往往にして珍事という物は突然にやってくる。
今日、それは嫌と言うほどに味わった筈の高須竜児の一日は、まだ終わりなど告げてはいなかった。
ここにあるありえざる光景もまたそれを証明する一つであり、認めがたい現実でもある。

なんと、大橋高校の珍獣、手乗りタイガーこと逢坂大河がエプロン(竜児愛用のecoのロゴと葉っぱがチャームポイント)を身につけキッチンに立ったのだ(やや丈は長めか?)
竜児の目から見て、今までおよそ包丁どころかオタマ、引いてはまな板すら触ったことの無いであろう彼女はしかし今、どんな天変地異の前触れかキッチンを貸してと言い出した。
それ自体は構わない。構わない……のだが。
「お前、一体どうしたんだ?」
「何が?」
のらりくらりと先程からの竜児の質問を返しつつ、キッチンでフライパンの上にオリーブオイルを垂らす大河。
すぐ目の前に食用油であるサ●ダ油があるのにだ(エ●ナじゃないよ)
いや、それはまだいい。
しかし、鍋に水とワカメを入れて沸騰させ、その中に桃屋のご●んで●よを入れるのはどういう了見だ?
「お、お前一体何がしたいんだ?」
「何って、料理に決まっているでしょうが。何度も言わせないでよ」
「り、料理……?」
やはり……間違いではなかったらしい。
大河は先程からのらりくらりと質問の答えをかわしていたのではなく、大真面目に『料理』をしているらしい。
しかし、しかしだ!!
「なぁ、キッチン貸してって言うから何事かと思って黙ってたんだが、何で俺に料理を聞かないんだ?」
そう、教えてと言ってもらえれば、否、最初から一人で料理をする気と聞いていればキッチンを逆賊に売り渡すような真似は決してしなかったのに。
竜児のそんな心の葛藤など何処吹く風か、我らが暴君、手乗りタイガー様は仰った。
「私が料理しちゃおかしい?」
おかしい。
もし許されるのなら竜児は即座にこう言っただろう。
無理だ無謀だ止めなさい、と。
しかし、彼女の手には竜児愛用のMY包丁が握られているのだ。
相手は牙を持った虎。
下手な事を言えば何をされるかわかったものではない。
ああ、雨の日も晴れの日も、林間学校にまで持って行き、常に研ぎ澄まして使い続けた竜児MY包丁。
それが、刃こぼれ、切り方、なんて物は一切考慮しない者によって蹂躙されようとしている。
「アンタがさ、やれば出来るって言ってくれたじゃない」
それがよっぽど嬉しかったのか、大河はやる気の塊のようだった。
大河は真剣な顔でまな板の上に乗ったじゃがいもに大上段から思いっきり包丁を振り降ろ「ちょっと待て!!」……させてもらえなかった。
「な、何で止めるのよ!!」
ややご立腹な表情で大河は竜児を睨み付ける。
ここで料理を止められることは、あの時の言葉まで嘘のように思えてしまってならない。

そんな、疑いと憂いの目を、竜児は困ったように三白眼を降り下げ、
「お前、そんなやり方じゃあ手を怪我するぞ」
そっと、優しく大河の手から包丁を奪い去る。
「あ……え……?」
「せっかく白くて綺麗な肌してるのに怪我したら大変だろうが。頼むからそういうことは止めてくれ」
「あ……う……?」
一瞬の怒りの感情は何処へやら。
竜児の行動が自分の身を案じてのことだと知るや否や大河はその場に座り込んでしまう。

「た、大河!?」
慌てて竜児はしゃがんで大河の顔を覗き込むが、大河は顔をしわくちゃにして自分の指を眺めていた。
「き、綺麗……綺麗って言われた……うふふ……」
「おおう……」
竜児は二歩ほどずり下がる。
人の事をとやかく言える目つきではないが、大河のその目は形容しがたい様相を呈していた。
「た、大河、ここは危ないから向こうで待ってろ?な?晩飯は俺が作るから。特別に肉だ、な?」
竜児は大河を両脇から抱えるように「ひゃうっ!?」抱きかかえ、居間にある卓袱台の前に座らせる。
ボロと言われれば肯定しか出来ない木造二階建て戸建の南向き2DK。
決して広くはなく、大河の住むマンションによって日照不足も強いられているここが、高須竜児の家だった。



大河を座らせ、キッチンに舞い戻った竜児は安堵の息を吐いた。
「……助かった」
目の前にはMY包丁。
これがあんな風に振り下ろされたり、誤って振り回されたりされようものなら目も当てられない。
包丁も竜児自身もバラバラになっていた可能性すらある。
「さて……」
幸い、キッチンはまだ汚れてはいない。
竜児は即座にエプロンを着込むとフライパンを見つめ、次いで新たに鍋を取り出した。
その鍋に水を入れてコンロへ。
すでに大河が作っていた謎の鍋はご●んで●よだけを綺麗に掬って山車を入れる。
先ほどの別の鍋が沸騰しだしたところで、竜児はパスタを取り出し湯で始める。
と、同時にひき肉、タマネギをみじん切りにし、ついでにトマトを用意。
山車を入れた鍋には味噌を溶かして少し暖めた後、一旦コンロから退場願い、もう一つのフライパンで先ほど用意した物を炒めだす。
流れるような動きで竜児は料理をする。
そんな竜児を、大河はボーッと見つめ、次いで自分の手を見る。
─────ニヘラァ。
締りの無い口元を隠そうともせずに大河は口元を緩める。
(傷つけたくない、だって)
ぐふふ、と大河は左手の薬指を触る。
先ほど、竜児が特に触ったのが『偶々』ここだったのだ。
(ここ、傷ついて欲しくないんだ……むふふふふ……)
竜児のよく動く背中を見ながら、大河は次いで自分の体を抱きしめる。
(さっきなんて、抱きつかれちゃったし。竜児ったら意外と大胆ねぇ)
……断じて抱きついたわけではないが、それは本人達の預かり知ることではない。
(で、でも、『妻』としてご飯は作りたかったわねぇ、せっかく目玉焼きとお吸い物を作ろうと思ってたのに……)
……じゃがいもは何に使われるハズだったのだろうか。
そんな、話を聞いていれば誰かがツッコミを入れるであろうことも、口には出していないため、誰からもツッコミを入れられる事はない。
と、竜児が振り向き、
「なぁ大河」
「え……何?」
「お前、料理したいならやっぱ俺と一緒にやろうぜ、な?」
いろんな意味で平和を護るためにも、と内心思ったことは言わずに提案する竜児。
「あ……うん」
それに納得し、またも口元を緩める大河。
(一緒にお料理、こ、これが夫婦の営みって奴なのね……?)
ウンウンと大河は一人納得したように頷き、
「わかってくれて何よりだ」
竜児も安心したように料理を続ける。
(夫婦理解キタ─────!!)
大河の脳内麻薬はマキシマムに分泌され、正常な思考回路を麻痺させる。
「竜児!!」
つい、立ち上がって大河は竜児の背後から抱きつく。
「おわぁっ!?急に何だ!?飯か?もうちょっと待て!!今ついでに明日の下ごしらえを……」
焦る竜児。それはそうなのである。何故なら竜児は包丁を持っているのだから。
万が一にも女の子の肌を傷つけるわけにはいかない。
しかし、そんな竜児の驚きすら、
(照れてる照れてる)
独自の解釈で納得する思考回路はショート寸前がここに一人。
流石は脳内麻薬マキシマム。最高にHIGHとなった大河は、竜児に向かって顎を突き出し、目を閉じた。
「竜児、今日のキスは?」
「おう?今日のキスか?何だ楽しみにしてたのか大河?けどキスは明日だぞ」
「えーっ!?」
大河は不服そうに唸りながらも、竜児から離れる。
(まぁ、そうよね。いきなりはないか。でも明日は……キャッ)
むふむふ笑いながら、大河は卓袱台へと戻る。それを見届けながら、
(今日買ったキスが楽しみだったとは、可愛い奴め)
竜児はニヤリと口元をゆがめ、普段からの三白眼をギラリと光らせ、再びまな板に向き直り、キス、つまり鱚の下ごしらえの続きをしだす。
正式名称シロギス、和え物にすると美味しいのだ。
……気付いていない勘違いってのは恐ろしい。脳内麻薬マキシマムの名は伊達じゃない。


***


現在時刻PM11時59分00秒。
あと一分を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分15秒。
あと45秒を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分20秒。
あと40秒を持って今日は終わる。
「………………」
先ほどから眠れず、何度も時計とにらめっこをしているのは、大橋高校の生きる伝説、手乗りタイガーこと逢坂大河。
段々と時計を見る頻度が早くなってくる。
天蓋付きのベッドでごろんと横になり、タオルケットをお腹にあてているが、その目は些かも眠りに誘われてはいない。
ただただ待っているのだ。
日が昇る……いや、今日という日が終わり、『明日』が来るのを。
大河の脳内に、とある台詞がリピートされる。

─────おう?今日のキスか?何だ楽しみにしてたのか大河?けどキスは明日だぞ─────

現在時刻PM11時59分57秒。
あと三秒を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分58秒。
あと二秒を持って今日は終わる。
「………………」
現在時刻PM11時59分59秒。
あと一秒を持って今日は終わる。
僅か数秒がもどかしい。
一日千秋とはよく言ったもので、体感速度は一秒数日程にも感じられる。
しかしそれも……。
現在時刻AM00時00分00秒。
「き、来たわ……来ちゃったわ。とうとうこの日が来てしまったわ!!」
ばっと起きあがる。
今日はすなわち昨日から見て明日。
今の彼女の思考に、時間なんて概念はそこに介入されない。
重要なのは昨日から見ての明日という事実、ただそれのみ。
「行かなきゃ」
大河はばっとワンピースパジャマを脱ぎ捨てる。
クローゼットにある制服を取り出し、袖を通す。
Yシャツを着込み、次いで赤い上着。
可愛い白のショーツを隠すようにしてスカートを装着。
トン、と素足をベッドに乗せ、黒いニーソックスを足の先から履いていき、かかとが入ったと同時に一気に引き上げる。
準備万端。
むっと隣の家、竜児の部屋の方を一睨みしてからドタドタと部屋を後にする。
鞄をひっつかみ、そのまま部屋を出ようとして……しかしピタリとその細い足を止めた。
「………………」
急ぎ足を戻して等身大の姿見の前に立ち、髪の毛をチェック。
慌てて櫛を取り出してサラサラとブラッシングを始める。
……右良し、……左良し、……前髪良し……OK。
ほっと安堵して時計を見、
現在時刻AM00時16分40秒。
「なんてこと!?もう1,000秒も経ってるじゃない!!」
駆け足で家を出ようとノブに手をかけ……やっぱり止まる。
思い出したように洗面所に向かい、
ゴシゴシ……ゴシゴシ。
口の中に無造作にハブラシを突っ込みこれでもかと歯を研磨する。
ゴロゴロ……ペッ。
最後にうがいを終え、今度こそ急ぎ足で部屋を後にした。



足は歩くから早足へ。
早足から駆け足へ。
駆け足から最後には全力疾走になっていた。
あの時、夕方の学校で北村祐作を追いかけるのに出せなかった本気のスピードが今遺憾なく発揮される。
現在時刻AM00時26分40秒……確認。
息を乱すことなく、しかし若干鼻息は荒くなりながら高須家の扉に手をかけ……ガギッ!!……ガギッ!?
「……あれ?」
ガギッガギッ!!
どうやら鍵がかかっている模様。
当然である。気配りの高須たる称号を持つあの竜児が鍵を閉めない道理は無い。
「……そう、そういうこと」
しかし、相手は生きる伝説、手乗りタイガー。
「……ふぅん、面白いじゃない」
その程度の障害、乗り越えられなくて何が伝説か。
「……見える、見えるわ竜児、私にも貴方の考えが見える!!」
今日の……いや昨日からの大河は絶好調だった。
ストッパーの壊れた……否。
そんなものは最初から無いF1カーのごとく大河は走り出す。
自身のマンションのロビー……を突っ切りエレベーター……などは使って等いられない。
階段を一気に駆け上り再び自身の部屋へと舞い戻る。
ガチャンとドアを開け飛び抜けるように部屋を突っ切り寝室へ。
ガラリと窓を開ければほら、そこには。
「そう、これは竜児による恋の試練」
かつて高須家への侵入に使ったベランダ。
竜児の思惑云々はともかく、ここからなら高須家のへの来宅……もとい不法侵入は可能だろう。
現在時刻AM00時28分10秒……確認。
脅威のスピードでここまで彼女は戻ってきた。
運動部がその様を見たならどこも引く手数多だったろうが、幸か不幸か目撃者はいない。
そしてそれは彼女を止める者もまたいないことを示し─────
「とぅ─────」
─────ひらりとスカートが舞い、隠れた三角の秘境がアングルによっては絶妙に見える……までは行かない─────
ドン!!と音を立てて着地した彼女に犯罪まがいの家宅侵入を再びをさせるには十分な結果となる。
そして、先程彼女の見た?通りこのベランダの鍵は……開いていた。
気配りの高須らしくないと思う無かれ。
ここから侵入できる輩など、彼女以外にはいないのだ。
それはつまり、彼にとってここは鍵をかけるに値しなく、またそれだけの信頼も彼女にはあるのだ。
「そう、つまり竜児は私を待っているのよ」
……かどうかは定かではないが。
だが、鍵は開き、逢坂大河の入室を許してしまったのは紛れも無く……変えようの無い事実。
ガララ……と静かにガラス戸が開き、もう彼女を阻む物は何も無い。
「………………」
強いて言うなら、この暗闇とすでに目の前にある薄い戸一枚と言った所か。
大河は、一呼吸置き、ごくりと息を呑んでから戸に手をかけた。
現在時刻AM00時33分20秒……確認。
日付を超えて、既に2,000秒が経過していた。



スラッと静かな音を流して戸を開く。
そこには、もう幾日も顔を会わせていなかったような錯覚すら思わせる彼、高須竜児の寝姿があった。
犯罪者の一歩先を行くような三白眼は閉じられ、規則正しい寝息を立てて、思い人はすやすやと布団で横になる。
恐らく、夕飯のミートソース(一応肉だ)を二人で食べた後、興奮していた大河があっという間に帰ってしまったので竜児も早めに床についたのだろう。
「……寝てる」
呟いて、力が抜ける。
拍子抜け、とでも言うのだろうか。
先程までの燃え、いや萌え滾るような情熱はどこかへと吹き飛んでしまい、あるのは耳に届く竜児の寝息のみ。
冷静になった頭で、竜児の頭の近くに正座して座り、顔を覗き込んでみる。
「……スー……スー……」
何の表情も映さない無垢なる竜児の寝顔は、見ているだけで今までに経験したことが無いほど心静かになれた。
「可愛い……かも」
閉じられた竜児の顔を見て、ついそう声を漏らす。
本人が聞いていれば、顔をウサギの目よりも赤くして驚き照れた事だろう。
今までに恐いと言われた事こそあれ、可愛いなどと言われた事のおよそ無かった竜児。
彼は今、自分の預かり知らぬ所でその顔が恐い以外の評価を受けた事を知らずに眠り続ける。
大河はその竜児の様を眺め続けた。
不思議と退屈はせず、むしろ飽きるなどという兆候すら見られない。
何事も飽きっぽいと自覚する自分がここまで一つのことを行うのは珍しいとも感じる。
現在時刻AM02時30分00秒。
気付けば、竜児の寝顔を見ているだけで二時間もの時間を消費していた。
しかし、飽きることは無い。
胸が膨らんで、萎む。
口が開いて、閉じる。
僅かに身じろぎ、時々寝返りをうつ。
そんな些細な竜児の動作を見続けているのが、胸の中から温かみをもって喜ばしく感じる。
普段なら正座しっぱなしの足がとっくに痺れている頃だろうに、そんな感覚すらも無い。
いや、それは恐らく気付いていないだけだろう。
いつしか、大河は目を擦り、船を漕いでいた。
こっくり……こっくり……と首が上下する。
「……ん、竜児……キス……」
その言葉を最後に、大河はパタンと竜児のお腹の上に頭をのせる。
同時に足を崩し、女の子座りになって、
「……スー……スー……」
静かに眠りにつき始める。
お互いの胸の動きが連動し、まるで合わせるかのように呼吸音が無音の闇に唯一の音となって響く。
日が昇るにはまだ時間があるがしかし、眠っていられる時間はそう長くは無い。


現在時刻、AM02時46分40秒─────


***


犯罪を犯した者は得てして、
「俺に身に覚えは無い」
などと言う。
対して、冤罪をきせられた者は、
「俺はやっていない」
などと言う。
簡単に言って、言葉での区別などつかない。
「でも、それでも、俺は何もやっていないんだ」
区別がつかないから、その言葉は信じてもらえるかは相手次第。
たとえそれがガリレオ・ガリレイのような言い回しをしたとしても、そこにはミジンコ一匹分もの温情措置すら入らない。
だが、だからと言って目が覚めたばかりの高須竜児は収まらない。
何が収まらないって……それはまぁいろいろだ。
彼も男だ。
今は朝だ。
いろいろあるのだ。
うん、そういうことにしておいて欲しい。
ここでは深く、詳細な描写はしないクオリティでお願いしたいというのは些か我が儘な望みだろうか。
目覚めたばかりの頭で高須竜児は考える。
それは決して我が儘な望みでは無いと。
むしろ、そうある方が世の為人の為、そして何より自分の為であると。
閑話休題。
そのような現実逃避にも似た思考のエスケープを果たしてからようやく、今ある現実に再び向き直る。
今居るのは、自分の部屋─────確認。
自分は今目覚めたばかり─────確認。
やましいことは何もない─────確認。
見えるのは茶色の髪の毛─────確認。
自分の上に乗ってる何か─────未確認。
時々動いて声を発してる─────未確認。
それは俺の知ってる奴だ─────未確認。
逢坂大河が俺の上にいる─────未確認。
「俺は何もしていない」
ウン、と一つ頷く。
が、これを誰かが見れば、誰もソレを信じてはくれないだろう。
「いや待て、大河は制服を着ているじゃないか!!」
しかし竜児は無謀にも言い逃れをし、可能性に縋り付く。
その様は滑稽と言うに相応しく、そういった輩には天誅ならぬ人誅がくだるものである。
「……ん」
小さい、本当に小さい声を上げて大河はぱたりと動く。
ファサ……と赤い上着がはだけ、Yシャツのボタンが上から四個程外れている。
(ってそれ、ほとんど半分以上じゃねぇか!?)
今朝からいろいろある竜児は、やっぱりいろいろな理由で、さらにいろいろ重なり合って、詳細にしないクオリティがいろいろなことになる。
「……俺は何もしていない。俺は悪くない、俺は何もしていない、俺は何も悪く無い」
念仏のように唱えるその言葉は、既に有罪判決を受けた容疑者のソレに等しい。
「ふぁ……んっ」
「うがぁっ!?」
しかし、それもここまで。
天誅ならざる人誅がここにくだる。
大河の姿勢が段々とズレ始めていたのは気付いていた。
最初、竜児のお腹にあった頭は段々と足の方へと移動し始め、大河の顔が竜児の顔に近づかないのはこれ不幸中の幸いと踏んでいたのだが。
最後の大河の一声と共に、黒いソックス……もとい足蹴りが跳んで来る。
先程から、無実をブツブツ連呼する竜児も、『何故か一箇所に視線を向けていた』せいもあって、それをよけることは出来なかった。
蹴りを顔面に食らった竜児は、スローモーションに仰け反り、空中での自分の自由意志などは働くはずもなく、ただ一点を見ること強いられる。
揺れるスカート。その秘奥、神秘とも呼ばれる天の園。
真っ白い、男が見るには憚られる……三角のソレを。
無論、相手はこの事を知る由も無ければ意図も無い。無いが、しかし。
「……俺は悪……いことをしてしまった……」
布団に落ちた本人に、罪の意識を与えるには十分だった。


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