時刻はそろそろ金曜から土曜へと日付が変わろうかという頃。
 リビングで婚約者の帰りを待つ大河は、不機嫌顔から次第に心配顔へと。
 確かに遅くなるとの連絡はあったものの、それにしたって遅過ぎではないだろうか。
 と、ドアの開く音と共に、
「ただいま〜」
 聞こえた竜児の声に大河は瞬間表情を輝かせるが、いやいやと首を振って再び不機嫌顔を作り、わざと荒く足音を立てながら玄関へ。
「竜児!あんた今何時だと……」
 大河が絶句したのもむべなるかな。なにしろ竜児はといえば地獄の鬼もかくやといわんばかりの赤ら顔。
「ちょっと竜児!?どうしたのよ?」
 竜児はふらふらと玄関を上がり、
「おう大河、マイスウィ〜トハニィ〜♪」
 ふにゃふにゃともたれかかるように大河に抱き付く。
「お酒臭っ!それに……香水?ちょっと、あんたどこに行ってたの!?」
「おう、キャバクラだ」
「キャバっ……!あんた、私というものがありながら……!」
「仕方ねえだろ、課長に無理矢理付き合わされたんだから。それとも黙って隠してるほうがよかったか?」
「う……それは……でも、それにしたって言い方ってものがあるでしょ!大体あんたはデリカシーが……」
「俺はデカ尻ーより大河の小さな尻の方が好きだな〜」
 むにっ。
「あっ、あんた、どこ触ってるのよっ!?」
「尻」
「即答すんなこのエロ犬っ!」
「安心しろ大河!俺がエロ犬になるのはお前にだけだ!その証拠に店の女の子に迫られてもピクリとも反応しなかったからな!」
「そういう問題じゃないっ!つか、揉むなーっ!」
「……おう、そうか!」
「わかったらちょっと離れて……」
「下だけ揉むんじゃバランス悪いよな。ちゃんと上にもいかねえと」
「っ!そうじゃな……ひぁっ!」
「大河、愛してるぜ〜」
「ちょっ!ちょっと待って竜児!っ!」
「やだ。こんなに可愛い大河を前にして待てるわけねじゃねえか」
「せ……せめて、ベッド、でっ!」
「駄〜目。俺もう我慢出来ねえから。ほら、ちゅ〜」
「そん、んむっ!?ん〜〜〜〜っ!!」


「はい竜児、梅干湯」
「おう、すまねえ……」
 竜児がどんよりと落ち込んでいるのは二日酔いのためだけではない。
「竜児……さっきからそればっかり」
「ほんっと、すまねえ……」
 なにしろ昨夜の醜態を一つ残らず記憶しているのだ。
「……謝るくらいなら、なんであんなになるまで呑んだのよ?」
「いや、ホステスがやたら媚び媚びと迫ってくる店でさ……それかわすのに酒呑んで誤魔化してたら、いつの間にかけっこうな量になってて……その前の店でもそれなりに呑んでたし……」
「そんなんでよくきちんと帰ってこれたわね?」
「実は、玄関まではそれなりに正気保ってたんだけど……その、大河の顔見たら安心して箍が外れちまったというか……」
「ふうん……」
「それで大河にあんなことしちまうなんて……俺は、俺って奴は……」
「……そこまで自分を責めなくても……」
「決めた。俺は金輪際酒は呑まねえ」
「そいうわけにもいかないでしょ。それこそ付き合いだってあるんだし」
「いや、二度と大河に嫌な思いをさせるわけにはいかねえから」
「その私が許すって言ってるんでしょうが。もちろん程々にだけどね」
「お、おう……すまねえ」
「……それに、たまになら……その、強引なのも、悪くないし……」
「……え?」

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