収されてしまった。
「なぁ、大河。洗濯はやっぱり自分でするからさ」
「まだそんなこと言ってるの?私は最初にお世話になる代わり何でもするって言ったよね?」
「だけど大河はウチの家事をやって、帰ってから自分の家の分もやって大変じゃないか」
竜児は分かってないなぁ。
竜児にとっては家事をするのは当たり前の事だけど、私には新鮮な事ばかりで楽しいの。
自分の分は今までもやってたけど、今は家族の為に出来る。
こんなに嬉しい事は他にない、だって二人に『ありがとう』って言ってもらえるだから。
「大丈夫だよ、私は好きでやってるんだから」
「でも大変じゃないか」
「うぅん。…それに家事をすると安心できるし」
「何が?どうゆうことだ」
「私が家事をすれば竜児もやっちゃんも私を必要としてくれるじゃない?」
「そんなこと考えてたのか」
「それにね… もし私が食事だけして、他に何もしなかったら『違うぞ、大河!』
「俺たちは家族なんだ。だから何かを求めたりしないし、無理に与える必要もない」
「だからそんなこと考える必要はない」
「そうか… そうだよね、家族だもんね!」
「オゥ!」
「でもね、竜児とやっちゃんの為に何か出来るのは私にとってすごく嬉しいことなの、だから家事は手伝わせて」
「まぁ、無理しない程度にな」
「うん!」
最近分かってきたが、この小っこいお姉ちゃんは結構な頑固者だ。
知り合った当初のイメージとは若干違ってきてるが、そんな大河に俺は益々惹かれてゆく。
だが現実は弟扱いだしな…。
+×+×+×+
食後の一服は旨い、やはり一息つきたい時はコーヒーに限る。
最近は何かと周囲の目が気になってお疲れ気味の俺、人気の疎らな自販機の前はすっかり俺にとってのオアシスとなっている。
「竜児!またそんな物を飲んでる!」
「大河、頼むから学校ではちゃんと『高須』と呼んでくれ」
「誰も居ないし大丈夫。それよりまたコーヒーなんか飲んで、もぅ〜!」
怒りを露わにしてズンズンと近づいて来る、やっぱり怒らせると怖いな。
もし大河が勝ち気な性格だったら常にこんな感じなんだろうな、そんな大河でも俺は好きになるんだろうか?
「いや、一息つきたいなぁと思って、つい…」
「私がポットでお茶を持って来てるって知ってるでしょ!」
「知ってるけど… 偶にはコーヒーも飲みたいなあって」
「だったら前の日に『コーヒー飲みたい』って言ってくれれば準備するのにっ!」
大河はすっかりご立腹だが俺はこの状況に満更でもない。
それどころか『俺って愛されてる?』と、少し勘違いをして楽しんでいる。
「ねぇ竜児、ちゃんと聞いてる?」
「うん、聞いてるぞっ!」
「………とにかく、やっちゃんが一生懸命に働いて稼いでくれてるお金なんだから、無駄使いしちゃダメ!」
「コーヒーくらいで怒るなよ。それに俺だって日頃から節約してるじゃないか、食材とか日用品とか」
「だ・か・ら!私もできる所から節約してるんじゃない。
やっちゃん、私の食費を受け取ってくれないし」
大変有り難い話なんだが、正直ちょっとやりすぎだと思うけどな。
しかし、大河がこんなに世話焼きだとは思いもしなかった。
「やっちゃんが食費を受け取ってくれたらな…」
「無理だろ」
「そう思うなら、お姉ちゃんの言うこと少しは聞きなさい!」
「大河、学校じゃマズいって」
「分かってるよ〜 だったら竜児も協力してよね」
まだ怒りが収まらない様子の大河について教室に戻ると、殆どのクラスメート達がこちらをチラ見してくる。
物珍しいのは分かってるからお前らもいい加減に慣れろ。
とにかくこの流れで大河と会話を始めるのはマズいな、北村の所にでも逃げるか。
「北村、何をやってんだ?また資料を作ってるんだったら手伝おうか?」
「いや、これは目を通してるだけだから大丈夫だ」
「それにしても、最近はお前たち仲良いな」
「お前たち?」
北村の言葉を疑問に思って振り返ると大河が水筒片手にニッコリ笑ってる。
「北村君もお一つどうぞ」
「おぉ、ありがとう逢坂。丁度なにか飲みたいと思ってたんだ」
にこやかに北村へお茶を渡し、俺にも…ってコップには一口分しか入ってない。
不満を伝えようと大河を見ると、イ〜ッ!と目を閉じ歯を見せ行ってしまった…… 意地悪なヤツだ。
「逢坂は本当に感じの良い子だよな」
「そうか?案外と意地悪かもしれないぞ」
「実体験か?」
「…何だよ、それ」
「ハハハ、偶に親友どうし腹を割って話そうじゃないか!場所を替えよう、密談だ」
「密談?」
北村君また高須君と仲良く話してるな。
何で高須君なんかと仲良くしてるんだろう?悪い話しか聞かないのに…
「麻耶?」
「なに!?奈々子」
「何をそんな難しい顔してるの?」
「何でもないよ!」
「また北村君のことでも考えてたんでしょ〜」
何でいつも奈々子は私の考えてることが分かるんだろ?
そんなに私って態度に出してるかな?
まぁ自分でも頭は良いとは思ってないけど、私って分かり易いのかな?
「違うよ!?」
「じゃあ、何をそんなに考えてたの?」
「あぁ… アレよ、アレ!今日の夕食は何を作ろっかなぁって」
「麻耶、夕飯なんて作ってたっけ?」
「チョ−作ってるよ!毎晩作ってるよ」
「へぇ〜」
「あっ!ママに今日は何を食べたいか聞かなきゃ、ちょっとメールしてくるね」
咄嗟にとんでもない嘘をついてしまった。それも料理上手の奈々子を相手に、バレるのも時間の問題だよね……
まぁ良いか、言っちゃったことはしかたない、何か飲んで落ち着こうっと。
+×+
「ど・れ・に・しよっかな〜♪」
「何にするだ?木原」
「北村君!…と高須君」
「いつも賑やかだな木原は!」
「そうかな?」
「あぁ、いつも明るく元気で良い事だ」
「嬉しいかも!北村君がそう思ってくれるなら」
「そうか、ありがとう。そろそろ何を買うが決めないか?俺たちも買いたいんだが」
「ゴメン!えっ〜と… リンゴにしょっと」ガコ!
「それじゃね、北村君」
最初から最後までそっぽ向いてたな高須君、なんか感じ悪い。
でも北村君、何であんな人と仲良くしてるんだろ?
教室に戻るならそのまま廊下を真っ直ぐ、でも自販機の向かいにある階段を下った。
あの2人がどんなこと話してるのか気になるよね、階下なら気づかれないはずだし。
「逢坂とつき合ってるか?」
「オイ、直球だな!」
この歯に衣を着せぬ物言いが、今の俺と北村の関係を築いてくれたんだけどな。
だから俺は嫌いじゃない。
「……まぁ、お前らしい物の尋ね方だよな」
「そうか?まあ俺は竹のように真っ直ぐ、向かい風にも折れないを信条にしてるからな」
「良い心構えだな。流石は次期、生徒会長候補だ」
「それじゃな!」
「待て、高須。まだ答えを聞いてない」
チッ、話をすり替えようとしたが駄目か…
「どうなんだ?高須」
「…つき合ってない」
「そうなのか?意外だな。あんなに一緒に居るのに」
やっぱりそう思うよな、俺だってこんなに一緒に居る所を見たらそう思うよ。
もう俺は正直どうしたら良いのか分からないんだ、誰かに話を聞いてもらいたいし、相談もしたいんだ。
「逢坂の家が近所なんだ、それで偶に家で一緒に飯を喰ったりしてな」
「そうか、意外な縁があったものだな」
「そうだな、それで逢坂と親しくなったんだ」
こんな話しを安心して出来るのはやっぱり北村しか居ないよな、ついでに俺の悩みも聞いてもらうか。
「俺は分からないんだ。どうすれば良いか、俺の立ち位置がどこなのか」
「内容は分からないが微妙な関係みたいだな」
「あぁ、微妙だ。今は絶妙なバランスで保ってるが、もし俺が動けば全て終わってしまうかもしれない」
「う〜ん、そうか。逢坂の家庭事情もあるしな」
「ハァ!?どうゆう意味だ、北村」
「スマン、知ってるんだ逢坂の家庭事情を」
「知ってるって、何を」
「一年の時に両親が離婚したことだ」
「知ってたのか… でも何故お前が知ってるだ?確かあまり人には話してないはずだぞ」
「逢坂のことが気になっててな。いつもニコニコしてる逢坂が一時期笑わなくなったんだ、それでな」
「それって… もしかして逢坂のことが好きなのか?」
「まぁな、でも正確には『好きだった』が正解だ」
「過去形なのか?」
「あぁ、過去形だ。理由は聞かないでくれ、俺のトップシークレットだからな」
トップシークレット?気になる。
大河に告白して振られたのか?それとも別に好き人もしくは彼女ができた、でも北村はそんな素振り見せたことないしな…
もしかして2人はつき合ってたのか?そして何らかの理由別れた。
「高須、大丈夫か?」
「あぁ!?」
「心配しなくても大丈夫だ、俺と逢坂の間には何も無かったから」
「そうなのか?」
「あぁ、何も無い。それより話をしてて思い出したんだが…」
「何を?」
「コレだ!高須にやるよ」
「んっ?これ大河の写真じゃないか!」
「一年生の時だけどな。別に念とかは籠もってないから安心してくれ」
「そうか…」
「もう、持ってたか?」
「イヤ!大河の写真なんて一枚も持ってない。大切にするよ、ありがとう」
「そうか、『大河』なんて呼び捨てだったから持ってるのかと思ったぞ」
「……つい家での癖でな、誰にも言うなよ」
「あぁ、約束するよ。人の恋路を邪魔するヤツは、昔から自分の恋も失敗するって相場が決まってるからな」
+×+
知らなかった、そんなこと昔の人は言ってたのか。北村君が言ってるんだから間違いないよね。
でも北村君は逢坂さんのこと好きだったんだ、過去の事と分かっていてもショックだなぁ。
あと高須があんなに女々しいとゆうか弱々しい人とは思わなかったな、人は見かけによらない。
+×+×+
竜児は私に隠しごとをしてる。偶に隠れてニコニコしてるし、たぶん良いことがあったに違いない。
でも私が聞いても教えてくれないんだよね、悲しい。
嬉しいことは2人で共有したのにな。
「たいが〜、ちょっとハンガーを2・3本持って来てくれ」
「…は〜い」
ハンガーを持ってベランダに行くと竜児はご機嫌な様子で洗濯物を干してる、私が悲しいのに気づいてくれない。
「オゥ、ありがとう!」
「……ねぇ、なにか良いことあったの?」
「またその話か、何もねぇよ」
「…ごめんなさい」
これで三回目か。最初は教えないことに拗ねてたが、ハンガーを渡して居間に戻れる大河の背中は寂しげとゆうか悲しげとゆうか。
「終わった?お疲れ様でした、お茶入れるね」
アレ?いつもの大河だ、さっきのは俺の勘違いか?
「どうしたの?お茶はイヤ?」
「いや、お茶で良い」
「ちょっと待ってね…… ハイ、どうぞ」
「ありがとう」
いつもと同じように振る舞うほど悲しくなるな。
やっちゃんは泣きたい時は泣いて良いって言ったけど。いま泣いちゃったら、只のわがままになるし。
「大河、さっきベランダで『あぁぁ!』
「やっちゃんが私にお洋服をくれたんだった!試しに着てみよう!」
「えっ?」
「やっちゃんの部屋借りるね、覗いちゃダメだよ!」
「…ハイ」
やっちゃんの部屋で落ち着こう、竜児のこと知りたいのはきっと私のわがまま。
家族にだって知られたくないことだってあるよね。ごめんね竜児、わがまま言っちゃって。
少し落ち着いたらいつもの私に戻るから、ちょっと待ってね。
「大河!」ドン!ドン!
「えっ?!」
「大河!開けてくれ、開けないと部屋に入るぞ!」
「ちょっと待って!」
「早くしないと本当に開けるぞ」
「…なに?」
「やっぱりだ… 泣いてたろ?」
「…泣いてないよ」
「嘘つけ、目が真っ赤だ。そんなに知りたったのか?」
「…違うよ、そんなわがままは言いたくないから」
「じゃあ、何で泣いてる」
「…………」
もうこれは真相を話すしかないだろうな、でも大河は写真のことを知ったらどんな風に思うだろう…
悪い方に考えたらキリがないか、とりあえず話してみよう。
「ほら、これを貰って嬉しかったんだ」
「……わたしだ」
「そうだ、大河の写真を貰って嬉しかったんだよ」
「何で、嬉しかったの?」
『何で、嬉しかった?』って、そう来ますか。
いつもは家族絡みの事だったら何でも『嬉しい』って言うのに、今回も『家族の写真を貰って嬉しかったんだね』でいいじゃないか。
鈍いんだか、鋭いんだか分からないヤツだな。
「…俺は昔の大河を知らないから、見ることが出来て嬉しかった」
「あっ!本当だ、これ一年生の時だ。でも誰に貰ったの?」
「それは言えない、トップシークレットだ」
「トップシークレット?」
「そうだ、だからそれは聞かないでくれ」
「わかった、聞かない」
「でも、何が泣くほど悲しかったんだ?それとも教えなかったから悔しかったのか?」
「だって…」
「だって、何だ?」
「……だって竜児が秘密にするんだもん、せっかく一緒に居るのに… 私は嬉しいことや楽しいことも一緒が良いのに」
「ゴメン… そうだよな、楽しいことや嬉しいことも2人なら倍になるしな」
「でも竜児だって秘密にしたいことあるだろうから、もうわがままは言わない」
「それに本棚の後ろに竜児がエッチな本を隠してるの知ってるし」
「ナンデスト!!」
「家族でも秘密くらいあるんだよね」
「だから竜児が話してくれることだけで良いの、私はそれで満足するから」
「お前はサラッと、とんでもないこと言ったな…」
「なにが?」
「…本だよ、本」
「本?…あぁ、エッチな本のこと?見つけた時はびっくりしちゃったけど、私は別にいやらしいとか竜児を軽蔑したりしないよ」
「……ありがとうございます」
「知ってるよ、男の人はみんなエッチな本を見るんでしょ?だからみんな持ってるんでしょ?」
「ダァァ!この話はもう止め!それに男の前でそんな話をしたら駄目!」
「なんで?」
う〜ん… ここは大河に男の心理ってヤツを教えた方が良いんだろうな、今後の為にも。
でも大河はこの手の話には鈍いからな、へんにオブラートに包んで話しても解ってくれないだろうな。
「大河、時に男は抑えが効かなくなるんだ」
「だからこんな話をして、もし俺がいやらしい気分になって大河に変なことしたらどうするだ」
「泣く」
「泣く?」
「そう、泣く。泣いてる女の子に酷いことなんてしないよね、竜児は」
それを好きな子に言われたら男は何も出来ないだろ… それに『私に触るな!』と言われた様なものだ。
「俺はしないけど、世間には酷いことする男も居るんだ。だから男の『だから!』
「だから、前にも言ったでしょ?私は竜児以外の男の人と2人っきりなんてならないって、忘れちゃったの?」
「いや、覚えてる。そうだったな、ありがとう」
「ありがとう?」
「イヤッ!その、家族が酷い目に合った嫌じゃないか」
「それで大河もちゃんと考えてくれてるんだなぁと思っての『ありがとう』だ」
失礼だな!こんなに一緒に居るのにちっとも私のこと分かってくれないんだから。
「私だってちゃんと考えてるよ、私はガード固いんだから!」
「そうなのか?」
「ひどいよ、竜児…… 私のことちっとも分かってくれない、もう知らない!」
「スマン!これからはちゃんと大河の言うこと聞くからさ、だからいい加減に機嫌を直してくれよ」
「ホントに?」
「あぁ、大河の言いつけもちゃんと守るし、何でも言うこと聞くから」
「何でも?」
「何でも!」
「じゃあねぇ…… 私も竜児の写真が欲しいな」
「そんなので良いのか?」
「うん!写真が欲しい」
それから大河はアルバムを手に取って興味津々に眺めている。
時折、子供の頃の俺を見て『カワイイ!』などと言ってくれてるが正直、
泰子以外で俺を見て可愛いと言ってくれる人間がこの世に居るとは思いもしなかった。
「う〜ん、どれにしょうかな…… やっぱりコレとコレかな。竜児、この2枚貰って良い?」
「あぁ、良いぞ」
「でも高校生になってからのが全然ないよ、なんで?」
「う〜ん…理由はない。ただ撮らなかっただけだ」
「そうか… 今の写真も欲しいんだけどなぁ」
「…………撮るか?一緒に」
「それ良い!2人で撮ろうよ!写真」
それから私の家からデジカメを持って来て2人で写真をたくさん撮った。
でも私はプリントできないとゆう問題が発生、竜児に何度お願いしても家には来てくれなかった。
でも良いんだ。画面は小さいけど、いつでも顔を見れるから。
『おやすみなさい』久しぶりにベッドの中でこの言葉を使った、今夜はきっと楽しい夢が見れるはず。
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